脱!マイナス思考。~私の母はパチンコ依存症~ -11ページ目

借金発覚から■8■

振袖が集まる会場で
私はある振袖に心を奪われた。

渋い赤の生地に黒の模様。はっきり言って着る人を選ぶデザイン。

「お母さん、私これがいい!!」

「・・・なんか若い子が着る感じじゃないねぇ。
もっと可愛らしいのにしたら?」


「これがいい。」

可愛らしい着物は私には似合わない。
そう思ったのだ。

しかしその振袖はレンタルではなく、買取だった。
買取なんてもったいない、レンタルで充分と思っていた母はびっくり。

「買取なんて高いよ。しかも1回しか着ないんだし。
他のものを探そう、ね?」


「・・・・・・・。」

私自身、レンタルのつもりだった。でもどうしてもこの振袖が着たい。
レンタル価格が10万円からある中で、
この振袖の買取価格は40万円くらいだった。

「・・・・じゃあお母さんも少しなら出してあげるから、
ローン組んだら?」


「ローンかぁ・・」

親に似ずローンを組んだことがない私。
「ローン=借金」という感覚なので悩んだが・・・

3年後には妹も成人式があるのだから買ったほうが安いかも

そう思い、ローンを組むことにした。

自分の成人式の為の振袖を自分で買う。
私の中では当たり前のことである。

借金を抱えた母に、そんなこと頼る気にもならない。

しかし母は月のローンの内、5000円を出してやると言った。

「お母さん、でも大丈夫なの?」

「大丈夫よ、金融会社からの借金も2件になったし。
まぁ、5000円しか出してあげられないけどね。」


「ありがとう。お母さん・・」

少しでも費用を出してくれるということ。
それが素直にうれしかった。

もし母がパチンコから心を断ち切っていなければ

「その費用があればパチンコへ行けるのに」

こう思うだろう。
でもそうじゃなかった。

母はやっと元の母に戻ったのだ。


振袖の会場からの帰り道、
今までの母の対する疑いの気持ちが、
すーっと消えたのを感じた。

だが私の成人式は
後に最悪のものとなるのである。


つづく。。


借金発覚から■9■

むしぱん と ケーキ

絶食が4日間。
流動食が7日間。
三分粥、五分粥、七分粥と
ご飯の状態が通常に近づくと同時に、私の体も通常に近づく。

あれだけ食欲がなかったのにね、
元気になると食べたいモノが浮かぶようになる。

不思議だ。

ご飯が一般食になる頃には、甘いモノが欲しくなった。

「お菓子は食べちゃいけないですか?」

私の問いに看護婦さんが笑う。

「元気になった証拠ね、良かった。先生に聞いてあげるわ。」

しばらくすると放送で呼ばれる。

「先生からお話があるって。カンファレンスルームに来てね。」

お菓子を食べたいなんて言ったから、怒られるのかな?

違った。

検査の結果を伝える為だった。

残念な結果だったけれど、お菓子は食べていいらしい。

「でもスナック菓子は油モノだから、ゼリーとかにしてね。」

売店の手前に電話ボックス。旦那様に電話する。

「お菓子食べていいって。でも検査結果はやっぱりダメだったよ。」

「・・・・・・。」

「これからお菓子買うんだ♪
結果なんていいよ、お菓子食べられるなら。」


「そうだな。早く元気になれよ。」

売店で蒸しぱんを買う。
ひどくヌルイ蒸しぱんを冷蔵庫へ入れた。

ショックだから食べられないんじゃない、

ヌルイから食べないんだ。



次の日は猛暑だった。
見舞いに来る人は皆、汗だくだ。
午後3時を回るころ、やっと私は蒸しぱんのことを思い出した。

「3時のおやつにし~よう」

冷え冷えの蒸しぱんにかじりつこうとしたその時、
廊下を歩く見舞い客と目があった。

「あっ!!」

旦那様だった。

「お前、何食ってんだ!!」

思わず、2人で笑う。
今まで考えてたこと、どうでもよくなった。

「せっかくケーキ買ってきたのにー。持って帰るぞ。」

「あっ、ケーキ!!これどうしたの!?」

「どうしたのって、買ったんだよ。いらないのか?」

「いるいる!!ありがとう!!
ってか買いすぎだよ、コレ。私まだ完全じゃないんだからさ。」


ケーキは4つもあった。

「そっか、そうだな。いつもなら平気だけどまだ病人だもんな。」

「ひどーい。せいぜい3つだよー。」



私の大好きなイチゴのショートケーキ。
外してないのはさすがだね。

ミスドでもスタバでも、自分で注文するのを恥ずかしがって
いつも私に頼んでいたあなた。


今日、どんな思いでこのケーキを買いに行ったのかな?


ショーケースの前で、あなたが恥ずかしそうに選ぶ姿を想像して
少し、にやけてしまったよ。




ありがとう。



本当にあの時、うれしかったよ。


借金発覚から■7■

あれ以来、私達家族の中はギスギスしていた。

母の帰宅が少しでも遅くなるものなら
パチンコへ行っているのではないかと不安になる。
玄関先で「行った」・「行ってない」の言い争いが多くなった。

そのうち、母がどこかへ出掛けようとすると

「パチンコ屋へ行くんでしょ!」

そう言ってしまう私がいた。

ただの買い物の時だってあっただろう。
しかし、そう思えないのだ。

私は母の行動に過敏になっていた。

いや、なりすぎていた。

そんな私の行動が
母を一層パチンコへと向かわせていることも知らずに・・

この家に、母の居場所は無くなっていたのだ。

一方、消費者金融からの借金は返済出来ていた。
銀行のATMで返済していた母。
母がきちんと返済しているかを、私は毎月ATMの明細書でチェックしていた。
もう少しで1件が完済するところまできていた。

「こうやって返済出来ているんだし、
お母さんももう、パチンコやってないんじゃない?」


妹が言う。
そうかも知れない。

もしやってても、キチンと返済出来てるなら、
ちょっとくらいいいと思うな、パチンコ。」


「そうだね。他人の迷惑にならないのならいいかもね。」

家族が家族のことを疑うのは良くない。
私は母を信じて見ることにした。

数ヵ月後1件完済し、消費者金融からの借金は2件となった。
私も母の作った借金(信販会社からの借金)を完済した。

私は成人式を控えていた。

「お母さん、成人式の振袖、一緒に見に行かない?
自分じゃどれがいいのか分からなくて。」


「しょーがないわね。
お母さんのセンスの良さ、発揮しちゃうよ。」


母との関係も徐々にではあるが戻りつつあった。


つづく。。


借金発覚から■8■

切なすぎる思い出。



アーティスト: 浜田雅功と槇原敬之, 松本人志, 槇原敬之
タイトル: チキンライス




最近涙もろくて困る。
結婚してから、何故か急激に涙もろくなった。

何度か書いているが、私の家は貧乏だった。

母と妹との3人暮らし。
家はもちろん借家で築20年以上だったし、
最初の家はお風呂も無かった。
車も無い。

欲しいものなんてあっても言えなかった。
それが誕生日であろうと、クリスマスであろうと。
言えば、親が困ることを子供ながらにして分かっていたのだ。

何歳ぐらいの時だろう。
母は、誕生日のお祝いに私達姉妹を外へ連れ出した。

「今日はお誕生日のお祝いに外食しましょう」

外食なんてめったに出来ない。私達は喜んだ。
外食といっても、高級レストランではなく、いわゆるファミレス。
それでも本当にうれしかった。

「何食べよう?何食べよう?」

ファミレスへ向かうバスの中、妹と2人で話す。

わくわくしていた。

ファミレスに着いても、慣れてないせいかどうにも落ち着かない。

「メニューでございます。
お決まりになりましたらブザーを押して下さい。」

手渡されたメニューを見て驚いた。

ハンバーグだけで1000円もする。

これを見て高いととるか、安いととるかは人それぞれだろう。
私は高いと思った。
3人分を頼めば3000円である。
バス代だってかかっているのに・・


「もう決まった?ブザー押すよ。」

「まだ決まってない。ちょっと待って。」

どうしよう。こんなに高いなんて・・
もっと安いものは・・

「相変わらず優柔不断ねぇ。」

「あっ!」

680円。
それはハンバーグセットという、ライス・スープ付きのものだった。
これなら1000円より安いし、スープも飲み放題だ。

「お母さん、私これにする!!」

「ハンバーグセットね。
あら、お姉ちゃん
こっちの1000円のハンバーグの方が美味しそうよ。
こっちにしたら?」


「いや、これがいいの。」

「じゃあ私も!」妹も同じものに決める。

「2人とも遠慮しなくていいのよ。お祝いなんだから。」

「遠慮なんてしていない」

私と妹は声を揃えて言った。
妹もまた、私と同じことを考えていたのだろう。

680円のハンバーグセットはとても美味しかった。

「美味しいね! ね、お母さん!」

「美味しいね。良かったね。」

「今日はありがとう、お母さん!」

ファミレスからの帰り、バスの中。
私と妹はまだ余韻にひたっていた。

「お母さん、お姉ちゃんたらスープ2回もおかわりしてたんだよ」

「そういうアンタだっておかわりしてたじゃない。」

「2人とも食いしん坊だねぇ。。」

その日の夜は寒かったけれど、温かかった。。


「チキンライス」を車の中で聴いた時、ふと、こんな昔を思い出した。


「この歌、どう思う?私泣いちゃってさ・・」

「別に泣きはしないなぁ。」

やっぱりそうか。

お金に苦労することなく育った旦那様にはピンとこないのだ。

それはそれで、幸せなことだと思う。

だからと言って貧乏だから不幸だとは思わない。

少なくともあの時、私達親子は幸せだった。

確かにお金は無かった。

けれどお互いがお互いを思いやる、そんな愛情があったからだ。


だからこそ、今の現状が辛い。

あの暖かい家庭は、もう戻ってはこないのだ。





借金発覚から■6■

母がパチンコを再びやりだした。
その事実を、私は最悪のパターンで知る。

「もしもし、おねえちゃん??」

彼氏とドライブ中。
母から携帯に電話がかかってきた。

「今どこにいるの?すぐこっちに来れない?」

「今彼氏といるんだけど・・何かあったの?」

「お金貸してほしいのよ。1万でも2万でもいいから。
今じゃないと困るのよ。」


「・・えっ・・??」


お金という言葉に、思わず私は顔をしかめた。


「どうしたの?何かあった?」

私の様子がおかしい事に気づいた彼氏が心配する。


彼氏にだけは知られたくない。


「お母さん、とりあえず今からそっちに行くから。
場所どこ?」


母から場所を聞いた私は
彼氏にお願いし、その場所まで連れて行ってもらった。

「お母さんに何かあったのかい?」

「・・・なんだか興奮していてよくわからないのよ。
とにかく行ってみる。」


彼氏を車に待たせ、母の元へ走る。
ショッピングセンターの前で待っていた母はひどく苛立っていた。

「遅いじゃない!早くしないとダメなのよ!!」

「こっちは彼氏とデート中なのよ。どうしたのよ。」

「あんた、今いくら持ってる?」

「えっ!?」

「早く!お金頂戴よ!台そのままにしてきてるんだから!!」

ショッピングセンターの裏手には、パチンコ屋があったのだ。

「・・・・!!」

呆れて声も出ないというのは、こういうことなのだろう。
母はパチンコをしていることを隠すどころか
私に軍資金を要求したのだ。


情けなかった。

「今、手持ちがあまり無いよ。。。」

言わなければいけない言葉は、こんな言葉じゃない。
何故だろう?人は驚くとおかしなことを言うもんだ。

「そこのキャッシュコーナーで下ろしなさいよ。」

私は母の言葉に素直に従った。
2万円を下ろし、母に渡す。

「あー助かったわ♪ありがとね!」

そう言うと母はパチンコ屋へと走っていった。


怖いくらい笑顔だった。


どうしてお金を渡してしまったのだろう。

私は酷く落ち込んだ。

けれど、もしお金を渡さなかったら・・???

母はまた消費者金融にお金を借りにいくかも知れない。


いや、絶対に行くだろう。


消費者金融に借りれば利息がつく。

それに伯父達の厚意を無駄にしたくない。

そんなところから借りるよりは。。


自分の行動は正しかったと、自分に言い聞かせた。


そうでも思わなければ私は

彼氏の元へ帰ることが出来なかったのだ。


つづく。。

借金発覚から■7■