家族の多様化と遺族年金
家族のあり方が多様化しています。夫婦と子どもという家族だけではなく、シングル家庭の増加、祖父母が孫を育てるケース、事実婚の夫婦と子どもなど、さまざまです。民法改正の論議もあり、家族とは何かが、今後はもっと話題にあがるだろうと思われます。遺族年金の場合、圧倒的に妻が受給するケースが多いのですが、家族の多様化に合わせて、妻ではない遺族年金の受給権者が増えるだろうと思われます。そこで今回は、子どもが受け取る遺族年金事例について解説します。
ある家庭でのできごと
大変に不幸なできごとですが、30歳代の共働き夫婦A夫さんとB子さんが交通事故で亡くなりました。残されたのは、1歳のC子ちゃんです。突然両親を失ってしまったC子ちゃんの養育について、親族で話し合いが行われました。B子さんの両親はすでに亡くなっています。A夫さんには両親(C子ちゃんの祖父母)がいますが、高齢で病気もありますので、C子ちゃんを育てることはできません。そこで、祖父母ができる限り協力しながら、A夫さんの姉がC子ちゃんを養育することになりました。C子ちゃんは、伯母さん宅に引き取られることになったのです。しかし、姉は独身で、仕事も持っていますし、今後結婚するかもしれません。当面、C子ちゃんは伯母さん宅に住み、祖父母の家を行き来しながら生活することになります。このような状況でのC子ちゃんの遺族年金について考えてみましょう。
遺族年金の受給権
亡くなった両親は、20歳代からずっと会社に勤務し、厚生年金に加入していましたので、死亡した者の要件を満たしています。遺族基礎年金を受けられる遺族とは、死亡当時、死亡した人に生計を維持されていた年金法上(18歳の年度末まで、障害等級1、2級の場合は20歳未満)の子のある妻、または子です。遺族厚生年金を受けられる遺族は、死亡した人に生計を維持されていた配偶者、子、父母、孫、祖父母です(妻以外には年齢要件などがあります)1歳のC子ちゃんには、遺族基礎年金と遺族厚生年金の受給権が発生しました。両親が亡くなったので、父親の死亡による遺族年金、母親の死亡による遺族年金と、ふたつの権利が発生しましたが、複数の年金受給権がある場合は、いずれかを選択します。父親の死亡による遺族年金額の方が多ければ、多い方を選択することになります。遺族基礎年金は、792,100円。遺族厚生年金は、短期要件による計算式で計算されます。短期要件では、厚生年金加入月数を300月とみなして計算します。
遺族年金の失権
失権とは、権利そのものを失ってしまうことです。いったん失権すれば、その受給権が復活することはありません。遺族基礎年金・遺族厚生年金の失権は、死亡したとき、婚姻したとき、直系血族または直系姻族以外の者の養子になったときです。もちろん、18歳の年度末に達し、年金法上の子ではなくなったときは失権します。C子ちゃんの場合も、祖父母、あるいはそのほかの親族、他人、いずれの人に養育されても、死亡、あるいは婚姻することがなければ、遺族基礎年金と遺族厚生年金は18歳の年度末まで受給できます。ここで問題となるのは、「養子縁組」の場合です。今後、C子ちゃんが養育者と養子縁組をするとなると、遺族年金に影響が出ます。直系血族・直系姻族以外の養子になったときには、遺族年金の権利は失権します。例えば、C子ちゃんが、祖父母と養子縁組をした場合はどうなるでしょうか。祖父母は直系血族ですから、養子縁組をしたとしても、遺族年金は失権しません。それでは、A夫さんの姉、C子ちゃんからみると伯母と養子縁組すればどうでしょうか。伯母は傍系血族となりますので、失権事由である「直系血族・直系姻族以外の養子になったとき」に該当しますので、遺族基礎年金と遺族厚生年金はいずれも失権します。伯母さんに引き取られても、遺族年金のことを考えると、年金の受給権がある間は、養子縁組は慎重に考えた方がよいということになります。
孫が受ける遺族年金
仮に、C子ちゃんが今後、祖父母に養育されることになれば、祖父母の死亡による遺族年金は、どのように孫に影響するでしょうか。祖父が亡くなったとしても、亡くなった祖父の妻である祖母が生存していれば、孫は祖父の遺族年金を受給することはありません。しかし、祖母が先に亡くなり、そしてその後、祖父が死亡した場合、亡くなった祖父によって生計を維持されていたC子ちゃんには、祖父の遺族年金の受給権が発生することになります。しかし、いくつも年金をもらうことはできませんので、有利な年金を選択します。これはまた別のケースですが、夫婦が離婚し、子育てが不可能になり、子どもを祖父母が育てているというケースもあります。このような場合、養育者である祖父母の死亡によって、孫に遺族年金の受給権が発生することもあります。
離婚後の家庭における遺族年金
C子ちゃんの事例から、両親が同時に亡くなったというケースで解説してきましたが、離婚後の家庭で、親が死亡し、遺族基礎年金と遺族厚生年金の受給権が発生したというケースで考えてみましょう。一緒に暮していた親が亡くなり、要件を満たせば、子どもは遺族年金を受給できます。しかし、一緒に暮らしていた親の死亡後、別れて住んでいた実の親に引き取られるということもあります。その場合、実の親と生計をともにするということになり、遺族基礎年金は支給停止となります。遺族厚生年金だけは支給されますが、生活していけるだけの十分な金額ではないことを理解しておきましょう。
子どもの受け取れる遺族年金は慎重に
子どもが受け取る遺族年金は複雑です。また、子どもが受け取る遺族厚生年金には、妻に加算される中高齢寡婦加算(夫死亡時に妻が40歳以上65歳未満などの要件あり)のような加算もありません。不幸なできごとが起こらないことを祈りますが、いずれにしても、遺族年金だけでは十分ではないことを認識して、必要な準備をしておくことは大切です。