一枚の写真~彼女の視線を追い続けて part.1 | DAIGOの名言から紐解く言葉の意味

一枚の写真~彼女の視線を追い続けて part.1

一枚の写真~彼女の視線を追い続けて part.1

・プロローグ
 「私、あなたの写真を見るのが好きなんだ。だって、あなたの写真には、あなたが見たものや見たいと思ったものが写っているから」
私の写真を初めて見た彼女がくれた感想だ。

 これまで自分が撮った写真を特別おもしろいと思ったことはなかった。ただ、彼女の言葉を聞いてとても嬉しくなった。心の中にずっと残しておきたいと思った景色を認めてもらったような気がして。
そう語ってくれた時の彼女の瞳を、今もなお鮮明に覚えている。キラキラした眼差しで、私の撮った写真に見入っていた。

 そう語る彼女は、フリーの写真家として活躍していた。以前、彼女に誘われて彼女の個展に行ったことがある。その時、物凄い衝撃を受けた。彼女の写真一枚一枚が、光輝いていているように目に映ったから。
子供を映す時は親が撮った時のように、女性を撮る時は恋人同士のように、花を撮る時は春の日差しのように、映し出すものの魅力が写真の余すところなく引き出されているように思えた。写真に関して点で素人だった私にも、素晴らしい写真だということがヒシヒシ伝わってきた。

 この個展に出席する前、ある雑誌にこんなことが書かれていた。
「写真というものを発見した人は、どんな思いでこのような機械を作り出したのだろう」

 誰がそのようなことを言っていたのか忘れてしまったが、彼女の写真を見ながらずっと言葉の意味を探していたのを覚えている。

・出会い
 突然、シューッというやかんの音で我に返った。キッチンに行って火を止め、リビングを振り返ると、今までいたリビングが寂れてしまったに思えた。部屋の中から一人の女性が去っただけなのに、なぜこんなにも寂しいのだろう。たったそれだけなのに。人ひとりの占める割合なんて、部屋の広さから比べたらたった少し。でも、どこか心の中にぽっかり穴が開いたような気分がした。

 そんな気分を埋めるかのように、私の目の前には彼女との思い出が次々と浮かんでくる。なぜ、気づかなかったのだろう、彼女の魅力を。彼女がカメラで表現していたように、どうして彼女の魅力を引き出すことができなかったのだろう。

 彼女と初めて出会ったのは、いつの頃だったっけ。さっきからテーブルの上で頬杖しながら、考えている。そんな僕を見下ろしている人がいた。そう、それは壁に貼られた写真の中の私だった。はじめて出会ったときに、彼女に撮ってもらった写真。

 彼女と出会ったのが、偶然の出来事のように今でも覚えている。
中学最後の大会、私はサッカー部の代表として試合に出場していた。多くの観衆が見守る中、一進一退の試合が進行していた。サッカーコートに転がるひとつのボールの行方を選手や監督、そして観衆、校庭にいるすべてのものが見守るほど白熱した試合だった。

 前半開始直後に失点を許してしまったが、それで目が覚めたのか必死に食い下がっていた。

 先制点を奪われてしまったが、なぜか負ける気がしなかった。後半残り10分ついにチャンスが訪れた。突然相手のディフェンダーが、キーパーにパスをした。手を使えないキーパーは目の前に大きく蹴りだそうとした。だが、キーパーのボールを奪おうとした私の足に当たり、ボールはゴールの中に入っていった。

 その瞬間歓声と同時にフラッシュがたかれた。私の喜びに満ちた表情がファインダーに吸い込まれた。そのファインダーに目を向けると、髪の長い綺麗な女性がいた。誰だか分からない人だったが、無意識のうちに彼女にガッツポーズを決めていた。なぜだか分からないけど、彼女と喜びを共有したような感じがした。

 その後、延長戦も両者一歩も引かず、PKで勝利を得た。勝利を得た瞬間、私のゴールを共に分かち合った女性に目を向けた。だが、彼女はそこにはいなかった。彼女に一言お礼をいいたかった。彼女と少しでも勝利の余韻に浸りたかったからだ。

 試合の後、彼女のことを考えながら、どのくらい過ごしただろう。彼女に会って、あの時撮ってもらった写真を見せてもらいたかった。自分の写真を見たいと思うのは変かもしれない。でも、見たかった。どんな表情をしてゴールを決めた喜びをかみしめているのか、どんな表情をしてファインダーを越しの彼女を見ていたのか。

 そんなある日の授業中、窓の外に目を向けていると見たことのある女性がいた。なにやら道端の花を撮っていた。どこでも咲いているような花をどうして撮っているのだろう。そんな彼女の写真を撮っている後姿をずっと見ていた。

 授業が終わると真っ先に彼女のもとに向かった。どんな風に声を掛けたらいいのか分からなかったが、勇気を持って話しかけた。

「すみません」と。

 すると、一瞬カメラのシャッターの押す音が途切れた。だが、振り返ることもなく、シャッター音とともにこんな言葉が聞こえた。

「ごめん。今ちょっと手が離せないの。ちょっと待っててね」

 カメラを取り続ける彼女の後姿を近くから見ていた。こんな感覚で私の姿を撮っていたのかな。分からないけど、緊張感だけは、ヒシヒシと伝わってきた。彼女がシャッターを切るたびになぜか花がだんだんときれいに見えた。まるで花がシャッターの音に反応して、輝きを増しているような。後ろから見ていた私の眼にはそう見えた。

 突然、シャッターの音がやんだ。

 振り向いたと同時に、話掛けられた。

 「ごめん。待たしちゃって。(・・・)あっ、君はこの前のサッカーしてた子でしょ。制服着ていると、ちょっと違う感じがするけど・・・」

 彼女のことをいろいろ考えてはいたが、なぜか言葉がでなかった。緊張していたのだろうか。分からない。ただただ彼女の言葉を聞いていた、音楽のように。

 「そうでしょう。なんかそんな感じがしたんだ」

 口の開き方を忘れてしまった私は、ずっと頭のなかでひとつのことを考えていた。「ゴールを決めた時の私の表情はどんな表情だったんだろう」と。でも、聞くことができなかった。

 緊張して何もしゃべれないことを悟ったのか、彼女は私に一枚の紙を手渡した。そこには彼女の名前と住所、電話番号が記載されていた。

 意外なものを渡されたので、やっとのことで「どうして?」と聞いた。

 すると、キラキラした表情を浮かべながら、言葉を返してくれた。

 「君の輝いた表情をもう一度撮りたいと思っただけ。いらなかったら捨てていいよ」

 そんな言葉を残して、彼女は去ってしまった。たった一瞬のような、夢のような会話だった。(会話と呼べるのか分からないけど・・・)ただ私の手の中にある一枚の紙が、事実だということを物語っていた。

 その日の夜、家族の誰にも電話の内容を聞かれない時間を見計らって、思い切って電話を掛けてみた。すると、彼女も僕の電話を待っていたらしく、すぐに電話に出た。

 「もしもし」

 「あっ、今日会った君ね。電話掛けてくれてありがとう。いらなかったら捨ててもいいって言ったけど、君の電話を待っていたのよ」

 とても嬉しくなった。この世に自分の存在を意識していることを知ったから。声を上ずらせながら、感謝の言葉を述べた。

 すると、彼女の口から意外な言葉が出た。

 「今度、私の行きたいところに一緒についてこない?きっと楽しいから」

 どこに行くのか分からなかったが、彼女と一緒に行動できることにワクワクした。彼女は私を輝かせてくれる人だと思ったから。