私は香川県生まれなので讃岐弁で育ちました。石川啄木の歌に「ふるさとの訛り懐かし停車場の人混みの中にそを聴きに行く」という歌がありますが、郷里に帰るとこの歌のよさがよく判ります。
姫路で長年生活をして判ったのですが、播州弁と讃岐弁はよく似ています。差はあっても20%ぐらいだろうと思います。しかし、全く判らない播州弁とか意味が違う播州弁があり面白い体験をしたことがあります。入社間なしの頃、営業部の会議室の戸を閉めたら、何かの拍子で掛けてあった額が落ちました。その時そばにいた女性が「メンダッタン?」と言いました。播州弁に、メゲル(壊れる)、チビル(擦り減る)がありますが、讃岐弁でも両方とも使うので、メンダッタは「めいだ」(壊した)だろうと判りました。讃岐弁で「やりましたか?」は「やったん?」と言うので ”ン” は疑問詞だろうと推測して「壊したの?」と言われたのだなと思いました。もし私が関東人だったらチンプンカンプンだったろうと思います。
慣れるまでに時間がかかった播州弁に「ヤッテカ」とか「シテカ」の ”カ” があります。このカは依頼形の「やってくれますか」の ”くれます” を省略した場合と、疑問形の「やってみますか」の ”みます” を省略した後の ”か” だろうと思います。この依頼形と疑問形の ”か” が日常会話で使えるようになれば、播州弁人間に認定してもらえるのではないかと思います。
長年誤解をしていた播州弁があります。「メンドイ」です。讃岐弁で「めんどい」は「難しい」なので、「あの娘はメンドイ娘や」と言われた時は「あの娘は気難しい娘だ」とばかり思っていました。ところが「メンドイ」は「不細工、ブス」の意味だと知った時はビックリしました。意味からして「面遠い」が訛ったのかなあと想像しましたが、そのネクタイ「メンドイで」と格好悪い事もメンドイと言うので、語源推測はギブアップしました。この言葉で、こんな体験がありました。研修レポートの発表が終わって、定時後ほっとしていた東京出身の研修生に質問をしました。「研修発表はとてもよかったが、君が本当に姫路の人間になったかどうかをテストしてみる。あの娘はメンドイ娘やとはどう言う意味か判るか?」。何を質問されるのかと、チョット緊張していた部下だった研修生は「はい判ります」と言って、近くにいた同じ課のアシスタント女性二人の方に手を差し出して言いました。「こういうお嬢さん方の事でしょう」。プイと横を向いたお嬢さん方お二人の怒った顔が忘れられません。「おい、どういう意味か判っているのか」と聞いたら、彼はこう答えました。「 ”メンコイ” 娘でしょう」。