BLEACH二次創作小説 No.54 『生簀の魚たち』 (いけすのさかなたち)
登場人物:藍染惣右介、雛森桃、日番谷冬獅郎
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五番隊隊長・藍染惣右介は、今日も執務室での業務に身を没している。
ここのところ各隊の隊長がどんどん入れ替わっており、虚討伐などの実戦は経験の浅い隊長たちに優先されている。
そのため隊長に昇格してからまだ50年程度の藍染だが、すでにベテランの隊長たちと肩を並べるような業務ばかりあてがわれる様になった。
(ギンがいたら、毎日行方不明になりそうだな)
藍染は口の端を歪ませ、前副隊長の市丸ギンを思い出した。
彼は明らかに戦闘気質で、このように毎日執務室で書類を捲り続ける仕事には全く興味を示さなかった。
副隊長時代でも、執務室勤務が3日も続くと、突然姿を消すこともままあった。
今は三番隊で、一番経験の浅い隊長として、毎日嬉々として実戦に励んでいることだろう。
「隊長、お茶をどうぞ」
物思いにふける藍染へ、震える手で茶が差し出された。
その声はまだ少女のもので、ふと怪訝に思った藍染は顔を上げた。
「君は・・・雛森くんだったね?」
「はい!雛森桃です!」
その少女、雛森桃は名を呼ばれて直立不動の体勢をとった。
「今日は君が当番だったんだね。ありがとう」
「いえっ、そんな・・・し・失礼します!」
桃は赤面した頬を盆で隠すようにしながら、藍染の前を辞した。
藍染はそれを笑って見送り、湯呑を手にするとその香りを楽しんだ。
「そろそろ、副隊長を決めないと・・・」
藍染は、ギンが三番隊へと移動してから、まだ次の副隊長を決めていなかった。
今のところ雑務は若い隊員たちが当番制で行っているが、このままというわけにもいかない。
「面倒なことだ」
まだ下につけるべき人材は見つかっていない。
いや、育っていないというべきか。
彼が目を付けた若き人材は、今、五番隊で育成中だ。
先程の雛森桃、それから、吉良イヅル、阿散井恋次。
先だって九番隊隊長東仙要の下につけた檜佐木修兵と共に、真央霊術院時代に未熟ながらもその気質を魅せた者たち。
この先どう成長していくか、楽しみとも言える。
しかし、物足りないのも確かだ。
ギンの時は、初めて会ったときに手元に置くことに決めた。
腹心となり得るか、敵となるか、どちらでもいいから手元に置きたかった。
それほどまでに惹きつけられるものを、彼らには感じない。
しかし今、傍にギンはいない。
実力からみても彼が隊長に就くのは当然のことだし、先の計画のためにも護廷内にそれなりの勢力は確保しておきたい。
必要なこととは判っている。
しかし・・・。
今はふと目線を上げても、あの端正な横顔を見ることも出来ないし、柔らかな訛りのある声を聴くことも出来ない。
そしてあのひんやりとした滑らかな肌に触れることすら出来ない。
(全く、飼い馴らしたつもりが、こちらの方が寂しい想いをするとは・・・)
藍染は苦笑した。
胸の内にぽっかりと大きな穴が空いたようだ。
逃げた魚ほど、大きいものはない。
「あの、藍染隊長?」
空になった湯呑を片付けながら、桃が問う。
「何だい、雛森くん」
「あの・・・副隊長はまだ選ばれないのでしょうか?」
「考えてはいるよ」
桃はその答えに肩を落とした。
「どうしたんだい?」
「・・・あのっ!私、絶対実力をつけますから、そうしたらいつか・・・隊長の元で、隊長の力になりたいんです!」
顔を朱に染めて必死に訴える少女に、藍染は柔らかな笑みを浮かべた。
「期待して待ってるよ」
「はい!失礼します!」
飛び出すように出て行った少女の後ろ姿を眺め、藍染は人知れず深い溜め息を吐く。
「使えないな」
呟いた声は、誰にも届かない。
その冷たく光る瞳には、何の感情もなかった。
歳月は過ぎ、若者たちは成長した。
特に桃は、得意な鬼道に磨きをかけ、下の者にも慕われて、着々と昇進を繰り返し、今やかなり上位の席官となった。
しかしまだ彼女の望みは叶えられてはいない。
ある春の日、藍染は隊舎内の廊下で気になる人物を見掛けた。
「雛森くん?」
「藍染隊長」
声を掛けられ振り返る桃の横には、まだ学生姿の小さな少年がいた。
藍染は怪訝そうに少年を見下ろした。
「弟?」
「ちっ違います!近所の子で、今度護廷入りが決まったっていうんで、簡単に案内をしてるんです」
その少年は藍染の発した言葉を聞くと、眉間に深い縦じわを寄せた。
「五番隊ではないよね?」
すでに自隊に入隊するものについては把握している。
そこに、このような小さな少年はいなかったはずだ。
「一番隊だそうです」
「・・・総隊長に各隊を見学してくるよう言われたんだ」
その少年が付け加えた。
桃が慌てて少年の脇を肘でつついた。
「シロちゃん!藍染隊長になんて言葉遣いを!・・・すみません!藍染隊長!!」
「シロって言うな!」
噛み付くような怒鳴り合いに、藍染は目を細めた。
「仲が良いね。雛森くんがそんなふうに怒るのを初めて見たよ」
「やだっ・・・あの・・・小さい頃からの幼馴染みなので・・・」
頬を赤く染めて桃が答えるのを、少年は不快そうに見ていた。
「そんじゃ」
そして、それだけ言って踵を返した。
「待って。僕は五番隊隊長の藍染惣右介だ。君の名は?」
少年は立ち止まり、顔だけ振り向いた。
「日番谷冬獅郎」
睨み付けるような大きな碧緑色の瞳が印象的だった。
そしてそのまま去って行く。
「ちょっ!シロちゃん!!・・・藍染隊長すみません!失礼します!」
桃はぴょこんと一礼すると、慌てて冬獅郎の後を追った。
藍染はじっと二人の後ろ姿を眺めている。
(あれが、日番谷冬獅郎・・・)
先日、十三番隊の浮竹隊長から話を聞いていた。
一番隊に隊長候補の新入隊員が来る。
しかも流魂街出身のまだ年若い少年だと。
総隊長が直々に育てようなどと、そうあることではない。
(あれが・・・)
なかなか面白そうな少年だった。
それにしても・・・。
「幼馴染みとは・・・・・・不快な言葉だな」
その言葉は、彼の胸の内に酷く暗いものを呼び起こした。
そして、ひとつの計画が藍染の中に出来上がった。
その数日後、桃の夢は突然叶った。
五番隊副隊長への就任が決まったのだ。
喜びの涙に視界を曇らせた彼女には、目の前で冷たく微笑む藍染の姿など知る由もない。
<Fin>
あとがき
珍しくPCに直接打ち込んで書いた作品です。
ノートで書いたのと、どこか違いますかねぇ?
この作品のきっかけは、いつも同じメインメンバーの話しか思いつけないので、誰か違う人の話を考えよう!と思ったんですが。
どうにも同じ人ばかり出てきてしまって、でもふと、そういえば藍染サマはいっぱい出してるけど、あんまり心情を書いたことがないな、と気付きました。
あんまり心情を晒してほしくないという気持ちもあるんですが、試しに書き始めてみまして。
気付いたら、書き終わりました、という現状ですw
書き始めたときは、藍ギンの予定でした。
ギンを三番隊隊長に送り出して、寂しいよーという藍染サマの話www
のはずが、お茶出しの雛森にがっつりと攫われてしまいました。くそー。
なので要所要所に藍ギンの気配がありますよねw
「幼馴染み」が不快だったりw
原作の展開で、何で藍染サマは執拗に桃を使って冬獅郎を怒らせようとしてるのか、気になって気になって。
それを、あー「幼馴染み」が嫌いだからか、と勝手に決めつけて、納得することにしましたw
なんだその藍ギン・ギン乱前提www
そして、タイトルが刻々と変化していますw
今んとこ「生簀の魚たち」。これで決定かな。
藍染サマにとって、若者たちはそんな感じかと。
どう料理しようか舌舐めずりしている藍染サマが浮かびますw
そして書き終わってみて思う。
人気の出なそうな作品ですw