BLEACH二次創作小説 No.38 『虎視、眈々』(こし、たんたん)  

                        登場人物:藍染惣右介、平子真子、市丸ギン

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「平子隊長」
朝から昼へと日差しが強まる刻限。
柔らかな低音の声が五番隊舎・隊主室の中へと掛けられた。
すると中から金の長髪を靡かせ、背に「五」と記された羽織を纏う男が顔を出した。
「何や、惣右介」
少々尖る声を発したのは五番隊隊長・平子真子、呼びかけたのは同隊副隊長・藍染惣右介だ。
惣右介は眉間に縦皺を刻ませる。
「なんや、じゃありませんよ。どうして今日は執務室へいらっしゃられないんです?」
「用があったんや」
「連絡もなくそういうことをされては困ります」
「別にお前でも処理できるやろ」
「そういう問題ではありません」
「あ~~~分かった分かった。ほんまうっさいのう。・・・午後から行くから、先行っとき」
真子は口をひん曲げながら、隊主室へ戻ろうとする。
「隊長決裁書類が溜まっていますので、今すぐにお願いします」
頑として譲ろうとはしない惣右介。
チッと舌打ちして「ちょお待っとけや」と言い残して、室内に消える真子。
そこへ、
「平子隊長?」
これまた柔らかく、しかし甲高い少年の声が部屋の中から聞こえてきた。
「こら、まだアカンがな」
慌てて真子が小声で声の主を制した。
しかし、室外へ漏れたその声を惣右介は聞き逃しはしなかった。
すぐに室内を覗き込むと、机の陰に白銀の小さな頭を発見した。
「市丸?」
「あかん、見つかってもうた」
その少年・市丸ギンの顔が引きつった。
「市丸三席、僕は君に平子隊長を呼んできて欲しいと頼んだはずだよ」
腰に手を当て、怒るというよりは窘めるといった表情の惣右介。
しかしギンは真子の後ろに隠れるようにしながら、惣右介の様子を窺っている。
「せやけどっ」
「あぁもう止め。オレが引き留めてたんやから、市丸を責めんなや、惣右介」
惣右介がギンに目で問いかけると、ギンは慌ててこくこくと頷いた。
ひとつため息をつくと、惣右介は真子に向き直った。
「市丸の件は分かりましたけど、一体何をされてたんです?」
「何って隊長と三席が話してても別に変やないやろ」
「執務室でなら変に思いませんが」
「惣右介」
真子の口調が硬いものに変わった。
「もう出て行き。オレは午後から執務室へ行く。それでえぇやろ」
「・・・承知しました」
有無を言わさぬ口調に、惣右介は折れた。
ギンを一瞬見つめると、真子に一礼して隊主室を辞す。
残った二人は、戸が閉まるまでじっとその姿を見ていた。


「全く、うるさいやっちゃな」
「隊長、えぇの?」
「えぇんや。いつものことや」
真子はギンの頭をぽんぽんと掌で軽く撫でた。
「で、続きを聴こか」
「ハイ。・・・藍染副隊長は、まず言葉遣いを改めろ言うて、敬語を教わっとるんやけど、がちがちの標準語やから喋りにくうて堪らんし、けど、使わんと小言ばっかりやし・・・」
ひっきりなしに続きそうなギンの言葉を真子が遮った。
「で、結論は何やねん」
「・・・教育係、変えてもらえへん?あんな小うるさいのん嫌やわ」
「お前、新人が副隊長を小うるさいて」
真子の顔が笑いを堪える形に歪んだ。
「あかん?」
ギンは捨てられた子犬のような表情で真子を見上げる。
しかし。
「アカンな」
真子はほだされたりはしなかった。
「大人しく惣右介に教わり。敬語は面倒でも必要なもんや。知っといて使わんのならともかく、知らんで使えへんのはアカン」
「せやけどっ」
「そのウソくさい顔やめぇ。バレバレやぞ」
ギンは目を丸くした。
「バレとった」
と、ぺろりと赤い舌を出した。
「姑息な手ぇ使うても、教育係は変えへんで。諦め。そん代わり、何かあったらすぐに言いに来てえぇから」
「しゃあないなァ。今日は諦めるわ」
「ほなもうお前は職務に戻り。オレは用事済ませてから行く」
「ハイ」
ギンは素直に返事すると、とたとたと跳ねるようにして去って行った。


「兎か・・・喜助も上手いこと付けるもんやな」
そう。
真子にとってギンは兎だ。
飢えた虎の前に兎を離せば、虎は動くだろう。
その時を見誤らないようにしなければならない。
手元に置いた飢えた虎。


いつ動く?



一方、隊主室を辞去したギンは廊下の角を二つ曲がった所で、彼を待っていた人物に遭遇した。
「どうなった?」
「ボク、いっぱい副隊長の悪口言うたけど、教育係は変えんて」
「そうか・・・」
そう答えたのは副隊長・藍染惣右介その人であった。
ギンは不思議そうに尋ねる。
「何でこんなことしてん?ボクが副隊長の悪口言うて教育係変えられてもうたら、今までみたいに一緒に実験出来へんやん」
「うん。あんまり君が僕にべったりだと、君にも疑いが掛かるしね」
「そしたら何で隊長は教育係を変えへんの?」
「君に僕の様子を探らせるためだ」
惣右介の薄茶の瞳がレンズの向こうでキラリと光った。

「そぉか」

ギンもにやりと子供らしくない冷ややかな笑みを浮かべた。


そう。
まだ機は熟していない。
今はまだ水面下で動くべき時。


いずれ、全てが動き出すだろう。


今はまだ仮初めの平穏に揺蕩え。




<Fin>








あとがき


過去篇兎シリーズ4作目です。
ようやく
キタ━━━━ヽ(゚∀゚ )ノ━━━━!!!!
平子真子登場ですっ!!
これが書きたかったの~~~~♪
真子vs惣右介。
真子とギンの対話。
あぁ悔いなし。


真子書きたさに、ちょっと話が飛びました。

兎シリーズ3作目と4作目の間に、藍染サマがギンを取り込む話が必要なんですが、まだ作っていません。

でもその辺は今後原作に出てきたりするんじゃないかな~とか思うので、あんまり書きたくない心境です。

どうするかな・・・。


今回、ちょっと戸惑ったのは、藍染サマを惣右介と記す感覚。

藍染も惣右介もいい名前ですごく好きなんですが、やっぱり藍染で書き馴れています。

でも真子といるときはやっぱり「惣右介」なんですよねー。

だからそちらで統一したんですが、後半の藍染とギンの二人だけのシーンでは「藍染」って書きたくてうずうずしました。(苦笑)