BLEACH二次創作小説 No.33 『一片の花弁』(ひとひらのはなびら)
登場人物:市丸ギン、藍染惣右介、京楽春水 CP:藍ギン 注・BLです
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その日は夏らしい酷く蒸した夜だった。
市丸ギンは細い手の甲で、子供らしく丸みを帯びた額に浮かんだ汗を拭う。
(何でこんな時間まで・・・)
五番隊第三席のギンはようやく職務を終え隊舎への帰路についた所だった。
不快に絡みつくねっとりとした空気の中、残業となればそれは苛つく度合いも半端ない。
しかもよりによってその場所が瀞霊廷内で唯一夜も騒がしい歓楽街とあっては、飛び交う嬌声と酒臭いにおいに取り巻かれ、ギンは辟易するしかなかった。
何故仕事でこんな所へ来たのかというと、八番隊隊長・京楽春水へ急ぎ重要な書状を届けねばならなかったからだ。
八番隊の副隊長に京楽の行き先を確認してから来たので任務は滞りなく済ましたが、そのまま強引に酒の席に引き摺られそうになり、慌てて逃げてきた。
ギンは三席とはいえまだ死神になったばかりの少年で、酒なんかより甘い果実水の方が美味しく感じる年頃である。
女を必要と思うにもまだ早く、歓楽街は彼にとって最も敬遠したい場所のひとつだ。
「あれぇこんなところに餓鬼がいると思ったら、我が五番隊の三席殿じゃあないですかぁ」
突然ギンの目の前が大きな男に塞がれた。
顔を見ても誰だかは全く判らないが、言ってることからすると同隊の誰からしい。
酒臭い息を頭上から吹きかけられて、ギンは顔を顰めた。
その様子を見て、男は酒に濁った目に剣呑な光を宿した。
「さすが三席殿はそこらの奴とは違いますな。死神になったのも、三席になったのも早ければ、酒も女ももうお済ませで?天才少年は何でも早い!」
それが嫌味だという事が誰にでも分かるようにギンを睨めつける。
「・・・単なる通り道や。放っておいてくれへん?」
ギンは酔っ払いの相手をするのは御免だとばかりに、笑顔で往なして横をすり抜けようとする。
すると今度は別の男が前を塞いだ。
「市丸三席、歓迎会がまだでしたねぇ。よし!今から皆で呑もうじゃないですか!」
その男はギンの左腕をがっちりと掴まえた。
それを振り解くより先に、最初の男がギンのもう片方の腕を捕らえる。
「さぁ行きましょう。まさか三席殿が酒を呑めないだなんてことはないでしょう?」
ギンは相手をするなど冗談ではなかったが、問題は相手が二人ではなくさらに数人いることだった。
暴れれば味方のいない自分だけ牢に入ることになるのだろう。
隙を見て逃げればいい。
ギンはそう判断し、おとなしく店の中へ連れて行かれた。
目の前にどんと盃を置かれ、
「さぁ!」
と言われても呑む気になれないギンは辺りを見回した。
しかし助けになりそうなものも、抜け出す隙間も無い。
そうこうしているうちに、横の男が顔を寄せてきた。
「で、どうやって取り入って三席になったんだ?」
もはやあのわざとらしい敬語を使う気もないようだった。
「取り入るて何や。ボクは別に何もしとらん」
「あのなぁ、お前みたいな餓鬼がいきなり三席になれるほど五番隊は甘くねぇんだよ」
「そんなん上に言うてや。ボクが三席になりたい言うたわけやなし」
男は盃を手に取ると、ギンの口元に突きつけた。
「呑め」
ギンが顔を背けようとすると、もう片方の手で彼の髪を鷲掴みして逃げられないようにし、無理矢理口の中へ酒を流し込んだ。
まさかそこまでするとは思っていなかったギンは、口を閉じるのが遅れ半分ほど飲み込んでしまった。
咽喉から腹へ、熱い液体が流れていく。
飲み慣れぬその感覚に、ギンの顔が大きく歪んだ。
男達は笑って、今度は盃ではなく徳利のままギンの口へ酒を流し込もうとする。
「やめ・・・!」
戦いでならばこんな奴らに負けることは無い。
だがギンは死神である、同隊であるという枷に自ら縛られ、先制を許してしまった。
数人に押さえられた躯は身動き一つ出来ず、顎を掴まれて上向かされると、閉じられぬ口の中へ大量の酒が流し込まれた。
激しく噎せたため、零れた酒がギンの死覇装を濡らした。
「そろそろ言う気になったか?お前何して三席になったんだ?」
「こいつ流魂街の出なんだろ?じゃあ財産も何もねぇはずだし・・・やっぱり躯か?」
下卑た笑い声は、ギンの耳へは遠くに聞こえた。
「稚児って奴かよぉ。隊長、副隊長にそんな趣味あったか?」
「そいつ脱がしてみろよ!三席になれるほどの躯ってどんなだよ」
ギンは大量に呑まされた酒のせいで、頭は朦朧とし、躯は力ない抵抗しか出来ずにいた。
あっという間に着物の帯を解かれ、上半身を剥かれてしまう。
細く白く輝く裸体が衆目に晒された。
不自然な体勢に朦朧とした頭を支えきれず、仰け反った白い首が酒に濡れて妖しく光を放つ。
誰かがごくりと咽喉を鳴らした。
ギンの後ろにいた者は、彼の瞳が酒のせいで赤く潤むのを目にしてしまった。
その者もまた捕らわれた。
「なんだガリガリじゃねぇか。そんなんでどうやって・・・おい、下も脱がしちまえ!」
悪意と下心に満たされた者達が再びギンに手を伸ばした。
「そこまでにしときなよ」
柔らかいが、辺りを威圧する声が響いた。
男達の手がぴたりと止まった。
「・・・京楽、隊長」
店の入り口から顔を覘かせたのは、八番隊隊長・京楽春水だった。
「これ以上は冗談じゃ済まないだろう?彼を渡してくれるかい?僕が帰りついでに送っていくからさ」
男達は目を見合わせるが、どうしていいものやら判断が付かないらしい。
京楽は彼らを無視してギンに近寄ると、自らが羽織っていた女物の着物に彼を包み、その軽い躯を抱えて店外へと消えた。
残された男達は呆然とそれを見送ることしか出来なかった。
翌朝、ギンは酷い頭痛によって目覚めた。
「あ、痛ァ」
思わず頭に手をやろうとして、袖から手が出てこないことに気付いた。
よくよく見てみると、見慣れない大きな浴衣を着ていた。
「あれ?」
ようやくそこが自分の布団どころか、自分の部屋でないことに気付いた。
「目が覚めたかい?」
掛けられた声には聞き覚えがあった。
「藍染、副隊長」
穏やかで人当たりのいい優しい笑みは普段と何ら変わりない。
ただ陽の光のせいか茶色の瞳が薄く、酷薄な印象を与える気がして、ギンは落ち着かない気持ちになった。
しかし今はそれよりも気になることがある。
「ボク、何でここにおるん?」
「昨夜、京楽隊長が隊舎に運んでくださったんだ。記憶にないかい?」
「京楽隊長・・・?」
ギンは首を傾げた。
そもそも昨夜は書状を届けて・・・。
「あっ!」
思い出すと同時に上げた声で、また頭がずきんと痛んだ。
「あぅ」
頭を抱えていると、藍染が水を持ってきてくれた。
「飲みなさい。吐き気とかはないかい?」
「頭・・・痛いだけ・・・」
ギンは一気に水を飲み干すと、そろそろと自らの躯を検分し始めた。
何しろ思い出したものの記憶は酒のせいで曖昧で、大量に飲まされた後はほとんど覚えていない。
袖を押さえて袂からようやく手を出すと、手首や腕に強く掴まれたような痕があった。
そしてもうひとつ嫌なことに気付いた。
「藍染さん・・・」
「何だい市丸君」
「ボク、自分でこれに着替えた?」
「いや、僕が着替えさせたけど」
ギンは口をへの字に曲げながら、聞きたくないことを問うた。
「ボク、下帯付けてへんみたいなんやけど?」
ギンは浴衣一枚という姿だったのだ。
つまり意識の無い状態で、藍染に全裸を晒していたということだ。
「あぁ、君は酒を浴びてきたみたいで、下帯にまで酒が滲み込んでいたんだよ。そのままでは不快だろうし、布団に入れるのも躊躇ってね。僕が躯を拭いてあげたのも記憶にないのかい?」
藍染は困ったような顔で答える。
「いや、それはあの・・・おおきに。せやけど意識の無い時に躯弄られんのは嫌いやさかい、今度は放っといてくれん?」
「今度・・・は、ないようにね」
「あ・・・ハイ」
ギンはこくりと頷いた。それは然りだ。
「ボクの死覇装は?」
「洗ってしまったからまだ乾かないよ。どのみちその状態じゃ今日の務めは無理だろう?このままここで休んでいなさい」
「えぇの?」
「昨日は遅くまで頑張ってくれたし、特別に許可するよ。じゃあ僕はそろそろ出仕しなきゃいけない時間だ」
「藍染副隊長、おおきに」
「あぁ・・・そうだ、明日にでも京楽隊長にきちんと礼を言いに行きなさい」
「はい」
「じゃあ行ってくるよ」
「はい、行ってらっしゃい」
藍染を笑顔で見送り、ギンは心の中でゆっくりと1から100まで数えた。
そして人の気配がないことを確かめると、突然浴衣を脱ぎ捨てた。
躯を隅々までじっくりと検分する。
昨夜、着物を脱がされた記憶がある。
何かされただろうか。
下帯は本当に酒で濡れていたのか、もしやあの場所で脱がされてたりしたのでは・・・。
ギンは不安のあまり何度も何度も執拗に確認する。
しかし、何かをされたという形跡は見当たらなかった。
唯一つ、胸の、心臓の上あたりに、ぽつんと赤い痣があった。
暴れて何かの角にぶつけたのだろうか?それとも誰かの爪でも当たったか?
真っ白な肌の中、その痣は際立って赤く灯っていた。
藍染は執務室に向かいながら、昨夜のことを思い出していた。
京楽の女物の鮮やかな着物に包まれて、肌を大きく露出したギンは、まだ子供であるというのに妙な色香を漂わせていた。
聴けば、隊士達に無理矢理酒を呑まされたばかりか、着物まで脱がされていたのだという。
京楽が帰った後、ギンの躯を清めるために酒臭い死覇装を全て脱がせた。
白い躯は細く薄く、しかし子供らしい丸みを帯びている。
それは美しいものとして藍染の目に映った。
無粋な下帯も外してしまった。
ギンには酒に濡れていたと説明したが、そんなことはなかった。
ただ、邪魔であっただけだ。
起きる気配のないギンの頬を藍染の手が撫ぜた。
口元からは酒が甘く香り、べたついていた。
藍染はそこへ舌を這わせた。口元から頬、顎を伝って首筋へ。
酒とギンの汗が入り混じり、藍染の舌を甘く刺激する。
形のいい鎖骨を嘗め回すと、くすぐったいのかギンが身じろいだ。
しばし様子を見て、藍染は最後にギンの胸をきつく吸った。
その痕は赤く、ちょうど心臓の上に咲いた一片の花弁のようであった。
それは獲物の証。
まだ幼いこの躯が、いずれ育ったときにこの手に落ちるように。
藍染は濡らした手拭いで丹念にギンの躯を拭うと、適当な浴衣を着せ、ギンを布団に寝かせた。
全てはまだ始まったばかりだ。
数日後、流魂街の外れに現れた虚討伐に赴いた五番隊隊士数名が戦いで命を落とした。
亡くなった者の名を見て、八番隊隊長・京楽は渋い顔で考え込んだ。
(寝た子を起こしてしまったかな)
疑惑の視線の先にいるのは、五番隊副隊長・藍染惣右介の姿であった。
<Fin>
あとがき
兎シリーズ3作目になります。
「月に住まうは
」「虚飾の言葉
」はギンと喜助のお話でしたが、ようやく藍染副隊長のお出ましです。
お出ましした途端にこんなブラックな話になっちゃうなんて・・・なんてすごい人なのかしら藍染サマ。(笑)
でも尸魂界篇より破面篇より、過去篇の藍染サマの方がよっぽど悪そうなんですもの。
若気の至りというヤツかしら。
ま、そんな過去篇の藍染サマが一番好きなんですけど。(爆)
大好きな過去篇。
いろんな人を出したくて、今回は京楽隊長。
最初の構想では京楽隊長の部屋で目が覚めるギンという話だったんですが、そんな色っぽい状態のギンを藍染サマが放置するわけはなく。
蓋を開けたら美味しいところは藍染サマが持っていったあげく、あんなことまで。(苦笑)
侮れない藍染サマです。
兎シリーズは、次の4作目も書き終わっています。
ようやく、念願のあの方が出てきます!!
嬉しいな~♪