BLEACH二次創作小説 No.32 『掌の汗』(てのひらのあせ) 登場人物:ウルキオラ、市丸ギン、藍染惣右介
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市丸ギンは異質である。
この虚圏において、彼以上に異質なものは存在しないだろう。
もちろん主たる藍染惣右介は別格ではあるが。
第4十刃ウルキオラは、ギンを見掛ける度不穏な気持ちになる。
ギンは、気が付くとそこにいる。
藍染の背後であったり、横であったり、東仙統括官に叱られていたり、逆にからかっていたり、十刃に正面から睨まれていたり、誰もいない部屋に一人居たり、窓辺で月を見ていたり。
かと思えばいくら探しても見つからない事も多い。
藍染の命で呼びに行くと、大概見つからない。
自室にも、広間にも、つい先だって見かけた場所にすらいない。
そのくせ藍染に見つからなかったと報告に行くと、その藍染の横に居たりする。
まるで嫌がらせをされているようで不快だ。
出来得るならば、拘わりたくない男だ。
しかしそんな思いは今日も叶わない。
東仙統括官に呼び出されると、こう告げられた。
「雑用を頼んで済まないが、市丸を探してきてくれないか?あの男がまた何も言わずに姿を消して、今日で3日目だよ。藍染様が呼んでおられるというのに・・・」
「わかりました」
藍染の名を出されては、ウルキオラに否はない。素直に頷いた。
そして仕方なくギンを探しに行く。
いないとは思うが、まずはギンの宮へ向かう。
案の定、部屋の中はもぬけの殻。
というよりも、本当にここに居る事があるのかと不審に思うくらいに人の気配がない。
一応寝台には整えられた寝具があるものの、それ以外には何も見当たらない。
ウルキオラは踵を返した。
するとそこには探し人がニヤニヤとした笑みを顔に貼り付け、扉に寄りかかるようにして立っていた。
断じて気配も霊圧も無かったのに、だ。
「キミがボクの部屋に来るなんて珍しこともあるもんやなァ、なんか探しもん?」
「・・・貴方を」
「ボクを?キミが?」
ギンはウルキオラの前に立つと、腰を曲げ背の低い相手の顔の位置に自分の顔を持ってくる。
彼の得意な相手を動揺させる動きだ。
しかしウルキオラはギンの顔が目の前にあっても表情を変える事は無かった。
「藍染様がお呼びだ」
いつもと変わらぬ口調で答える。
ギンはじぃっとウルキオラの大きな翠の瞳を見つめると、ガッカリした様子で寝台へぼすっと腰を下ろした。
そのままごろんと転がる。
「何を・・・」
「つまらん!」
ウルキオラの問いはギンの声によって遮られた。
「何がだ?」
「キミの反応がつまらん言うとる」
「俺のことはどうでもいい。早く藍染様のところへ」
「つまらん」
再度、言葉が遮られた。
「あァ~つまらん」
寝台上でごろごろと転がるギン。
整えられていた寝具がみるみる皺になっていく。
ウルキオラは心の内でため息をつくが、表情に変化はない。
ともかく伝えるべき事は伝えたし、このまま立ち去っても良いだろうか。
それともこのまま動きそうにない市丸ギンを引き摺ってでも藍染様の御前に連れて行くべきだろうか。
ウルキオラは悩んだ。
すると僅かな表情の変化に気付いたギンが寝台から身を起こした。
「あれ?キミ今困っとる?」
「・・・」
「どうしたらえぇのか悩んどる?」
「・・・はい」
ニターとギンが哂った。
「少しは感情が出てきたようやな。それでえぇ」
ギンは立ち上がると、扉の外へ消えていった。
しかも、藍染の部屋とは真逆の方向へ・・・。
廊下へ出てみると、案の定ギンの姿は既に無く、ウルキオラは自分が任務に失敗したことを悟った。
ともかく報告のために藍染の元へ向かわねばならない。
「どうしたんだい?ウルキオラ」
藍染は今日も穏やかな笑みを浮かべ、ウルキオラを迎え入れる。
ウルキオラは膝を折り、藍染を前に頭を垂れる。
そして事の次第を告げようとした時、藍染の背後からギンが顔を出した。
ウルキオラを見て、ギンの口の端が攣り上がる。
嘲笑か。
思わず無言になったウルキオラの視線に気付き、藍染は背後を振り返った。
「ギン!探していたんだよ。いつここへ?」
「今です。藍染さん」
「ウルキオラ、君が連れてきてくれたのかい?」
藍染が歓喜の笑みをウルキオラに向けた。
「いえ・・・」
「そうです」
ウルキオラが否定しようとした言葉をギンが引き取った。
「折角藍染さんから逃げとったのに、このコに見つかってもうたんよ」
ギンはウルキオラの背後にまわり、彼の肩に腕を乗せ、顔を寄せる。
「なァ?」
「・・・」
ウルキオラには答えるべき言葉が見つからなかった。
距離のない二人の間に何かを感じとったらしく、藍染は静かな声でウルキオラの退室を命じた。
ウルキオラは一礼し退室しようとするも、その肩には未だギンの腕が乗っている。
振り払うのは不敬に当たるかと躊躇い、視線を向けると、そこにはギンの薄蒼の瞳が待ち構えていた。
居竦まれる様にウルキオラの躯は固まった。
目を合わせたまま、ゆっくりとギンの口が大きく歪んだ。
ウルキオラの背筋を冷たいものが通り抜けた。
「ギン」
藍染がギンを嗜めた。
ギンは藍染を軽くひと睨みすると、ウルキオラから離れた。
解放されたウルキオラは無言で頭を下げ、逃げるように退室した。
ふと気付けば掌にじんわりと汗を掻いていた。
初めてのことにウルキオラは動揺した。
そうしてやはり市丸ギンは危険な者だという認識を新たにした。
「あまり破面たちを苛めないで欲しいな」
藍染はあまり困っているようには見えない表情でギンを嗜める。
「木偶はいらん」
ギンはそっけない口調で答えた。
先程までの敬語は跡形もない。
「アレが今、アンタが一番目ぇかけとるコやろ?せやからボクも鍛えてやっとんねん」
ギンは嗤う。
「せやろ?」
藍染は無言で口の端を歪ませると目を伏せた。
それが肯定の仕草であることをギンは知っていた。
「さっきはゴメンなァ」
何故、ここにいるのだろう。
掌の汗はもはや乾ききった。
藍染の部屋を出て自宮へはまっすぐ戻ってきたのだ。
それなのに、部屋に残ったはずのギンがなぜ己の宮に先にいるのか。
部屋の入り口で、ウルキオラは立ち竦んだ。
その長身ゆえに見上げなければならないほど近くにギンは立っている。
思わず後退りしようとするより先に、ギンの腕がウルキオラの肩を捉えている。
首を一回りした手の細長い指先がウルキオラの顎をなぞる様に動いた。
体温を感じない冷たい指先にウルキオラの顎が持ち上げられた。
ギンの顔がゆっくりと近付いてくる。
互いの薄い唇が触れ合う直前に、ウルキオラの顎を掴んでいた指先が、強い力で彼を横向かせた。
ギンの唇がウルキオラの頬を掠り、耳朶に触れた。
「ドキドキする?」
吐息を耳に吹き込むように、囁きかけるギン。
ウルキオラは無言を貫くが、それは肯定でもある。
掌の汗が再び戻ってきたようだ。
ギンは右手でウルキオラを抱え込み、空いた左手は自らの斬魄刀の柄に置き、鯉口を切っては戻すという物騒な手慰みをしている。
そのカチリ、カチリ、という乾いた小さな音が、静かなこの部屋に唯一響く音だ。
「・・・感情は必要か?」
ギンの肩口に顔を埋める形になってしまったウルキオラが問う。
「必要ゆうんとはちゃう。けど、重要や」
相変わらず、耳元で囁くギン。
「それならば、努力する」
その素直な言葉に、ギンは嗤った。
ウルキオラを手放すと、両手を広げ首を竦める。
「そんなん言う破面、初めて見たわ。阿呆やなァお前」
「・・・」
「張り合いないなァ。・・・なんやイヅル思い出すわ」
「イヅル、とは?」
「あァーボクの人形や」
「人形・・・」
「キミと違ってちゃんと中身はあるけどな」
ギンは意地の悪い顔で嗤う。
「人形はいつか捨てるで?ボクも。藍染さんもなァ」
ウルキオラは唇を噛みしめた。
「ふん。藍染さんの名前には反応するんやな」
ギンはウルキオラの肩にぽんと手を乗せた。
「捨てられんように、精々精進しぃや」
そのまま部屋から出て行ってしまった。
静寂の戻った部屋で、ウルキオラは深く息を吐いた。
我知らず酷く緊張していたらしい。
掌の汗どころか膝ががくがくと力なく震えている。
「市丸ギン・・・」
声に出して呟くと、それはなんと禍々しい名前なのだろう。
藍染様のお傍に控える立場の者というのはやはり只者ではないのだという認識は新たに、しかしできれば関わり合いたくないという本音に変わりない。
ウルキオラは汗の滲む掌で耳を塞いだ。
どういうわけだか耳に残るあの声が聞こえなくなるように。
<Fin>
あとがき
ウルキオラの話が書きたくて書き始めたものの、なかなか纏まらなくて、その間にウル織が2本追い抜いていきました。
しかも一度ボツにしたものを復活させたという、なかなか時間と手間のかかった作品。
ギンとウルキオラという組み合わせはかなり好きです。
でもどうやって絡ませたらいいかな、と悩んで、とりあえずウルキオラがギンを呼びに行くというだけの話だったのに、なぜここまで長くなる!?
ひとえにギンの嫌がらせだと思います。(泣)
そして最も苦労したのが・・・ウルキオラってギンにどう喋る?
藍染サマには敬語、破面や敵には偉そうに見下すような喋り方で。
ギンとの会話は原作では1ヵ所しかなくて、敬語っぽいのかなぁと思っていたんですが。
先日のアニメのアランカル大百科。ギンのこと「貴様」って言ってた・・・。
敬語じゃないのか~と思って、多少直したら、また違和感バリバリで。困ってます。(苦笑)
困った部分がウルキオラの「・・・」多用という結果に繋がったかも。