BLEACH二次創作小説 No.1 『雪花 side A』(せっか)  CP:日乱・ギン←乱
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その年初めての雪が降り始めた夜。
雲間から覘く月の光が、時折部屋の障子に影を浮かび上がらせる。
いつもならとうに眠りについているはずの冬獅郎が、この日はなかなか寝付くことができず、布団に身を横たえたまま、ただひたすらに舞い落ちる雪の影を眺めていた。


ふと、影が動いた。


「誰だ?」
誰何の声は僅かにかすれた。
問わずとも相手が判っていたからかもしれない。
「・・・隊長」
か細く遠慮がちな声が戸の向こうから聞こえてきた。
いつもなら放っておいてもずかずかと入り込んでくるはずのその人は、今日は別人のようにひっそりとその場に留まっている。
訝しく思った冬獅郎は、そっと立ち上がり、戸を開けた。


そこには寝間着姿の乱菊がいた。


「何をしている?さっさと入れ」
いくら隊長の私室と副隊長の私室が近いとはいえ、いつ他の者が通るかもしれないその場所で乱菊の格好は度を超えている。
再度促すとようやく部屋に入ってきたので、冬獅郎はほっとしながらも廊下に見ているものがいないことを確認し、戸を閉めた。



◇◆◇



しばらく無言の時が過ぎた。
冬獅郎は用を問えずにいた。
先ほどまで寝ていた布団の上にどっかりと座り込み、乱菊からは視線を外したままじっと時を待った。
しかし冷えた夜気に気付くと、ついに乱菊へと声をかけた。
「・・・寒くねぇのか?」
対し、乱菊は無言のままであった。
「松本」
名を呼ぶと弾かれたかのように乱菊の虚ろな目に光が灯った。
「あっあのっ」
しかし何をどう言ったらいいものやらという状態で、その言葉は切れ切れになった。
「今日・・・ 寒い、です・・よね。・・・気付い・・たら・・・その・・・雪、降っ・・てる・・し」
「で?」
待ちかねた冬獅郎が先を促す。
「寒い・・・なぁ・・って思って」
「で!?」


「・・・・・・・温まりに、来ました」



「は?」
思わず呆気にとられた冬獅郎を尻目に、乱菊はバタバタと近づいてきた。
「とゆーわけで。隊長、詰めて詰めて!」
「おまっ!?」
「しーーーーっ。今何時だと思ってるんですか?大きい声出したら、誰か来ちゃいますよ?」
「!」
はたから見ても誤解しか生まないその状況に口封じされてしまう冬獅郎。
その隙に乱菊は冬獅郎の布団にもぐりこんだ。
焦って離れようとした冬獅郎だったが、乱菊の身体から発される冷気を感じると、仕方なく横に転がった。
「お前、冷えすぎだぞ」
乱菊に背を向けながら、そう抗議するのが精一杯だった。
「だって今日寒いんですもん」
「・・・あっコラ!」
「しーーーーーっ!!」
あっという間に乱菊に背中から抱きつかれる格好になった。
(・・・男扱いされてねぇな)
眉間にシワを寄せ、わずかに頬を染めながらも、冬獅郎は毒づきたくなった。
「襲うぞ?」
しかし口だけなのが見透かされているのか、乱菊は何も言わない。
あるいはそれもまた可という覚悟はあったのかもしれない。
しかし、乱菊はまだ破面戦の傷が癒えたばかりということを二人はよく判っていた。
まだ職場復帰もしていない。
身体の傷は癒えても、残りの傷は・・・。



「あったかい」
「・・・・そうか?」
乱菊の吐息のような声に耳をくすぐられてか、冬獅郎の返事は僅かに遅れた。
「やっぱり子供体温ですね、隊長」
「なにぃ!?」
「しーっ」
「・・・」


「隊長」
「なんだ?」
「・・・隊長はまだこのままでいて下さいね」
「このまま?」
どういうことだと問おうとした。
「このまま・・・まだ、大きくならないで下さい」
「おい!」
コンプレックスを刺激され、背中に抱きついている乱菊を振りほどこうとする。



「・・・大きくなって。・・・私を」



(置いていかないで下さい。)



小さな声だった。
冬獅郎が反論の声を上げていたらかき消されていただろう。



(あのバカ・・・みたいに)



最後の声はかすれた。



◇◆◇



破面戦が終わった後、重症を負った乱菊は意識のないまま四番隊の救護室に入院した。
目が覚めたとき傍にいたのは冬獅郎一人で、彼は乱菊が気付いた事でほっとした顔をし、安心して休むよう促した。
乱菊を休ませるために部屋を出ようとした冬獅郎を引き止めたのは乱菊自身であった。
どうしても訊かなくてはいけない問いがあった。
それは冬獅郎にしか訊けない問いだった。

「・・・ギンは?」


乱菊は判っていたのかもしれない。
判りたくなかったのかもしれない。


冬獅郎は伝えたくなかった。
しかし、伝えねばならなかった。


足元に視線を向けたまま、淡々と冬獅郎は語った。
「尸魂界に反乱を起こした元隊長3名は、護廷十三隊及び死神代行その他の者たちにより、殲滅。その身体は全て霊子へと還った。・・・あいつ・・・市丸は特に何も持っていなかったから、お前に残してやれるようなものは、何も・・・」
「そう・・・ですか」
乱菊は無表情のまま答えた。


「休め」
それだけ言うと冬獅郎は部屋から立ち去った。
とてもその場にはいられなかった。
四番隊の隊員を見つけると乱菊が目覚めたことを伝え、自分はそのまま十番隊舎へと向かった。
途中、こらえきれずに壁を殴りつけたが、それを見ている者は誰もいなかった。



それからも何度か乱菊の様子を見に行ったが、見舞い客に囲まれていても、一人でぼうっとしていても、乱菊が涙を流すことはなかった。
市丸ギンのことは、一言も口に出さなかった。
強くあろうとするその姿には胸を打たれたが、頼る者のないその寂しさが不憫に思えた。



頼られない自分が、小さく思えた。



◇◆◇



布団の中から冬獅郎は身を起こすと、乱菊を見下ろした。


「ギンがいない」
それだけ言うと乱菊は笑い出した。
「ふふっ・・・はっ・・ははっ・・・あははっ・・・あはっ」
細く歪んだ目から涙が溢れ出した。
歯を食いしばり、声を飲み込みながら泣く。


そんな乱菊を冬獅郎は美しいと思った。


 哀れだと思った。



  ・・・愛しいと思った。



目のあたりを腕で覆い、乱菊は泣き続けていた。
そんな乱菊を冬獅郎はそっと壊れ物のように優しく抱きしめた。



背も


 腕の長さも


  乱菊を泣かせてあげられる広い胸も、・・・何もかも足りない。



しかも、腕の中で泣く女は、別の男のことを想って泣いているのだ。



(それでも)


(俺はこの女を一生抱きしめ続けるだろう)



雪は未だ音もなく、ただひたすらに、降り続けていた。




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