◆◆◆ 二 ◆◆◆
二人の男は黒い装束に身を包み、暗く長いトンネルをひたすら歩いていた。もう5時間以上歩き続けただろうか。その間休みは一度も取らなかった。彼らには急いで確かめなければならない事があったのだ。
時刻は昼の12時を少しまわった頃だった。トンネルの外は明るいのであろうが、トンネルの中には照明は無かった。このトンネルは自然に出来たものだ。二人はそれぞれ懐中電灯を手に持っていた。大人が二人くらい横に並んで歩けるほどの幅と高さで、自動車は当然通れない。起伏も激しく、自転車やバイクも無理である。徒歩だけが唯一このトンネルを抜ける手段であった。
トンネルの中はひんやりしていたが湿気は多い。二人とも少し汗を掻いていた。トンネルに沿って水が流れている。川のように大きなものではないが、水が流れる音が良く聞こえる。水と二人の足音以外、このトンネルの中で聞こえるものは無かった。
既に時刻は3時をまわった。トンネルに入ってから8時間以上経過したところで、一人がこう言い出した。
「まだ着かない。本当にこのトンネルで正しいのか?」
聞いたのは肌の色が白い痩せた男の方であった。名前はクィンと言った。
「このトンネルで間違いない。休まず歩いて一日以上かかるのだ。まだ半分も歩いていないことになる。」
答えたのは肌の色の黒い男であった。名前はゼダ。右耳に金色のピアスをしている。ピアスは懐中電灯に照らされるとキラキラ瞬いた。黒い装束を着ていたので、金色のピアスとのコントラストが際立っていた。
色白のクィンは首から下げていた水筒を咥え、水をがぶがぶ飲んだ。手で口を拭うとまた話し出した。
「俺は仕事でお前に付き合ってるんだ。お前のご主人様が俺に依頼したんだ。最初は簡単な仕事だと思ったんだ。だから3万ドルで引き受けたよ。
しかしな、こんな長距離の行軍は聞いていない。さっきから『もう着く、もう着く』とか言って俺をこんな洞窟の奥深くに引き入れやがって。まだ半分も歩いていないだと?俺は帰るぞ。」
そう言うと、クィンは歩くのを止めてしまった。ゼダも足を止めざるを得なくなった。しばらく二人の間に閑黙が続いたが、ゼダの方がその重い口を先に開いた。
「お前を帰らせはしない。お前が居ないと御極秦(オンキョクシン)様は何も話さない。死んでも連れて行く。」
「おいおい待てよ。なんで俺が必要なんだ?俺の仕事は単純だ。その御極秦とやらに会って話を聞くだけだぜ。俺がいなくてもお前一人で出来るだろ。最初は俺もそう思ったんだ。俺が行く必要は無いってな。しかしお前の主人がどうしても行けっていうから付いて来てやったんだ。
もうこれ以上無駄骨は御免だ。俺は帰るぜ。」
クィンは相手の様子を確かめるように言った。クィンはゼダを恐れていた。ゼダの体格はクィンよりずっと大きく、力ではクィンはゼダに敵わないのだ。
二人の間に再び沈黙が続いた。
次に口を開いたのはクィンの方であった。
「異論はないようだな。じゃあ、俺はここで帰るぜ。丸一日歩くなんて不可能だ。俺は体力を使う仕事が苦手なんだ。こっから先はお前一人で行け。俺は入り口で待っててやる。」
と言いクィンが体の向きを変えたとき、ゼダは音も立てずクィンに近づき、クィンの首を力強く締め上げた。クィンは息も出来ず、言葉も出ず、手足も動かせず、やがて静かに生き絶えた。ゼダはクィンを殺したのだ。『死んでも連れて行く』、ゼダはクィンにそう言った。
ゼダは表情一つ変えずにクィンの衣服を剥ぐと、持っていたナイフでクィンの内蔵を抉り出した。左手ではらわたを探ると、一枚の小さな銅版を取り出した。ゼダは右手で白い厚手のハンカチを取り出すと、銅版の血を綺麗に拭き取った。
銅版には文字が刻まれているようであった。ゼダは銅版の文字を読みたい衝動に駆られたが、それをぐっと堪えた。銅版を持った右手を口元に近付けると、目を閉じてそれを静かに飲み込んだ。目には少し涙が浮かんでいるようであった。
「これで私も死ぬことになったのか・・・。」
そう言うと再び歩き出し、トンネルの奥深くに消えていった。クィンの荒らされた無残な死体は、葬られもせず、転がった懐中電灯が不気味に照らし続けた。
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時刻は昼の12時を少しまわった頃だった。トンネルの外は明るいのであろうが、トンネルの中には照明は無かった。このトンネルは自然に出来たものだ。二人はそれぞれ懐中電灯を手に持っていた。大人が二人くらい横に並んで歩けるほどの幅と高さで、自動車は当然通れない。起伏も激しく、自転車やバイクも無理である。徒歩だけが唯一このトンネルを抜ける手段であった。
トンネルの中はひんやりしていたが湿気は多い。二人とも少し汗を掻いていた。トンネルに沿って水が流れている。川のように大きなものではないが、水が流れる音が良く聞こえる。水と二人の足音以外、このトンネルの中で聞こえるものは無かった。
既に時刻は3時をまわった。トンネルに入ってから8時間以上経過したところで、一人がこう言い出した。
「まだ着かない。本当にこのトンネルで正しいのか?」
聞いたのは肌の色が白い痩せた男の方であった。名前はクィンと言った。
「このトンネルで間違いない。休まず歩いて一日以上かかるのだ。まだ半分も歩いていないことになる。」
答えたのは肌の色の黒い男であった。名前はゼダ。右耳に金色のピアスをしている。ピアスは懐中電灯に照らされるとキラキラ瞬いた。黒い装束を着ていたので、金色のピアスとのコントラストが際立っていた。
色白のクィンは首から下げていた水筒を咥え、水をがぶがぶ飲んだ。手で口を拭うとまた話し出した。
「俺は仕事でお前に付き合ってるんだ。お前のご主人様が俺に依頼したんだ。最初は簡単な仕事だと思ったんだ。だから3万ドルで引き受けたよ。
しかしな、こんな長距離の行軍は聞いていない。さっきから『もう着く、もう着く』とか言って俺をこんな洞窟の奥深くに引き入れやがって。まだ半分も歩いていないだと?俺は帰るぞ。」
そう言うと、クィンは歩くのを止めてしまった。ゼダも足を止めざるを得なくなった。しばらく二人の間に閑黙が続いたが、ゼダの方がその重い口を先に開いた。
「お前を帰らせはしない。お前が居ないと御極秦(オンキョクシン)様は何も話さない。死んでも連れて行く。」
「おいおい待てよ。なんで俺が必要なんだ?俺の仕事は単純だ。その御極秦とやらに会って話を聞くだけだぜ。俺がいなくてもお前一人で出来るだろ。最初は俺もそう思ったんだ。俺が行く必要は無いってな。しかしお前の主人がどうしても行けっていうから付いて来てやったんだ。
もうこれ以上無駄骨は御免だ。俺は帰るぜ。」
クィンは相手の様子を確かめるように言った。クィンはゼダを恐れていた。ゼダの体格はクィンよりずっと大きく、力ではクィンはゼダに敵わないのだ。
二人の間に再び沈黙が続いた。
次に口を開いたのはクィンの方であった。
「異論はないようだな。じゃあ、俺はここで帰るぜ。丸一日歩くなんて不可能だ。俺は体力を使う仕事が苦手なんだ。こっから先はお前一人で行け。俺は入り口で待っててやる。」
と言いクィンが体の向きを変えたとき、ゼダは音も立てずクィンに近づき、クィンの首を力強く締め上げた。クィンは息も出来ず、言葉も出ず、手足も動かせず、やがて静かに生き絶えた。ゼダはクィンを殺したのだ。『死んでも連れて行く』、ゼダはクィンにそう言った。
ゼダは表情一つ変えずにクィンの衣服を剥ぐと、持っていたナイフでクィンの内蔵を抉り出した。左手ではらわたを探ると、一枚の小さな銅版を取り出した。ゼダは右手で白い厚手のハンカチを取り出すと、銅版の血を綺麗に拭き取った。
銅版には文字が刻まれているようであった。ゼダは銅版の文字を読みたい衝動に駆られたが、それをぐっと堪えた。銅版を持った右手を口元に近付けると、目を閉じてそれを静かに飲み込んだ。目には少し涙が浮かんでいるようであった。
「これで私も死ぬことになったのか・・・。」
そう言うと再び歩き出し、トンネルの奥深くに消えていった。クィンの荒らされた無残な死体は、葬られもせず、転がった懐中電灯が不気味に照らし続けた。
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