突然のトラブルでハードディスクが動かなくなった! 困った! と焦っているときに、藁をもすがる思いでデータ復旧を探します。普通は、Googleで検索して、始めの数社のホームページを見て、どこが信頼できそうかな? って探しますよね。焦って急いでいるときこそ、冷静にデータ復旧業者を見極める必要があります。
データ復旧会社のサイトには、魅力的なキャッチコピーが並んでいます。
診断・見積無料、3分診断、15分復旧、復旧率90%以上、ハードディスクメーカーではないのに「公式サイト」。
人間のお医者さんに行って、3分診療しただけで「あなたは癌です。余命6ヶ月。今すぐ手術すれば、助かるかもしれません。 治療費 100万円。内視鏡手術で日帰りです。」と言われて信じますか? オイオイ 血液検査とか、CTとかMRIとか、腫瘍細胞の検査とか、いろいろ精密検査するんじゃないの? たった3分で何が分かるんだ? って思いますよね。
さらに、データ復旧業界には魅力的なキャッチコピーで、検索サイトに巨額の広告費を投下して集客する残念な会社があるのも事実です。
その巨額の広告費で検索結果の上位を維持し、皆さんには、高い復旧費用を請求し、広告費を回収するスキームになっています。1クリック 1500円、クリックした方の20人に一人が申し込みして、その内50%が成約できたとして、たった1つの案件を獲得するために6万円の広告費が投下される。そういう世界です。
私は、データ復旧会社に勤めているデータ復旧エンジニアです。日々多くのハードディスクなどを診断・復旧しています。その中で、競合他社さんにデータ復旧を依頼した痕跡があるハードディスクも多数あります。そんなお客様の多くが、魅力的なキャッチコピーに惹かれて、残念な競合他社さんに無料診断を依頼し、3分診断の結果、見積もりが異常に高かったり、妙に急かされて怖くなり、キャンセルして、私が勤めるデータ復旧会社に助けを求めていらっしゃいます。
そんな残念な会社にNASの3分無料診断を依頼して、怖い思いをした歯医者さんのお話です。
患者さんのレントゲンデータを大量に保管していた4TBのNASが突然見えなくなった歯医者さん。焦ってGoogle検索し、一番目立つ魅力的なキャッチコピーで、誰でも知っている超有名オフィスビルに入っているデータ復旧業者に駆け込みました。
「最短3分診断」「診断料無料」と書いてあったこの業者にさっそくNASを預けました。
待つこと3分。接客担当者がやってきて、
「100万円です」。
あまりの高額に驚いた歯医者さん、「そんなには出せないので、NASを返却してほしい。」と言ったところ、「いくらまでなら出せますか?」と言われました。「相場がわからないし、院長に確認しないと即断できない。」と話すと、「少し待ってください。上司と相談してきます。」と言ってオフィスに引っ込みました。
しばらくして戻ってきた接客担当者
「50万円なら出せますか?」
いきなり半額に。(100万円の根拠って何だったんだ?)
「キャンセルします。返却してほしい。」と言うと、接客担当者「今、検査機器に繋いでいるのですぐに取り外しできません。復旧は時間が勝負で、すぐに決断しないと復旧率が低下します。」 と今度は脅してきました。
怖くなった歯医者さん「やっぱりキャンセルします。返却してほしい。」と頑張って、なんとかNASを取り返したそうです。
そして、その足で、私の勤めるデータ復旧会社に駆け込んできました。
お持ち込みの時は、私の会社でも3分で「簡易診断」できますが、それは大まかな障害の切り分け程度です。診断を確定するにはNASからハードディスクを取り出し、クローンコピーを作成し、その上で論理障害の有無を調べます。4TBのNASの場合、診断・見積もりを確定するには最短でも翌日になります。
さて、この歯医者さんのNASをお預かりして、3分ほどの簡易診断を行い、「特に物理障害は無さそうです。おそらく軽度の論理障害で、復旧費用は5万円以下になる見込みです。確定した診断と見積もりは翌日までお待ちください。」とお伝えしました。
歯医者さんは、不思議そうな顔をして、首を振りながらNASを預けてお帰りになりました。この時点で私は、同業他社さんの100万円の見積もりの話を聞いていなかったので、歯医者さんの様子が気になっていました。
一晩かけてクローンコピーを作成し、翌日にクローンコピーで詳細な診断を行ったところ、診断結果と見積もりは予測通り。
障害レベル:軽度の論理障害
復旧見込み容量:約3TB
復旧見込みファイル数:約400万ファイル
復旧見込み作業期間:2日間の見込み
復旧費用:5万円以下 *大人の事情で、明確な金額が書けません。
歯医者さんは、即決でデータ復旧を承諾してくださり、復旧を実施、2日後に引き取りにいらっしゃいました。その時に同業他社さんの経緯を教えてくれました。最初に当社に来られた際に不思議そうな顔をされていたのは、同業他社さんとあまりにも見積額の落差が大きかったことに驚き、半信半疑だったからだそうです。
データ復旧会社の中には、大変残念な会社があります。今回の場合、同業他社さんのエンジニアも、3分の診断で軽度の論理障害と予測ができたと思います。その上で、NASに保存されていたのは大事な患者さんのレントゲンデータであり、その価値が高いことが明らかだったのでしょう。歯医者さんにとっては、なんとしても取り戻したいデータです。そこにつけ込んで吹っ掛けるという会社の方針が垣間見えます。
では、どうしたら、こういう会社を見分けられるのでしょう?
1番の見分け方法は、公平なクチコミサイトなどに多くの苦情が寄せられていないかを確認することです。
Googleの検索ではなく、 Google Mapで「データ復旧」と検索してみてください。
会社名を選ぶと「概要」「クチコミ」「基本情報」などが出てきます。
「クチコミ」が他の会社に比べ、妙に数が多い。★1つと★5つばかりで、★2,3が少ないという会社は要注意です。
「クチコミ」の悪い評価は、非常に具体的で、ボロカスに書いてあります。悪い評価が続いた後に、サクラ書いたと思われる良い評価が続きます。
他にも、
ハードウェアメーカーでもないのに「公式」と書いてある。
過去に会社名、サービス名を変更している。(悪評を一掃するため?)
のような会社は要注意です。
データ復旧に関するランキングサイトは、特定のデータ復旧会社がスポンサーになっているステマページの可能性があります。特定のデータ復旧会社が称賛されている場合は、信用できません。
データ復旧会社を選ぶ時は、後々後悔することがないように、慌てず冷静に復旧業者を見極めてくださいね。
私の会社(大人の事情で非公開)以外にも、良心的なデータ復旧会社はたくさんあります。
ちなみに、日本データ復旧協会という業界団体があります。ここの会員企業は、誇大広告や高額な費用を吹っ掛けるということはありません。ここの会員企業で、もし30万円以上の高額な見積もりになったら、本当に難しい復旧(中度~重度の物理障害)だと思われます。私の会社でも30万円以上の見積もりになることはありますが、復旧に2か月かかったりするレアケースです。