今回は、6/2(日)に開催される予定の”プリンスの丘自動車ショウ”参加に向けた準備作業を記事にしようと思ってましたが、作業をしていて写真を撮り忘れてしまいました。

台風の接近など天候が心配ですが、↓のようなイベントがあります。

 

【参考】昨年の様子

 

 

というわけで、今回はいすゞ・ベレットのご紹介です。

いすゞ・ベレットは、”和製アルファロメオ”と言われたスポーティーな車です。

また、日本で初めてGTという名称を冠したことも知られています。

排気量やタイプ別にバリエイションが多いため、私は詳しくベレットを語ることができません。

2ドアクーペモデルも1500クーペ、1500GT、1600GTと3種類あることを知りました。

今回はそんなベレット1500GTのインプレッション記事のご紹介となります。

↑1500GTの外観。1600GT及びクーペとはサイドのマークだけが異なる。

標準セダンより全長、全高が若干小さく、ボディも魅力的なGTスタイル。

 

諸元表。1500GTと1500クーペの相違点はツインキャブ、シングルキャブの違い。

 

■ベレット1500GT

いすゞ自動車の新鋭乗用車ベレットにはエンジンの種類(ガソリン、ディーゼル)、排気量(1300、1500、1600、1800(ディーゼル))、ミッション仕様、ドア枚数などの組み合わせで25種類があり、どのようなユーザの好みにも応じられるようになっている。

ベレットは”スポーティー・サルーン”とメーカーが宣伝するとおり、運転を楽しむ性格の強い車であるが、この特色をさらに強化したモデルとして1600GT、1500GT、1500クーペの3種類がある。

ボディーは3車共通だが、エンジンと変速機が違っており、エンジンの仕様は別表のとおりである。

今回試乗した1500GTは、「1600GTほど性能に徹したGTでなく、実用性もあって値段も安いほうが良い」という好みのユーザーを対象としたモデルである。

これは標準サルーンのエンジンをベースにしているので、価格も1600(93万円)より5万円安く88万円となっている。

フロント・ブレーキは、1600GTではディスクが標準装備になっているが、1500GTではオプショナルであり、試乗車はこのディスクブレーキを装備したものであった。

 

■抜群の操縦性

試乗コースは、大森のいすゞ本社から第2京浜、横浜バイパスを通って、平塚までの国道1号線を往復、途中かなりの悪路をも走ってみたが、まず操縦性の点から言うと、素晴らしいの一語に尽きるようであった。

サスペンションは、標準ベレットと基本的に同じだが、かなり硬めのバネを配した4輪独立懸架で、このためにタイヤのグリップが非常によく、かなりの悪路でもほとんど車輪が路面から離れることはない。また重心が低く、特に車体の重量配分が中央に集中しているので、急旋回やジグザグ走行のローリングが驚くほど少なく、ハンドルの切れがシャープで、操向の即応性が素晴らしい車である。

特にリアサスペンションはリングピンを車体に約35度ぐらい傾けて組付けたダイヤゴナル・リンクのスイングアクスル形式なので、旋回をすると後車輪が何かに引っ張られるように、小気味良くカーブの内側に吸い込まれるような感じがする。

 

 

ジグザグ走行をすると、普通の車ではサイン・カーブのようなわだちを画いて走るが、ベレットGTはまるで矩形波を画いて走っていくような感じを受ける。まるで横っ飛びをするような感じでジグザグ走行をするほど、操縦性の鋭い車である。

またこの1500GTは標準サルーンより、車体が低く、全高は1350mmしかない。

これはパブリカよりも低く、このためベレット・サルーンよりもいっそう操縦の安定性が増して、しかもシャープで凄みのある操縦性を発揮する。

そして単に操縦性が良いというばかりでなく、足回りが非常にしっかりしている。

このために過酷なアクロバット運転をしても、定盤の上をすべるような不安のない安定感の高い走り方をする。

 

■操縦性の良い理由

このように操縦性が良いということについては、もっともな理由があるが、それについては、かつてベレット・サルーンを試乗したときに詳述したのでここでは省略し、主な項目だけを上げてみよう。

まず”オーバル・ライン”と言う卵型の車体構成によって、車体の重量が中央に集中しているということ。構成部品を見ても車体の前端部と後端部、あるいは側面部の各部にはほとんど無駄肉が見当たらない。

このような車体構成は、車体の強度構成上有利であるばかりでなく、操縦性に非常に大きな影響がある。すなわち車体の重量が急旋回時の慣性抵抗にならないという利点である。このため急旋回時のロール・アングル(車体の傾斜角)が小さく、また前のめりも少ない。

次にサスペンションは4輪独立懸架であるためバネ下荷重が軽く、また4輪ともバネレートが高い(硬い)ので、タイヤのロード・グリップが良く、ローリングやピッチングも極めて小さくなっている。

フロントサスペンションはロア・アームの長さが短く、かつ、内側のピンの位置が車体の外側に開いているので、ロール・センターが高く、またスタビライザーは、かなり質の良いものを使っている。

 

 

■独特な後車軸の設計

リア・サスペンションは非常に特徴のある設計で、トレーリング・アーム式とスイング・アクスル式の双方の長所を取り入れた独特な方式。コイルバネと横置き板バネとを組み合わせており、旋回走行の際、旋回外側の車輪が旋回内側方向に走ろうとする働きをするので、普通のサスペンションに比べ、旋回性能が特に優れている。またデファレンシャルは車体に固定されているので、車室の床を下げることができ、この結果最低地上高を低くすることなく車の全高が低くできている。

つまり車室内の高さは充分にとってありながら、重心の低い車になっていて、これも操縦性能の上で非常に有利である。

この車の最低地上高は205㎜もあるが、国産車で200㎜以上の最低地上高を持つ車は、ドディオン・アクスルのプリンスとリア・エンジンのコンテッサを除いてはこのベレットGTだけだと思う。

結論として、この車の操縦性はGTカーにふさわしいというよりも、むしろ数あるGTカーの中でも際立った特徴のあるものと言えよう。

走行性能もまた優秀である。車体重量は930Kgで、4ドアセダンと変わりがないようであるが、エンジン(1500cc)はSU気化器2個を装備し77ps/5400rpmにパワーアップしたものを搭載している。

このため馬力当たりの重量は12.1Kgと軽く、加速性、アクセルの踏み込みに対する即応性も大変良く、粘りもあって、申し分のない走行性能である。

 

■第3速で120キロ

4速の変速機は、ギアが非常に接近した変速比(クロース・レシオ)で、第3速は1.387となっており、第3速でも120Km/hまで走ることができる。また最大トルク回転数は比較的高く、このエンジンでは4200rpmで最大トルク12Kgmがでているが、これは時速にすると第3速80Km/h弱の速度になり、この速度で走っているとまことにダッシュも踏み込みピックアップも鋭く、優れた操縦性と相まって快適な乗り心地である。

気化器は日立製のSU型をツインにして使っているが、この気化器とエンジンとのマッチングが非常に良いように思える。SU型気化器は可変ベンチュリ気化器であるので、エンジンの高速性能はよくなり、加速が円滑で、粘りのある特性を持っているが、その反面、アクセル踏み込み直後の立ち上がりが独特で、アクセル踏み込み直後に、普通のコンスタント(固定)ベンチュリ気化器の立ち上がりよりやや緩慢な息つきがあり、それから累進的に加速していく。したがってSU型気化器をつけたエンジンには、特有の加速の感触がある。

ところが、このベレットGTの場合、実はしばらく走ってからボンネットを開けるまで筆者はSU気化器がついていることに気が付かなかったのである。それは踏み込み直後の立ち上がりも良いし、中間の過渡状態の時のつなぎも良かったからである。

 

 

■SU気化器の特徴をフルに

SU気化器の場合、加速の過渡状態の時のベンチュリの開きと混合比は、メインノズルのニードルバルブの形状とオイルダンパーの特性の2つによってのみ決定される。したがってこれだけのシンプルな要素から、平常状態と、あらゆる過渡状態におけるコントロールを、エンジンの要求に理想的にマッチさせることは、なかなか難しい技術である。だから、エンジンと気化器のマッチングが良ければ、この気化器はコンスタント・ベンチュリ気化器の追従できない素晴らしいパフォーマンス(性能)を発揮する。が、最初のマッチングが悪いと、後からどのように調整しても不具合は避けられない。たとえば踏み込み直後のレスポンスをよくすれば、加速の過渡状態の時にウィークポイント(力の弱いところ)が出るとか、あるいはその逆の現象を生じるとかで、一癖ある気化器になってしまう。ベレットの場合。このマッチングが大変良く、SU気化器の特徴が充分に生かされていると思われた。

 

 

 

 

乗り心地はベレット・セダンと似ているが、かなり硬めで、GTカーとしてはいくぶん硬すぎるのではないかと思われた。スポーツカー並みの感じである。GTカーはグランド・ツーリングであるから長距離旅行に耐えうるスポーツカー並みの車ということで、スポーツカーよりは乗り心地が1段良くなければならないのではないかと思う。

ただ疲労感はセダンと同様、少ないようである。振動のサイクルターンが非常に短く、いわゆる早い振動で、ローリングやピッチングも復元タイムが短く、また大きな凸凹に対してかなり十分な吸収能力を持っているので、悪路を走ってもその割には車体は揺れず疲労感は少ない。

ただ一口に言って、ごつごつした感じを受けた。

また騒音の点はエンジンおよびギアの騒音が大きくて、GTカーとしてはちょっと落ち着きに乏しい感じである。

 

■信頼性の大きいディスクブレーキ

ブレーキはフロントにオプショナルのディスクブレーキがついており、そのつもりで乗ったのであるが、効き具合は非常に良いようであった。ブレーキの効きが確実で連続使用しても制動効果が落ちないようで、少なくとも人間の感覚では、制動効果の変化は感じられなかった。

また高速走行で急ブレーキをかけたときの効きは非常に強力で安定しており、全速走行においてもショッキングな効き方はしない。またブレーキ周りの構成は、堅牢で踏みごたえのある良い感じであった。車が小型軽量であるので、ブレーキペダルの踏力も適当であり、決して重すぎるということもなかった。

ステアリング周りはラック・アンド・ピニオンを使っており、非常にキレがシャープで、確実な操向感覚である。ただ非常に硬く調整してあるようで、少し重すぎるように感じた。(セダンの方は逆に柔らかすぎるようだが)

GTカーであるから、どちらかと言えば重い目の方が良いのではあるが、少し重すぎるようである。

ただしこれは調整できるはずだから、自らの好みによって調整すればよいわけである。

 

 

 

■タマゴ型ボディーの荒馬

シャシー及びボディーについてみると、ボディーは一体構造(モノコック)であって、非常にしっかりとした構造である。車体の形状も卵型で、強度構造上有利な構造であるばかりでなく、製造技術の面からも軽量で丈夫な車体にできている。事実乗っていても、外部から受けた振動によって車体のどこかに共鳴が起きることは感じらられなかった。

車室は4人乗りになっているので、広さに十分余裕がある。最低地上高が高いのにもかかわらず床が低く、このためシートのひざ下が深くてよい。

総括的に言って、スタイルはGTカーであるが、性能はむしろ純スポーツカーに近く、見かけにふさわしからぬ荒馬のようである。以上は主として長所だが、次に気になった点を2,3述べてみよう。

 

 

まず乗り心地については、前述のようにギアやエンジンの騒音がやや高く、GTカーとしては乗り心地が硬い感じである。スポーツカーならば、これくらいが良いと思われるが…。

トランスミッションは非常にクロース・レシオで、それは非常に良いのだが、第1速のギア・レシオはもう少し大きいほうが良いと思えた。第1速は3.444で、これはかなり小さなレシオである。

第1速でのダッシュがもう少し強力である方が良いと思う。

またミッションのシフトレバーが、少し硬すぎるようである。せっかく短いシフトレバーを使っているが、ギアのフィーリングが、ヨークやレバーの機械摩擦抵抗に打ち消されて、充分に手に伝わってこない。もう少し柔らかくシフトレバーが入るようにした方が良いように思えた。

クラッチ・ペダルは、スポーティな感じを出す目的からクラッチの反応を敏感にするために、ペダル踏力を増したものと思えるが、少々重すぎるようで、これももう少し軽いほうが望ましい。

 

■味(あじ)がでればさらに魅力

ステアリングホイールの角度がかなり寝ているが、もう少し立てた方がGTカーらしい操縦感触が保てるのではないかと思う。ステアリングギアがラック・アンド・ピニオンであるから、ステアリング・ギアボックスの位置が低く、したがって当然このように寝かさなければならなかったものとも思えるが、このために、クラッチペダルを踏むとき、靴のつま先がステアリング・シャフトに当たりやすいようである。シャフトにUジョイントを使う(この場合コストが問題になろうが)などして、もう少し角度を立てれば、双方が解決して、さらに乗りよい車になるのではなかろうか。

次にブレーキペダルは、ブレーキを踏みながらダブルクラッチを使うことが容易なように、もう少し縦長の形状にした方が良いと思った。

最後に、この車は機械的には非常に優れており、例えば操縦性、走行性能の面でも、大変優秀な車だと思うが、それだけに一つ惜しまれるのは、この高い性能を人間の感触の中に溶け込ませる「つながり」になるものが欲しいということである。これは大変抽象的なことであるが、例えば味(あじ)とか、フィーリングとかの言葉で言われている、機械と人間とを密着させる何者かである。

これが伴えば、さらに申し分のないGTカーとなるに違いない。