マルチスポーツ ”多種目に取り組む” | 酒井根走遊会のページ

 

みなさんこんにちは。

 

酒井根走遊会です。

 

今回は『マルチスポーツ』というテーマでお送りします。

 

7月という時期

日本ではホクレンディスタンスチャレンジが終わると前半期は終わり、後半期への準備のために多くの選手が夏合宿に行ったり、走り込みをしたりすると思います。

日本の中学生・高校生では真夏の8月に全国大会があるので、その年代のトップ選手たちは夏の時期ではありますが、ベストパフォーマンスを発揮できるように日々厳しい練習に打ち込んでいるのではないでしょうか。

さてニュージーランドでは4月から始まったマラソンシーズンが7月のゴールドコーストマラソンで一区切りとなりました。ゴールドコーストマラソンはオセアニアエリア選手権も併設されており、ニュージーランドのトップランナーであるゼーン・ロバートソン選手やオーストラリアを代表するマラソン選手であるリアム・アダムス選手が素晴らしい走りで大会に花を添えました。

Gold Coast marathon 2019 → https://www.youtube.com/watch?v=8pGZ4tNrPC4

 

ダニエル・ジョーンズ選手

今回ニュージーランド・ウェリントンからダニエル・ジョーンズ選手(以下ダンと呼称)がゴールドコーストマラソンにNZを代表するシングレットを着て出走しました。

記録は昨年の記録をおよそ4分更新する2時間16分15秒で15位という結果でした。2時間16分という記録が今年ドーハで開催される世界選手権の参加標準タイムになっていることからも、記録におけるマラソン選手としてのレベルの高さが理解できると思います。

しかし興味深いことはタイムではなく、ダンの取り組むスポーツにあります。

(写真:ダニエル・ジョーンズより)

ダンはマラソンをメインにしたマラソンランナーではなく、“マルチスポーツアスリート”です。こちらは昨年書いた

ダニエルジョーンズ選手・インタビュー記事、ダンの取り組む“マルチスポーツ”に関してはこちらを参照してください。

2018年7月のゴールドコーストマラソンで初マラソンながら2時間20分6秒、2019年3月のびわ湖毎日マラソンで2時間18分40秒、そして2019年7月のゴールとコーストマラソンで2時間16分15秒と記録を伸ばしました。

ダンは昨年のゴールドコーストマラソン以降は“ランニング”という種目に専念せずに“マルチスポーツ”のトレーニングを行い、大会に参加して良い成績を収めています。ここから見えてくるのは、“半年マルチスポーツ・半年ランニング“という競技生活でどちらもパフォーマンスを向上させているという事実です。

(写真:ミユキ・マナミより)

右からダニエル・ジョーンズ選手、ハーミッシュ・カールソン選手、筆者

※ちなみに”Multi-”(多数の・複数の)という接頭辞。日本語では”マルチ”と発音しますが、英語では”モルティ”です。

 

 

多種目に取り組む競技生活・一つの種目に専念する競技生活

世界のトップレベルの選手を見るとそのほとんどが“一つ”の専門種目に取り組み、特化させることで素晴らしいパフォーマンスを発揮していることは事実です。

それはトップ選手のみならず、広く一般的に多くの選手に当てはまることだと思います。多くの選手が“一つ”の専門種目を選択して専門的な能力開発を行うことによってパフォーマンスが向上することを実感できます。特に体力や技術的な能力だけでなく、レース中の状況を読む“経験”などに関しての能力を伸ばすにはより多く回数をこなした方が有利になることは明らかです。

しかし“特化“させることは、専門種目では用いない別の能力が低下したり、同じ動きの繰り返しで慢性的な疲労によりパフォーマンスが低下したり、体に重大な怪我を負ってしまうリスクもあります。

 

多種目に取り組む競技生活は一つの競技における練習期間が年間を通じて行う場合よりも少なくパフォーマンスの向上も、専門的に行う場合と比べると小さいものになるかもしれません。特に年齢が若ければ若いほど、“練習時間”の違いが競技レベルの違いに顕著に現れます。

しかし多種目に取り組む競技生活は、年齢が若くても、年齢が壮年期に入っていても多くのメリットがある為、“一つ”に固執せずに多くの種目に挑戦してもらいたいと思います。

上記に紹介したダンのように、“目標・目的・戦略的な計画“があれば、多種目に取り組みながら、マラソンに取り組む期間は年間の半年しかなくても記録やパフォーマンスを向上させていくことは可能です。

 

以下に多種目に取り組むメリット、取り組む方法についてまとめました。参考になりましたら幸いです。

 

多種目(別のスポーツ)に取り組むメリット

・     運動神経を養う…様々な運動を行うことによってより適切に体をコントロールできるようになる。

・     ソーシャライズ…違う種目では違う種目の仲間ができる。

・  補助的な運動…補助的な運動をすることによってメインスポーツを補助する筋力やその他体の機能を強化できる。

・     負荷を分散する…同じ個所に常に負荷を掛け続けないこと(回復期間がある)ことによって重大な怪我・故障のリスクを減らせる。

・     伸び代を作る…専門種目に固執することによって、記録に直接的につながる能力開発に目が行き過ぎるリスクがある。多種目を通じて様々な能力を開発していくことによって長期的に一つの種目の成長を継続させることができる。

・     競技を長く楽しむ…多種目に取り組むことによって、一つ一つの競技に対する“情熱”“追及心”“探求心”“楽しさ”をより長く維持することができる。そうした“探求心”や純粋にそのスポーツを楽しむことは生涯スポーツへのキャリアへと続いていく。

 

 

多種目(別のスポーツ)に取り組む・取り組み方

①     ダンのように“半年間ランニング”・“半年間マルチスポーツ” といった取り組み方

多くのニュージーランドやオーストラリアの子供たちはこのようなスポーツシーズンを持っている。3か月~4か月サイクルで別のスポーツ(例えば、ラグビー3か月-ソフトボール3か月-クロスカントリー3か月など)に取り組み様々な運動をする。これによって一つのスポーツ技能の向上は年間を通じて3か月程度しかないが、総合的な運動能力という点ではバランスよく伸ばしていくことができる。これらの取り組みが一つの専門種目を選択したときにも大きな基礎体力となって多くのことを吸収して積み上げていける土台となる。

 

 

②     年間を通じた専門種目の中で期間を分ける取り組み方

トップアスリートでも長い競技生活を通して、パフォーマンスを維持・向上させて行ける選手が一定数存在する。こうした選手は元来持っている“才能”のみならず、“トレーニング計画のコントロール”が非常に優れている。年間や半年、もしくはそれ以上の期間を一つのサイクルとして、その中で段階的に“伸ばす能力”つまり“主として取り組む運動”を変えていき、最終的に一つの種目で目標を達成するという取り組み方を持っている。陸上競技の長距離のトレーニングは“長く走る”スポーツだがその中のトレーニングは多岐にわたる。こうした一つ一つのトレーニングと能力を理解して、時期を区切って主として行うトレーニングに変化を持たせることで、“専門種目”の中でも多種目に取り組むようなトレーニング計画で目標に迫っていくことができる。

 

③     メインスポーツと補助スポーツに取り組む

この方法は①の方法に非常に似ているが決定的に異なる点がある。それは“補助スポーツでは結果は求めない“という点である。①の方法では各種目やスポーツにおいてそれぞれ最終目標がありそれに向かってパフォーマンスを向上させるが、③では補助スポーツはあくまで補助で”趣味”や”娯楽”といったような感覚で捉えてもらった方がいいかもしれない。

例えば、ウェイトトレーニング後はテストステロンやアドレナリンが分泌され、気分が高揚する。水泳などで勢いよく泳いだり、ヨガでリラックスしたり、球技でチーム一丸となって連携したり、様々なスポーツで精神的な充実感を得ることができる。こうしたレクリエーションを通じてメインスポーツの基礎的な筋力や心肺機能を向上させたりすることができる。

そういった点では②の中における代替えスポーツ(例えば有酸素能力を向上させたいが走りすぎると故障するので水泳かバイクにトレーニングを置き換えるなど)に通じるポイントがある。そのため③は①と②のそれぞれを含んでいるといってもよい。

 

①     はジュニア期

②     は20代におけるピーク期

③     はスポーツを楽しむすべての年齢

といった層に分かれる傾向にある。

しかし実際にどれかに当てはまらなければならない必要もなければ、①②③のいずれかでなければパフォーマンスは向上しないということはない。

②が最も適している選手もいれば、①や③が適している選手もいる。もしくは②が適していたが、③にしてみたら思ったよりも順調に行えたという場合もあるだろう。

 

 

一つの例では昨年から私は以下のような取り組みで行っている

 

 

ウェイトトレーニングはほとんど趣味のように行っている。 ランニングのマイナスにならないように注意する必要もある。

 

7月~11月

・     スプリント (30m~100m)

・     ウェイトトレーニング

・     ロングジョグ

この期間はスプリントとウェイトトレーニングが補助スポーツであるが“楽しむ“範囲で行っているため、長距離のレースもまた“楽しむ”といった要素が強く記録は狙っていない。またスプリントとウェイトトレーニングを同じ日に行うことはあるが、長く走る日とスプリントは同時には行わない。そのため、走行距離としては週間でおよそ75㎞程度である。多種目に取り組むというところでいえば、スプリントトレーニングとウェイトトレーニングは私にとっては別のスポーツといってよい。ウェイトトレーニングはやり込み過ぎて体が重くなってしまうことがあるので注意が必要な種目ではある。

 

12月~4月

・     ワークアウト (200m~1000m)

・     テンポ

・     試合

この期間はメインの種目としてトラックのレース(1500m~3000m)における専門的な練習に集中して、一つ一つのワークアウトの負荷、体に掛かる負荷も高い。出場するレースは記録を狙ってピークを合わせる。

 

 

5月~6月

・     イベント

・     休養

この期間はもし出場したい大会があれば出場する。例えばトレイルであったり、ロードレースであったり、バイクライディングであったり、ウェイトリフティングであったり…

休養を取ることによって、心身のリフレッシュを図り健康な状態を作る。

 

 

このサイクルではまだ1年(2018/8~2019/5)しか行っていないので、少しずつ変化させていく必要があるが、2018年8月から大きな故障もなく一つ一つの練習で次につながっていく練習の流れが構築されてきたので次サイクルも継続して行っていく。

 

2016~2017シーズンの失敗

このシーズンでは、多種目すべて同時にメイン種目同様の取り組みをしていたことが失敗となった。やはり一つ一つの種目においての限度がある。また、自分の体がパフォーマンスを向上させて行ける適切な量と負荷がある。

※この時期はウェイトトレーニングの負荷とロングランの負荷が大きい状態でさらにワークアウトまで行っていた。

 

2019~2020シーズンでの挑戦

マラソンという種目に関しては、トラックレースをメインにおいた時に記録を狙うことは難しいと考えていたが、トラックのレースが12月~4月までということを考えると、スプリントとウェイトトレーニングを楽しんでいる時期に10月までならチャレンジも可能であると考えられる。有酸素キャパシティーをスプリントと並行して少しずつ大きくしていけば、高速レースには対応できないかもしれないが、一定のペースで42㎞を走り切れる能力は獲得できると考えられるため。