『ピーク』を作る = 『最高の状態』とは | 酒井根走遊会のページ
『ピーク』 最高の状態

みなさんこんにちは。
酒井根走遊会です。
今回は『ピーク』(最高の状態)についてお送りしたいと思います。

さてみなさんはレースに向けて『ピーク』を確実に作れていますか。

まずは質問です。
・年に何度も『ピーク』がある
・年に何度も『ピーク』を作る
・年に何度か期待しない好記録がある
・常にインターバルの設定ペースは一定で年間を通して変わらない
・ペース走のペースは常に一定もしくは速く、遅くはならない
・練習は常に自己ベストのレースペースを考えて計画・実行・評価する

このような意識のもと練習やレースを行っていますか。もしくはそのような期間を何年も過ごした経験をお持ちでしょうか。
実際に私は、『常にレースをできる状態』を目指し、それが強いランナーの証明であり、それがランナーの実力である、と2年ほど前(2015年)まで思っていました。オーストラリアにいた時は気が付きませんできたが、ニュージーランドに来た初年、故障をしながら過ごし、世界トップレベルの選手からナショナルレベルの選手までを外側から観察する1年間で、どうやら私の考え方は間違っている(世界中のトレーニング理論では主流ではない)ということに気が付きました。

結論から言うと『ピーク』と呼ばれる選手の『最高の状態』は年間(トレーニングサイクル)を通して1回、6週間~16週間ほどしかないばかりか、その期間(年間のうちの6~16週間)のみ専門の種目のレースとそれに合わせたレースペースでのトレーニングを行っている。ということをここ一年ほどでより具体的に各選手から聞いたり、一緒に練習したりする中で学ぶことができました。
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また故障が治り、ベースを作る時期が終わった後のマラソンへのステップは3か月弱でしたが『ピーク』を作ること、『最大の目標』を達成することを短い期間ですが体験することができました。中途半端な状態(ブレイクではなく、計画されない練習からの移行)から練習計画を始めたこと、また初めての経験だったためか、最終的に今回のサイクルではうまく結果に繋げられませんでした。
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今回こちらの記事にまとめ、トレーニングサイクルの流れと体と脳の反応をより理解したうえで次シーズンに臨めることで、次シーズンでの計画とステップアップを明確にしました。トレーニング計画と段階的なトレーニングは次回お伝えすることにして、今回は『ピーク』の考え方、作り方、方法、について具体的に解説していきます。
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『ピーク』の考え方

「ピークはピラミッドの頂上。」
2度のオリンピック1500mメダリスト・ニックウィリスの解説。

まずは長い時間をかけてベースを作る。筋持久力のアプローチ・神経系のアプローチ、ピラミッドの底面の両極端にある互いに違った能力を時間をかけて開発していく。

広大で厚みのあるピラミッドのベースができた後、ベースの上に筋持久力系の発展した閾値トレーニング+ロングインターバルなどの練習・神経系の発展したショート~ロングインターバル+ヒルトレーニングを行って、5000mや10000mといったレースでの能力を開発していく。

広大で厚みのあるベース・ベースの上の安定した状態で高さを出す中間部分が完成した後、ピラミッドの頂上、つまり筋持久力の開発の到達点では最大下スピードを維持しラストスパートで最大スピードを発揮する・神経系の開発の到達点では今までのレース中の最高速を最高速でなくし1500mのスピードでの動きをフィニッシュラインまでペース変化を持ちつつも持続することを可能にする。最終的に両極端で開発の始まった能力はピラミッドという巨大建造物の頂点で合致する。ここが『ピーク』であり、年間トレーニングサイクルの中での最終ゴールである。

1500mの選手ではトレーニングサイクルの最後の6週間は両極端から始まった能力開発は非常に近づいており、この期間は調子の上下はほぼなく常に高いパフォーマンスレベルで推移している。このピラミッドの頂点を計画的に作れることが自己ベスト、また最高のレースに繋がっている。

『ピーク』の期間

ピークの期間は1500mの選手で6週間~8週間ほど、5000mや10000mの選手で8週間から16週間ほどと考えている選手が多い。
ピークの期間を長く作る場合には、6週間ピーク期‐4週間練習期‐6週間ピーク期といったようにすべてをレースの期間に充てるのではなく、ベストを狙った後、体と心を回復させつつ練習の量を調整して再度ピークを作る方法が用いられることが多い。
この理由は、世界選手権やオリンピックの参加標準記録まで到達していない選手は4月~6月に記録を狙っているのでピークを作る。その後、最大目標の大会まで練習する期間を設け再度ピークを作る。

☆5000mや10000mでピーク期を長くとれる理由に関して

・レースペースが最大スピードより遅くなるのでレースペースインターバルなどの練習に取り組みやすい
・レースはほぼすべて次のレースのための最高の練習、という位置づけでも取り組めるため一つのレースに合わせていっても、その後のレースの準備にもなる

☆800mや1500mでピーク期が短くなる理由に関して

・レースペースが最大スピードに近いので、レースペースインターバルの練習は何度の繰り返せない
・最大下スピードを維持する練習は、疲労が蓄積されやすくピーク期のトレーニングはオーバートレーニングを生じやすい
・レースの距離が短いこと、レース展開によっては発揮されない能力があるので、必ずしもレースが練習になるとは限らない

☆ハーフマラソンやマラソンのピーク期

ハーフマラソンは5000mや10000mに通じるところも多く、さらにレースペースは閾値で走る距離が長いということを考えると、レースペースでの体にかかる負荷は最大スピードと比較すると大きくない。そのため、5000mや10000mのピーク期の取り方と同じか、テンポセッションを多く取り入れた場合さらに長くすることも可能である。しかし、距離が延びることでロードの接地面から受ける衝撃によって筋肉・関節は疲労するので、ピーク期においても適切な休養日をレース後に設定しなければならない。

マラソンのピークに関しては、トラックのレースと異なり年に3~4回ピークを作ることが可能になってくる。開発されるべき能力の種類が多くないこと、また筋持久力のベースがそのままレースに繋がることも起因している。しかしサイクルを4ヵ月と設定しピークをその中で考えた場合、4ヵ月の中の1日のみがピークということになる。マラソンのレースはピーク期において何度も走れるものではないので、すべてを準備してきて最後の1日が1度きりのチャンスとなる。


『ピーク』の作り方

ピークの作り方は前述した通り『広大で厚みのあるベース』を両極端からのアプローチで時間をかけて作ることにある。またこのベースを作り始める前に、体と心をフレッシュな状態(ブレイク*)にしておくことが重要になってくる。

・どれだけレースペースの練習を繰り返したか
(レースに対応する練習を年間これだけやったという自信)
・どれだけ休みなく距離を走ったか
(走り込みを誰よりも行った、誰よりも走ったという自信)
・レース前に適切なテーパリングをしたか
(常にハードトレーニングで、レースの前は体をフレッシュにしたことから得られる自信)

こういったことで得られるピークへのモチベーションは『ピーク』を作るのではなく、本来は『ピーク』を活かすためまたは『ピーク』にたどり着くまでの過程の一要素に過ぎない。
『ピーク』を作るということは、年間のトレーンングサイクルをブレイク期に適切に構成して、ベースを作る段階からすでに始まっているということを認識しなければならない。つまり流行りのトレーニングやスピードが足りないからスピード練習をする・スタミナがないから走り込む・体がぶれるから筋力トレーニングを行うといったように、その場しのぎで計画にないトレーニングをやみくもに足していった場合には、思いがけない記録が出ることもあるかもしれないが、計画された本来のピーク期は訪れない。
トレーニングサイクルの各段階において開発する能力とそれに則したトレーニング、各段階における自己評価を適切に繰り返した場合のみ最終的に『ピーク』(ピラミッドの頂上)に到達することができるのである。

『ピーク』中の練習

ピーク中の練習は基本的にレースペースでのインターバルやレースである。
各ハードトレーニングの間は30分から40分の軽いジョグとストライド、ドリルを行う程度で週間走行距離は60㎞~100㎞程度になる。ジムトレーニングやヒルスプリントなど筋疲労が溜まるような練習はほとんどしない。(このような練習で開発される神経系はほぼピーク期には開発された状態なので行う必要がない)

最大目標である大会の1週間~2週間前には、レースペーストレーニングはトータル距離でおよそ3㎞前後になる。例(800-600-400-400-300-300-200)など

最大目標である大会の4週間~6週間前には、レースペーストレーニングは閾値トレーニングと組み合わせてボリュームのある練習になることが多い。
トータル距離で6㎞~8㎞になる。例(1000mx4-600x3-400x2-300-200)など
このレースペースインターバルのトータル距離に関しては6㎞以下を推奨することが多い。これは6㎞以上になると最大下スピードが極端に落ちる。という世界中のコーチに多くみられる理解(見解)に起因している。

『ピーク』後、次のシーズンに向けて

ピークが終わった後(ピークは最大の目標とする大会を終えて自ら止める。止めないで継続することもできるが、最大の大会後が最も区切りがつけやすい。
(または、最大の大会後の約2週間後にもう一度レースを走ってブレイクとする選手もいる。)
ブレイク』とよばれる休養期に入る。ピーク期には精神面は充実し、何度も限界を超えるような走りをする。精神面の充実からくる脳への作用で、疲労感はあまり感じないが、体へのストレスは思った以上に大きくたまっていく。
そのため体と心を回復させるために、競技から大きく離れる期間を持つようにする。この『ピーク』後の時間をかけたアフターケアが次のトレーニングサイクルを充実させるだけでなく、長い期間にわたって競技を高いレベルで続けていくための重要な要素となる。
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日本のトレーニング環境で『ピーク』を作る

日本のトレーニング環境(外的環境だけでなく、チームスポーツや学校教育・コーチと選手の関係なども含めて)が諸外国と大きく異なることは私自身日本で競技を長く続けてきたので十分理解しているつもりです。この環境の中で欧米に見られる長期トレーニングサイクル・生涯トレーニングサイクルをそのまま取り入れ、各サイクルにおけるピークを作るということは非常に難しいと思います。

高校や大学を卒業し、自分一人で練習を行っている場合には可能だと思います。もしくは実業団チームを離れた場合においても可能でしょう。
しかしこの場合においては、一人の練習になるので今までの経験に基づいた練習になるため、『自分の計画』にはなりますが、新しい取り組みとピーキングにはならないのではないかと思います。自分一人になるので練習とペース設定に変化を加えられること、最新技術を用いて自分にあった練習を行えるようになることと、トレーニングサイクルを作ることはまた別にあります。

一人で行う場合、まずは体をフレッシュな状態にする期間を設け、そこからベースを作り、今まで行っていたレースペースのトレーニングを繰り返すだけのサイクルから離れることが、次のピークを作る第一歩になると思います。
ここで参考にするべきことは、強い選手がピーク期にどんなハードトレーニングを行っているか?ということではなく、年間を通して『どの時期に・度の距離のレースで・どのくらいの結果で・どのくらいの努力感で…』といったような段階を追った上がり方の長い期間のデータを分析することにあります。

一人でトレーニングを行い始めて、徐々に走れるようになってくると『ハードトレーニングで追い込もう・レースに積極的に出よう』という気持ちに駆り立てられます。しかし、レースペーストレーニングに入ってしまうと、筋持久力のベース・閾値トレーニング・神経系トレーニング・バランス能力などの能力開発をする期間がなくなってしまいます。
そのためピークに達する前(自己ベストに達する前)に調子が落ち込んだり、オーバートレーニングになったりしてしまいます。
こうした年間トレーニングサイクルとピーク・目標を相談できるコーチが周りにいるとよいのですが、日本ではチームから離れるとコーチはほとんどいないので、ランニングの専門書(特に海外のもの※ダニエルズのランニングフォーミュラ・セブコーの中長距離ランナーの科学的トレーニング・アーサーリディアードの陸上中長距離など)をよく読み、海外の選手がどのようなトレーニングサイクルと各段階の評価でピークまで至るのかを自分自身の練習計画と照らし合わせて分析してみるといいと思います。

高校や大学、実業団チームなどでは、『チーム目標』があり『チームの練習』があるので、まずレースペースでの練習をやめる・体を長期リフレッシュさせる、というところから大きな壁にあたりそうです。
こうした場合においては、故障や怪我などを理由に一度練習から離れた時期が良いスタートになります。故障や怪我をした時期には、あまり競技のことを深く考えずに体を確実に回復させることを優先します。

(もし競技生活を3年または4年だけ、と考えている場合にはこの限りではなく常に自分の限界を試していく方法も良いと思います。この期間の設定は個人の考えによるところが大きいので絶対はないということです。私が解説している内容は生涯にわたる競技キャリアを延ばすことを優先して書いています。)

体がフレッシュな状態になった後、そこから6ヵ月~9ヵ月先にある大会で、自分自身が最も結果を出したいと思う大会を設定します。ここで駅伝と記録会・日本選手権とそれに準ずる大会が合うと、チームとしても個人としてもちょうど良いと思います。もしない場合においても、日本では各週様々な大会が全国各地で行われているので目標設定には困らないと思います。

さて目標設定ができたら次はトレーニングサイクルの計画です。チームの練習(レースペースでの練習)に合流するまでに、自分でベースとなる練習(脚筋力・神経系)を十分に開発した後、テンポとストライドに入ります。このテンポとストライドも長い時間をかけて自分自身で行えるといいと思います。幸いにも日本の練習はテンポに通じるペース走というものがどのチームでも行われているので、チーム練習の中に合流することができます。しかしこの一つの能力開発に偏ることがないように、短くしたり、ヒルスプリントなどを入れるなど自らの工夫をもって取り組んでいけると、確実にチームの中でも『自分自身の能力開発』を行うことができます。

最終的にチーム練習(レースペースの練習)でいい手ごたえを持ち、自身がいい結果を出すことはチームメイトやコーチの誇りと自信につながっていくことは間違いないでしょう。

それでは思い立ったら行動ですね。


とは言いません。

まずは自分自身のここ1年ほどの練習を振り返り、どのような練習計画を行ったのか、『ピーク』はあったのか、どのような流れで、体と心の状態などを細かく分析し、的確な目標を適正な時期に設定することから始めましょう。
そこからは一つ一つの練習で新しい刺激を受けて絶えず変わってくことを意識できれば、『ピーク』と『最大の目標』での良い結果が期待できます。
次の目標へ、期待感が高まってきたのではのいでしょうか。
今回の記事を読んで頂き、いま走りたいという新鮮な気持ちが心の中にあればうれしく思う限りです。