みなさんこんにちは。
酒井根走遊会です。
前回の記事からニュージーランドコーチによる”1500mとマラソン”の違いについて考察しています。
前回の記事では以下①~④の、①能力開発 ②準備期間についてまとめました。 ☆前回の記事に関してはこちらから☆
① 開発能力
② 準備期間
③ ランニングフォーム
④ 遠征方法
今回は、③ランニングフォーム ④遠征方法 について考えてみましょう。
③ ランニングフォーム
マラソン…省エネ、地面反力を使いながらも脚筋力・筋持久力で力をコントロール
1500m…より短距離に近く、強いばねと腰高、素早い挟み込み
左はマラソンでのランニングフォーム、右は1500mレースでのランニングフォーム
マラソンでは膝が高く上がりすぎず、一定のストライド・ピッチを2時間以上持続させることになります。この場合”最大スピード””最大下スピード”の発揮はなく、同じ動作の動きで同じ筋肉群を同じように動かしていきます。この場合トラックレースに見られる常に腰高であると同時に素早い挟み込みをあまり必要としません。むしろこの動作をJOGなどの遅い動きや疲労時に継続することは肉体的・精神的に苦しくなってきます。そのためマラソンを中心にトレーニングを行っている選手、”マラソンペース”を長時間・高頻度で多く行っている選手、または走行距離を重視したトレーニングを行っている選手はやや腰が落ちても脚で腰を支えて筋持久力で動きを持続させる癖がついているランナーが多くみられます。
1500mでは、腰高・素早い挟み込み・膝を高く上げる・最大下スピードでのペース変化に対応する動きが求められます。1500mを専門にしている多くの選手は基礎的な持久力・スピードを作った時期の後では、どのような練習においても常に上記のようなフォームで練習を行っています。疲労の蓄積を避け、常に上記のような動きで練習をできるようにトレーニング量をコントロールしています。1500m専門選手のランニングフォームの特性や筋疲労時のトレーニングはほとんどないことや、マラソンペースでの長距離走などがないことから、マラソンを走るような動きに対応できなくなってきます。
④ 遠征方法
マラソン…3か月~4か月に1回、年間に3回から4回、ピーク期に1回1レース
1500m…6か月~11か月に1回~2回、年間に1回~2回、ピーク期に1回複数レース
最後に遠征方法と上げましたが、”マラソンと1500m”のレースからくる年間スケジュールの中でのピークとレース頻度の違いを比較します。
マラソンは1回のレースでの体に掛かる肉体的・精神的負荷が高く、1回のピークに対して1回のレース(2週間前にハーフマラソンをこなしてマラソンに挑むなどの方法があるが、マラソンに関しては基本的に狙ったレースは1回のみ。)という形になります。
1500mは1回のレースでの肉体的・精神的負荷はマラソン程大きくなく、翌週もしくは2週おきなどでも同程度のレベルで走ることが可能です。
1500mの遠征では、2週間~4週間ほど同じ場所に滞在しつつ、レースの開催地へ向かう形がとられることが多い。マラソンに限らずロードレースの遠征スタイルは2日~1週間ほどの大会参加目的の滞在で自分の住む場所へ戻る。
1500mでは、以上のことから記録を出すチャンスが多いのではないか、という考え方もできます。確かにレースの回数で見た時に1500mの方が回数をこなすことができるので、”レースにおける修正”は行いやすいと考えられます。1シーズンが長いためシーズン中のうまく能力開発が進まなかった時期やトレーニング負荷に対する体への適応がうまくいかなかったシーズンなどの場合、課題を解決するには翌年の長いシーズンへ持ち越さなければなりません。つまりトレーニングサイクルにおける修正は1年間といったように課題解決に長期的な期間を要します。
マラソンでは、1サイクルの中で1回のレースとなるので、修正していくことが難しいのではないかと思われます。確かにレースを常に繰り返し続けるというのは非常に難しく、そういった方法での課題解決は困難です。しかしトレーニング開始からレースまでがおよそ3か月~4か月、長くて6か月のサイクルで行う選手が多く、年間に3回ほどトレーニング全体での課題、そしてレースにおける戦略などを修正していくことができます。
このようなシーズンの長さと遠征方法からマラソンと1500mの特性が大きく分かれます。こうしたポイントを理解して今年は『どのレースで結果を出したいのか』・『何を目標とするのか』を具体的に決めると目標達成がより現実的になります。
マラソンを狙った計画、1500mを狙った計画、どちらがより自分に合っているのかということを分析してみるのも良いと思います。
追記
ここまで両端の1500mとマラソンで進めてきましたが、『すべてのレースを楽しみたい!』という欲張りなランナーも大勢いると思います。さてその場合どのようにトレーニング計画を練ると良いのでしょうか。
マラソンを基本にしたとき → HM → 10000m → 5000m → 1500m
1500mを基本にしたとき → 5000m → 10000m → HM → マラソン
といった具合に種目が繋がっていきます。
つまり間にある10000mを目標としたトレーニングを行っていると、1500mでの能力獲得・マラソンでの能力獲得が可能になってきます。
10000m基本でマラソンへ対応させていくには → VO2 → 閾値 → マラソンペース
10000m基本で1500mへ対応させていくには → 閾値 → VO2 → 無酸素性作業閾値
といったように能力開発を進めると ”1500m⇔マラソン” の競技力の差を補うことができます。
10000mを基本において”1500m”と”マラソン”両方にチャレンジする場合、”マラソンペース”での練習を極力減らして、”イージーランニング””ロングラン”の頻度や距離を少しずつ上げ”有酸素ベース”と”持久的脚筋力”と高めることを行うと、スピード系の練習の負荷や頻度をある程度保つことができます。また”有酸素ベース”の発達に伴い、糖を多く消費していくペースレベルを向上させ、脂質代謝と糖の利用をバランスよくマラソンのレースで発揮しイージーペースのレベルがマラソンペースに近づいていきます。前回の記事で記したように”マラソンペース”の練習に偏ると、他の能力開発や維持は非常に難しくなってきますので”マラソンペース”に近い”イージーランニングペース”が基本的にできるようなレベルまで”有酸素ベース”を開発していくと良いでしょう。
同様に『”1500m”に挑みつつも、たまにマラソンにもチャレンジしたい』といった場合、鍛錬期やレース期に関わらず常に高い走行距離を維持していくことが重要です。マラソンで”多く走った方が結果が出やすい”と考えられている一つのポイントとして”持久的な脚筋力”と”フォーム”が大きく関係しています。走り込むことによって、1500mなどのレースでは見られない”跳ねない””ストライドの狭い”フォームに自然と近づいていきます。そのフォームを繰り返すことによって、接地時間の長い状態に体重を支えている筋力が発達します。スピード系の練習では”力強いインパクト”、”素早い膝の振出”といった脚筋力は発達しますがそれは2時間以上も動きを維持するためのものではなく、3分から4分のスピードとパワーで勝負を決する種目に特化した筋力でありマラソンの持久する能力とは異なってきます。
別の問題としてはシーズンの作り方です。まずは10000mのベースとレースペースを獲得するのに約4か月、そこから専門的な能力開発を2か月程度割り当てると6か月~10か月ほどの長さになります。もし年間のトレーニング計画に捕らわれなければ、年間ではなく18か月や2年などの長さをもって計画していくことも可能です。特に日本は1年中レースが開催されていますので現実的です。
どのようなタイミングで練習を変えていくのか、いつ体を休める期間を作るのかといったことは各選手次第といったところです。
しかし世界のトップランナーを見た時に1500mとマラソンを両立するような選手はまず見られません。戦略的なトレーニング計画のもとに目標達成を狙う場合は、やはり専門種目に絞り、狙ったピークで狙い通りのパフォーマンスを発揮する方法が最も確実だということを多くのトップランナーが体現しています。
”ランニングを楽しむ” ことがトレーニングや競技を継続していく上で最も大切なことであると思いますが、 ”生涯の自己ベスト” を狙ったときには、一つの専門種目に絞って数年計画で挑んでみるのもまたランナーにとっての楽しみの一つになると思います。