1500mとマラソンを両立できるのか? | 酒井根走遊会のページ

みなさんこんにちは。

 

酒井根走遊会です。

 

先日まで日本に帰国し練習やレースを楽しんでいたのですが、ランナーの方々とお話しし『酒井根走遊会のブログ』の読者の方が思いのほか多く、長く更新が滞っていましたことを非常に申し訳なく思います。

 

さて、オセアニア地域では3月~4月初めでトラックシーズンが終わります。

昨シーズンは個人的な目標は1500m-3‘59”を設定していましたが、最終的にはシーズン初めの1500mでの4’05”がシーズンベストになりました。

今年は日本に帰国する予定もありシーズンを少し長めに5月初めまでと設定し、3月中旬から4月中旬までは練習のボリュームを増やし5月のレースを迎えました。

最終的に4‘06“と何とも悔しい結果に終わってしまいましたが、初めて中距離を目標とするシーズンを終え多くの学びがありましたので、そういったところを中心に私のコーチやNZランナーから頂いた”中距離ランナーの走りの理論“を解説していきたいと思います。

 

 

 

1500mとマラソン

 

最初にこの部分に触れたいと思います。私のニュージーランドで出会ったすべてのコーチと目標を設定することについて話すとき、もしくは実際にコーチングを受けてディスカッションする時に 『1500mとマラソンは違う』 という言葉が入っていたことはとても印象的でした。

では”1500m”と”マラソン”では一体何が異なっているのでしょうか?

 

①     開発能力

②     準備期間

③     ランニングフォーム

④     遠征方法

 

大きく分けて挙げると以上のような事項になります。

 

今回は①能力開発・②準備期間に関して書いていきたいと思います。

 

①     開発能力

マラソン…筋持久力 → LTスピード → Vo2 → 筋持久力+マラソンペース

1500m…筋持久力・スプリント → LT・Lスプリント → LT・Vo2・無酸素 → 1500mレースペース

 

この部分は多くの人が理解しているポイントだと思いますが、よく聞かれるのは

 

『マラソン練習をしているから1500mは走れない。』

『1500mを狙っているからマラソンは走れない。』

 

ということです。本当にそうなのでしょうか?

これは実際に多くの人が体感している通り正しい反応と感覚といえます。しかし実際には1500mとマラソンをどちらも同程度の競技力で走れる人もいます。日本の長距離選手でよく言われるところで

 

1500m4‘00 → 5000m15’00

5000m15‘00 → 10000m31’00

10000m31‘00 → HM68’30

HM68‘00 → マラソン2:23:00

 

となり、1500mとマラソンを直結させると以下のような形で表されます。

 

1500m4‘00⇔マラソン2:23:00

 

日本で1500mを自己ベスト4‘00で走る選手は多くいることと思います。

こういった選手が同時期にマラソンで自己ベスト2:23:00で走るのはあまり想像できません。

市民ランナーでマラソン2:23:00の選手も多くいると思います。

市民ランナーでマラソンを2:23:00あたりの選手で4‘00で走る選手もそう多くありません。

 

両方のベスト記録を持っているというのはよくあることですが、同時期に両立するというのは非常に難しいことです。

 

これは開発している能力に大きな違いがあるからです。

 

日本の市民ランナーでマラソンが強い選手は、 ”マラソンペース” での練習を多く行っています。また1000mや2000mのインターバルも行うので、Vo2レベルも高い選手が多いです。そのためマラソン~10000m(10k)を走れるが、それより短いと走れないという選手が多いです。さらには距離走とペース走+インターバルを主な練習にしている選手は、マラソン~ハーフマラソンまでで、マラソンが2:23:00/ハーフマラソン70‘00あたりでも5000m15’30/10000m32‘00といった選手もよく見られます。

 

1500m4’00で走る選手は ”無酸素性作業閾値ゾーン” での練習を多く行っています。そういった選手が有酸素能力開発のために1000mのインターバルを行う光景もよく見られます。そういった選手は1500m~5000mを走れるが、10000m~マラソンは走れないという選手が多いです。

 

マラソンを目標にしたとき、 ”マラソンペース” を体になじませることをトレーニングの中心においているので、その他の練習は ”マラソンペース” を楽に長く維持させるための練習となってきます。そのため、”無酸素性作業閾値ゾーン””Vo2ゾーン””閾値(LT)ゾーン”などの開発強化を長い時間かけて行わなくても、もともと発揮しやすいトレーニングレベルである ”マラソンペース” の開発強化は行えます。また、日本では ”マラソンペース” での練習が中心になり、トラックレースのあるシーズンには ”VO2ゾーン” の練習も行うとうい選手が多いように見受けられます。

マラソンで結果を出すために ”マラソンペース” 中心に常に取り組んでいるため、マラソンペース以外の能力は開発しにくい状況が発生します。他の能力開発も進めるとマラソンのピーク期を逃してしまうことも考えられるので、ピュアマラソンランナーは約3か月~4か月サイクルで、 ”マラソンペース” を中心にしたトレーニングサイクルを作っています。

 

1500mを目標としたとき、”無酸素性作業閾値” と ”最大下スピード” といった能力開発が必要になってきます。この能力だけに絞って能力開発を行うことも可能ですが、スプリント種目ではないので、”最大下スピード” を出し・持続させる練習を繰り返さなければなりません。繰り返すためには基礎的な筋持久力・ミトコンドリアを ”軽いランニング”、基礎的なトレーニングレベルを向上させる”閾値(LT)ゾーン”、最大下スピードの繰り返しの基礎となる ”VO2ゾーン” での能力を構築したところに ”無酸素性作業閾値ゾーン” のトレーニングを位置づけることが効果的です。

そのため、中距離では ”マラソンペース” での長距離のランニングはあまり練習計画に入ってきません。並行して行いたい場合にも、優先される開発能力がある為、”マラソンペース” での疲労と回復をトレーニング計画に組み込んでいくのは難しくなります。

 

~マラソンペース~

ここで挙げた ”マラソンペース” というものが、中距離にとって非常にあいまいなペースであることも1500mとマラソンを両立できないポイントにもなってきます。”マラソンペース” は ”軽いランニング” より速く ”LTペース” より遅いペースです。軽いランでも60分や90分走ればある程度疲労します。”閾値(LT)ペース” では練習で20分以上の継続は推奨されません。マラソンペースはこの”閾値(LT)ペース”に近いペースで40分や60分、時に2時間近く練習で行うことになってきます。このような ”マラソンペース” で掛かる体への負荷から 『他の能力開発をするタイミングがない』 といった状態に陥りやすい側面を持っています。

他の能力開発で特に大きく左右されるのが ”無酸素性作業閾値” ”最大下スピード” です。このスピードゾーンでの練習は常に1500mのレースペース以上を快適に走れる体の状態で臨むべきであるため、 ”マラソンペース” と並行して開発していくことは、体に掛かっている負荷と回復・体への適応というサイクルの中で非常に難しくなってきます。

 

 

②     準備期間

マラソン…3か月~6か月

1500m…6か月~9か月

 

準備期間に関してすべてのランナーと種目を統一するのは難しいと思います。というのは能力開発期間において関わってくることが多く、個人差が大きいからです。

 

ここで挙げる各能力開発は

 

・ 軽いランニングペース

・ マラソンペース

・ 閾値(LT)ゾーン

・ VO2ゾーン

・ 無酸素性作業閾値ゾーン

・ スプリント

 

等、そしてそれぞれの開発期間は

 

・ 年齢

・ 競技年齢

・ 競技歴

・ 筋繊維タイプ

・ 心泊数範囲

・ ランニングメカニクス

・ ランニングエコノミー

 

といったことが関わってきます。

 

長年ランニングを競技として取り組んだことがあるランナーは自分自身がどのようなタイプか、感覚的に理解していることが多いことと思います。

以下のようなものが例になってきます。

 

例1)    トレーニングシーズンをスタートしたのち、閾値ペースでのランニングはすぐにできるようになるが、400mなどのインターバルは能力開発がはかどらない。ハーフマラソンのベストに近いタイムでマラソンをそのまま走れる。

 

例2)   400mなどのインターバルで5000mのレースにはすぐに合わせられるが、閾値ペースやマラソンペースが苦手でレースからさかのぼっての能力開発段階が見えない。いつまでたってもマラソンペースで走れる距離が伸びない。

 

例1で考えられることは、・閾値ペースでのランニングエコノミーに優れている。・マラソンペースなどの筋持久力的能力に優れている。・心拍数ゾーンで閾値レベルがもともと高い。

などが考えられます。

 

例2で考えられることは、・400mなどのVO2ゾーンでのランニングエコノミーが高い。・もともとの最大下スピードに優れている。・ペースを上げた時に心拍数がVo2ゾーンへの到達が早い。

 

他にも考えられることは多々ありますが、簡単に挙げられる点ではこのようなところです。

 

今まで行ってきたトレーニング経験や、レースでの経験、自分の自己ベスト(どの種目で比較的他の選手よりも優れているか)、行ってきた練習での心拍数ゾーンの結果、などをもとに自分のタイプを分析して、トレーニングシーズンにどの能力にどれくらいの時間をかけて開発するのかということを明確にしておくと、目標に向かってどのくらいの時間を必要とするのかが見えてきます。すでに目標が決まっている場合には、それに合わせて各能力開発にどれくらい時間をかけられるのかということも詳細に計画することができます。

 

 

※     各能力開発段階における注意点(特にコーチ・セルフコーチング)

※①     ジュニア世代では各能力開発に関わらず、記録が向上していく様子はよく見られます。これは体の機能の成長と同時に記録が向上しているためであるので、練習の状況と記録の向上に関して相関性がないように見えるときもあります。こういった時期に記録のみに執着してバランスの取れていない練習をするとその後の停滞に繋がります。ジュニア世代では特に、コーチが年間のトレーニングと選手特性を分析し緩やかな成長曲線を描けるようにミーティングをしていく必要があります。

 

※②     20代後半~趣味でランニングを始めた、もしくは再開した市民ランナーにとって『まずは体力向上』を目指し、基本的なランニング時間の増加に取り組んだところ、マラソンだけでなく1500mや5000mのタイムも練習をしなかった状態に比べれば必ず向上します。しかしより多くの能力開発を求められる種目に関しては向上が止まり『自分には向いていない』『もともとスピードがない』といった結論に考えなしに達することがよく見られます。基本的な体力レベルの向上、持久的ベースの準備ができたのち、簡単に分けて『速いペースで走るだけの日(スピード練習のみの日)』『JOGだけの日』『ランニングフォームのみを改善する日』などをバランスよく行うことによって、ゆっくり長く走っているだけでは改善できなかった能力の開発を行うことができます。こうした『日ごとのトレーニング目的に応じた内容』を定められるようになると、少しずつではありますが、JOG中心のマラソンランナーでも能力開発と体の反応を体感して獲得していくことができます。

 

 

今回は1500mとマラソンに関する、①開発能力 ②準備期間 に関して書きました。次回はこの続きで ③ランニングフォーム ④遠征方法 について書いていきます。