無酸素性エネルギー | 酒井根走遊会のページ
無酸素性エネルギーと有酸素性エネルギー

酒井根走遊会オセアニア支部からの更新です。
10月中旬から右足中足骨を痛め、約2か月間走る練習から遠ざかっています。
近況としては、最近の練習で自転車トレーニングを行っています。
先日、八田秀雄著『乳酸を使いこなすランニング』と田畑泉著『タバタ式トレーニング/究極の科学的肉体改造メソッド』を読み、今まで長距離の練習で開発できなかった『無酸素性エネルギー供給機構』を開発しようという試みのために自転車トレーニングを導入しています。
『無酸素性エネルギー供給機構』については、上記文献を参考にしていただくか、『乳酸の再利用』や『酸素借』といったワードをインターネット上で調べていただけると、どのようなことかわかると思います。

今回のブログで記したいことは、『能力の開発』と『練習効果』というところが主な内容になります。

まずは、無酸素性エネルギーの能力の開発について
タバタ式トレーニングの実験
・20”スプリント(最大酸素摂取量の170%)∔10”回復×6~7回
・週4回×6週間
タバタ式トレーニングの実験結果
・無酸素性エネルギーを30%改善
・有酸素性エネルギーを10%改善

谷本啓剛のトレーニング
・自転車エルゴ・アップ18分(回転数130以上)
 →5分以降1分に1回10秒スプリント回転数190~220 (心拍数170まで上げる)
・20”スプリント∔10”回復×8回
谷本啓剛のトレーニング結果

1週目
最大心拍数/170以上の運動時間(s)
1 170/7
2 174/90
3 165/0
4 175/120
5 178/180
2週目
1 178/180
2 162/0
3 174/43
4 175/156
5 172/20
3週目
1 176/166
2 174/142
3 172/31
4週目
1 175/124
2 177/172
3 174/134
4 172/43
5週目
1 171/35
2 169/0
3 171/35(20"-10"×24)
4 168/0(20”-10”×24)
5 168/0(20”-10”×24)

以上のような内容です。4週間は確実に無酸素性エネルギー能力を開発する状況(170以上/170以上を維持)で練習を行えています。
最大心拍数が170以下になってしまった日は、疲労を残した状態で足が回らなかったことが原因です。
さてここからが課題の5週目に入ります。
5週目の2回目は体はフレッシュな状態でしたが、8本目までに170以上の状態を作れませんでした。3回目以降も8本目までに170以上の状態が作れなかったのでそのまま継続して170以上を記録できるまで行ったところ、24本になりました。
4回目・5回目は170以上を24本までに記録することはできませんでした。
20本以降極端に回転数が落ち、脚に来ている状態(オールアウト付近)になっており、これ以上継続は困難な状況です。

ここでの疑問は、
①「4週間で無酸素性エネルギーの能力は十分に開発されたのか」
②「今後このトレーニング内容を継続して効果は得られるのか」
という二点です。

① 「無酸素性エネルギーの能力は十分に開発されたのか」
この点に関して、「無酸素性エネルギーの能力は開発された。」といえます。
というのも、同じパワー・同じ回転数・同じ走行距離(もしくはそれ以上)を行うにあたっての心拍数が下がっているということは、無酸素・有酸素性エネルギーの供給が以前よりも優っているということが結果として現れています。
しかし「無酸素性エネルギーの能力が十分に開発された。」ということは現時点ではわかりません。
というのも、遺伝子の限界点としてこのままトレーニングを継続して延びる可能性もあれば、すでに遺伝子の限界を迎えこれ以上の能力開発は困難な状況なのかはまだ分からないためです。

② 「今後このトレーニング内容を継続して効果は得られるのか」
この点に関しては、即答することは難しくなります。
前述したとおり、遺伝子の限界を迎えていれば、効果はほとんどないので効果を得るのではなく、体力レベルとして維持するだけになります。
しかし、体の能力を開発しきれていない場合に関しては、さらに効果を得ることが可能になると思います。

ここからは『走る』練習も併せて考えてみましょう。

「能力をさらに開発し、効果を得るために」
自転車エルゴメーターの運動では、
①回転数を上げる
②トルクを上げる
走動作によるインターバルトレーニングにおいて、
①ピッチを上げる
②ストライドを上げる

これらの2つによって、運動の強度(速度とパワー)を増すことができます。
しかし問題は、
自転車
①回転数を上げる、トルクを下げる
②トルクを上げるためには、回転数を落とす
走動作
①ピッチを上げる、ストライドは狭くなる
②ストライドを広くする、ピッチは落ちる

という反比例が起こります。

自転車運動・走動作でどちらにもいえることは、
①速く動かす能力は、神経系とバネを鍛える
②トルクを上げる能力は、最大パワーを鍛える

こういった能力を開発する必要があります。
この①・②は常に『20”-10”×8』というトレーニングで効果を得るために、さらにトレーニングを広げていく方法です。
走動作によるインターバルトレーニングにおいては、疾走距離(時間)と回復時間・本数(距離)は変えずに、同じ練習で負荷を上げるために、トップスピードを上げたり、走り方を変えたり、ペース配分を変えたりといったような主観的な走りの内容を向上させることによって、同じ練習でもさらに効果を得て能力を開発することができると考えられます。

『トレーニング方法が同じ➡トレーニングで得られる能力が同じ』

ということになります。

トレーニング方法を変えずに、その能力をさらに伸ばすためには、成長期→停滞期→成長期...を繰り返さなければならず、停滞期にどのような補助的な能力を伸ばせるかで、その後の能力の開発速度が変わっていくと思います。補助的なトレーニングも多数存在するため、同じトレーニングの限界というのは1か月や2か月といった短い期間で訪れるものではないと考えられます。しかし、補助的なトレーニングは目に見える数値で確認できないことも多くありモチベーションを保つことが難しくなるかもしれません。


「能力を開発するために、ベースのトレーニングを変える」

これはどのようなことかというと、私が5週目の3・4・5回目で行っているようなことです。設定した170という心拍数をクリアするために、ベースのトレーニングを変えることによって能力を開発しようという狙いです。
しかしここには問題点があります。
トレーニングの本数を増やすことによって、目標とする数値に近づけることはできます。しかし、本来の目的である「無酸素性エネルギーの能力開発」という点では、目的から外れているかもしれません。
というのも170という数値を達成するために、10分以上の160から168といった中程度の負荷の後に高強度になるため、高強度になった時点では、心拍数のみ負荷がかかり、回転数やトルクは落ちているために、実際に『速く運動するための高負荷』を得られていない、また動員される筋肉群も疲労し、実戦的な能力の向上にはつながらないと考えられます。

これを『走動作』によるインターバルに置き換えると、
400m×⒑(70-60)→400m×20(70-60)
1000m×5(3'00-60)→1000m×⒑(3'00-60)

つまり、
『トレーニングの変更→得られる能力の変化(同じ能力を開発できない)』
ということになります。
しかし、トレーニングの変更は必ずしも悪いことではなく、広い意味での『追い込む』ということに関して、追い込み方を広げ、最終的に別の能力を十分に開発できる可能性も持っています。

上記例のインターバルの変更は、5000mのための能力開発のための変更ではなく、10000mへの練習の移行ととらえたほうが正確な意味を持ちます。

この点から見えてくることは、日本人が長距離を好み、欧米人が中距離を好むことにもつながっているのではないかと考えられます。

欧米系の練習スタイル
・ジュニア期は多くのスポーツをシーズンごとに行い、年間を通しては行わない
・多くの選手は同じサイクルとトレーニングプランを繰り返し行い結果を評価する
・メイン練習となるウエイトトレーニングやクロストレーニングを行う
・ブレイク期が年間に1回ある
・マイレージという考え方が根強い

このような考え方や取り組みは、年間のトレーニングを通じてある一定の上昇の仕方を明確にしているように考えられます。成長期→停滞期→成長期、回復期(停滞もしくは減衰→次のシーズンへの準備)といったように同じ種目に対する能力を十分に開発していくために年間、そして選手生活の計画を設計できるような流れがているように考えられます。

日本人の練習スタイル
・ジュニア期から集中して同じ競技を行う
・トレーニング内容を評価しつつも、さらに行えば結果は必ず上がると考える
・軽負荷の補強を毎日行う
・回復期を年間を通じて取らない
・走行距離にこだわりがある

このような考え方や取り組みは、目標とするレースを決定づけた後でそこまでにできることを、長期にわたって継続する考え方で練習を行っています。そのため回復期はなく、能力開発というよりも、体力の向上を競っています⇨ベンチプレスを何回、懸垂を何回、ハイクリーンやスクワットを何キロといった具合です。そのため、短期的に結果が出なくなった場合には、距離を延ばす(種目を変える→発揮する能力も変わる)ことによって、結果を向上させる傾向にある。種目を変えるもしくは距離を延ばしていくことによって適正種目を発見しやすいが、適正種目を失いやすい⇨能力開発以前に移行してしまうという側面も持っています。

前述したように、日本人は400m70”や1000m3’00、3000m9’00といった目標値にこだわる様子が見て取れます。これは『5000m16分台15分台14分台13分台…』という数値で選手を比較していることが原因であると考えられます。マラソンに関しても、サブ3・サブ2,5といったような数値に対する意識から練習のペース設定がなされているように感じます。どういうことかというと、スピードの能力の開発はある程度もしくはナチュラルスピードとして考え、開発をせずに、いかに現状のスピード(ペース)を長く維持できるかということに主目的が行きがちです。結果、練習の強度ではなく距離が増えていくことになります。

欧米系の選手に関しては、常にトップスピードで練習を行うわけではなく、ある程度抑えたペースで練習を開始し、少しづつ同じ距離と練習内容の中でさらに速いスピードへとシーズン中に上げていくような方法を取ります。
これは短距離のシーズン中の考え方に似ているところがあると思います。
オフ期に『走動作』からやや離れ、能力開発のための一次的な能力開発を行います。シーズン当初は走りにすべてが直結していないのでやや抑え目な練習で状態を確認しながら、練習を効率的に行うことによって、7から8割程度の負荷でも能力を開発できるように上げていきます。ある程度『走動作』とタイムが一致してきた後に、さらに同じ練習の負荷を上げていくことによって、結果としてさらに大きな効果を期待できます。
中長距離においてこの考え方を的確にとらえて実施したほうが、競技をより長く継続するだけでなく、さらに改善していくことにつながると思います。

例えば朝練習・午後練習で60分間を2回、一週間行ったとします。遅筋繊維内におけるミトコンドリアは増えるかもしれませんが、ある程度向上したところで止まります。
さらに向上させるために、筋力トレーニングやスピードトレーニングを行い強化を図ります。しかし新しい能力を向上させるうえで、毎日行う60分JOG2回が能力の向上に働くのではなく、他の能力の開発の阻害をしていることがあります。
毎日2回の60分JOGにおけるマイナス要素例
・遅筋繊維が刺激を受けすぎて、速筋繊維が動員されない(最大パワーの低下)。
・速い動きに対する神経系の感覚が失われる(最大・最大下スピードの能力低下)。
・筋疲労からトップスピードが出ない(ストライド・ピッチ頻度の低下)

こうした状況で、上記のような能力開発に取り組んでも、
・体が思うように動かない
・最大努力で練習していても身体能力に対する負荷が上がらない
という状況になりがちです。

日本の練習では、基本の練習ができるようになって後から様々な練習を追加していくことが一般的です。しかし基本の練習が多すぎて、あとから追加された練習(他の能力開発のための練習)効果が半減もしくはなくなっていることに気が付かなければなりません。もちろん後付け(追加)の練習で能力を開発していける選手も多く存在しますが、すべての選手ではありません。
自分の練習の中で、習慣的に行っている練習も実は他の能力を開発するにあたってマイナスに働き、総合して走力の効率的な向上につながっていないという状況に陥っていないでしょうか。

自転車運動は走れない間の代替練習ですが、効果があれば今後もつづけていきたいと思います。まだ走る練習を行っていないので『走動作に対する効果とマイナス要素』はこれから検証していく予定です。

また現在はジムトレーニング(フリーウエイト・バランストレーニングなど)も行っているので、筋力を向上させたうえで、筋肉の弾性力を走動作に活かせるのかも走る練習とレースの中で検証していきます。

長距離の練習に関しては、『私の長距離の練習サイクル』を継続して行っていく中で、負荷を増やす(レベルアップ)にあたり距離に頼るのではなく、自身の今まで意識していなかった能力開発
・トップスピード
・ランニングフォーム
・バランス感覚
・神経系
・最大筋力パワー
・瞬発力
・中間筋線維
・無酸素エネルギー

こういった能力を開発する練習を
バランスよく

→効率的に効果を得られるトレーニングサイクル
→トレーニングの組み合わせ
→トレーニング頻度

・30㎞走った後に100mを10本行うと効果を得ることができるでしょうか。
・毎日1000m×5を行って最大能力を引き出せるでしょうか。
・5㎞TTの次の日に5㎞TTを行うことにTTの効果は最大に得られているのでしょうか。

練習計画に組み入れていくことが、ただやみくもに何キロ走った、何時間増やした、といったボーナスの距離を稼いで長距離のレベルアップを図ろうとする考え方から抜け出すことにつながると思います。

以前記したように、フォームの悪い60分間JOGを毎日行うより、10分走って15分ドリルでフォームを作り直して、10分走る40分間のトレーニングのほうが走る能力を改善できるといったことにあらわされていることと同じことです。


ここまでが、この故障中に行った練習の中間報告です。
足の具合は随分とよくなってきているので、今週末に走れれば走ろうと思います。
また、走るメイン練習と無酸素性エネルギーの能力の開発を組み合わせて、トラックシーズンにつなげられるように計画していくのでそちらの報告も今後行う予定です。

私事ですが、最近『ビーガン(完全菜食主義)』になりましたので、栄養に関する情報についても発信できればと思います。