みなさんこんにちは、酒井根走遊会です。
今回は、『筋持久力 (Muscular endurance)の開発と適応 効果的なパフォーマンス向上戦略』というテーマでお送りします。
最近は、海外中長距離選手のトレーニングで流行っている『閾値走』が日本でも重要視され取り入れられていると思います。今回の記事では、参考記事"Mascular Endurance: All You Need To Know"を参考に、こうしたトレーニングがうまく効果を発揮する場合、効果が出ない場合について解説しようと思います。今までのトレーニング分析や、来季のトレーニング計画の参考になりましたらうれしく思います。
テンポ走やインターバル走は重要だがその前に有酸素ベースは必須
1. 筋持久力 (Muscular endurance)とは何か?
筋持久力(ME)は、参考記事の中で、
『筋肉が運動の繰り返しにわたって、最大出力に対して比較的高い割合を発揮し続けられる能力』
と定義されています。簡単に考察すると中長距離でのレース中に発揮するような努力感で運動を維持し続けられる能力となります。また、MEの開発と適応をまとめると以下のようになります。
『筋力を高めることは筋持久力を高める可能性があるが、筋力だけでは不十分であり持久力は筋繊維の種類や代謝特性に依存する』
= 筋持久力(ME)を向上させるトレーニングは、ミトコンドリア含有量と毛細血管性が高い遅筋線維(ST)と中間線維(FTa)のベースを作ったうえで、その後に筋出力のやや高い持続的な運動をトレーニングに計画する必要がある。
2. 基本的な有酸素運動の重要性
参考記事での基本的な原則は、『“有酸素基礎は不可欠なベース”であり、以下の二つを効果的に開発できていればピーク持久力の90%は完成している。』と述べられています。
トレーニングアプローチの最初の「2つの重要な要素」は以下の通りです。
#1:大きな有酸素運動の基盤を築く
有酸素能力(酸素を供給しエネルギーを生み出す能力)が基盤
#2:その上に筋持久力トレーニングを重ねる
筋持久力は、強い有酸素運動の基礎に加えて育成される
重要なポイント
‐ MEトレーニングは、従来の有酸素(低強度)ボリュームに加えて追加されるべき
‐ MEのトレーニングのために有酸素トレーニングをあまりにも減らしすぎると、パフォーマンスの向上は停滞するか低下する
有酸素タンクとMEタンクの簡単なまとめ
- 有酸素ベース → 燃料精製所(ミトコンドリア、毛細血管)を形成する
- ME特質 → 長期間燃料を効率的に(筋出力を高く長く)使うことに体を適応させる
3. MEトレーニングの戦略的導入
今回紹介した記事では、低強度有酸素ベースの構築を第一においています。その理由はMEの適応メカニズムが以下に依存しているためです。
- ミトコンドリア密度
- 毛細血管ネットワーク
- 酸化酵素活性
これらは主に低強度の有酸素運動によって作られ、中強度のMEトレーニングでは成長しません。
有酸素ベースなしでMEから始めると:
”局所的な筋疲労耐性の高まり”・”筋力や剛性の一時的な高まり”が起こり、一時的にパフォーマンスが上がったように見られます。しかし、結果的には”筋繊維内の有酸素機構は完全に発達しない”という状態に陥ります。
その結果、以下のような状態がみられるようになります。
- MEは早期に停滞
- 疲労はより早く蓄積
- 怪我やオーバートレーニングのリスク増加
- 耐久力は脆くなる
有酸素ベースを作らずにMEを強化しようとしても早期に限界に達してしまいます。この限界に到達するとは、ある程度ピーク時と似たようなペースで閾値走やヒルトレーニングを積めたとしても、一回一回の練習ごとのレベルアップが感じられず、同じレベルの練習を常に繰り返してしまうような状態です。→ 現在、テンポ走やヒルトレーニングで持久力アップを狙って取り組んでいるのに、パフォーマンスレベルが上がらないというのは、有酸素ベース不足による適応能力の欠如からきている可能性があります。
4.トレーニングでのME適応戦略
#1: 低強度→ME ※参考記事推奨
- 低強度、高ボリューム
- 有酸素運動の基礎を優先
- ペース走・坂道・坂ダッシュ→MEの開発・適応につながる
→ MEは大きな有酸素ベースの持久力に長期間適応
#2: 中・高強度→ME ※文化的に観察されるが、参考記事で推奨されない
- 高強度インターバルなどを重視して頻繁に行っている
- 坂ダッシュ・スピード練習などを特に外さないように練習している
- その後、イージーランニングも追加
- 中強度トレーニング(テンポ走など)をトレーニングに組み込みMEに適応させようとする
→ 早い段階でMEの最大適応限界に到達してしまう
5. 文化的洞察とトレーニングへの適応
#1:日本のトレーニングシステムがマラソンの強さを生み出す理由の一つ
『ジュニア期からシニア期にかけて巨大な有酸素ベースを構築することで、MEベースの強化を将来的にハイボリュームで進めていくことができる。』
注意点:有酸素ベース(距離)への信念が強くなりすぎて、MEや他のトレーニングを意識的に導入してしすぎてオーバーワークに陥る可能性がある。もしくは、MEに固執しすぎて有酸素をしなくなる可能性がある。(※練習量の多いチームにいた選手が、チームを離れたのちスピード練習のみの練習で数年良い結果を出せた経験などは、有酸素ベースの重要性を過小評価させる側面がある。)
#2:西洋のシステムは時にME開発を遅らせて持久力向上の機会を保留する理由の一つ
『MEをジュニア期に積極的に開発しないことによって、シニア期に入ってからの有酸素ベース+MEベース強化の恩恵を受けることができる可能性がある。』
注意点:将来的なタンクを残して置ける一方で、ME開発にこだわりすぎて有酸素ベースがおろそかになる危険がある。(※近年では、ヤコブ選手のトレーニング2重閾値・“閾値の2部練習”などの影響で、有酸素ベースが低いまま中強度の練習頻度を上げすぎる傾向が広まりつつある。こうした場合、適切なMEの開発・適応はできない可能性がある。)
6. 考察・まとめ
日本の距離走文化は、理論を用いずとも高い筋持久力を育ててきた背景があります。しかし、その裏側では多くの選手が、“量”に傾倒した練習に適応できずに挫折してきました。それに対し、西洋の持久系モデルは、有酸素能力・最大筋力・筋持久力を分解し、意図的に積み上げる方式が広く普及しており中距離トレーニングで高いパフォーマンスレベルと誇ってきました。ただ、西洋式も万能ではなく一つの能力を開発する練習が流行となり、適応できないようなトレーニング計画を生じさせてしまうことも多々あります。
今回の記事では特にMEを高頻度で行うタイミングを戦略的にトレーニング計画に組み込むことを日本・西洋のトレーニング文化の中で解説しました。これまでも、トレーニングの層というのはたびたび議論の的になってきましたが、やはりレース計画に追われる中では、適切なタイミングが見落とされがちです。勝負強い選手・コーチ、または長期にわたって活躍するためには、意図的にパフォーマンスレベルを引き上げる時期を作ることは必須です。VO2インターバルはレース前のパフォーマンスアップとして効果的に感じている選手・コーチが多いことと思いますが、このME開発適応時期も同様に使えるようになると、効果的なピーキングにうまくはまるかもしれません。または、調子がなかなか整わない選手やチーム状況の原因を探るの一つとして分析要因となるかもしれません。
是非、現在のトレーニング計画の中やこれまでのトレーニング分析での参考にしていただければと思います。
