暁の車① | 世に棲む日々

世に棲む日々

ほぼ毎日腐ってます。
特撮だったりBSRだったり歴史だったり
コスプレだったり。

―あの日も、今日と同じように雨が降っていた。

屍の上、雨が降り、濡れたままで山川は立ち尽くしていた。

「どうだ、山川。官軍になった気分は」

どこか嘲笑うような問う声に、山川は目を閉じる。

問うた男―山田顕義は、続ける。

「これが正義だ。幾多の屍の上に立ち、生きている者が官軍となる。

…お前はこれを望んでいたのだろう?」

紡ぐ言葉の前に、山川の脳裏に9年前の故郷の光景がよみがえる。

「…分かりません」

死んだ妻や友人。

「確かに俺は、俺たちは、会津の汚名を晴らすために今日まで生きてきました。」

燃える故郷。

「…ですが、」

山川は曇天の空を見上げる。

「…官軍とは、こんなに虚しいものなのですか」

あの日と同じように立ち尽くし、空を見上げる。

何を守った。

何の為に戦った。

何の為に―…

「大蔵」

そう呼んだ小出鉄之助は、振り向いた山川の表情を見て思わず「しまった」という表情を浮かべた。

一瞬、躊躇したが言葉を続ける。

「長州の前原殿が、武器の明け渡しについて軍事奉行を呼んできてくれとのことだ。

城内で待っている」

「わかった。すぐに行く」

山川はじゃりっという音を立て、瓦礫の上を歩きながら廃墟と化した鶴ヶ城内へ向かった。

その背中を、小出は見つめ、視線を山川の立っていた場所へと移す。

そこには、筵の山―正確には井戸―であったものがあった。

戦死者の埋葬が間に合わないため、井戸に遺体を埋葬していたのだ。

(…登勢さんも、あの中に…)


死に目には会えなかったという。

山川の妻であった登勢は、戦争の最中、砲弾の破裂に巻き込まれて死んだ。

山川がその報告を受けたのは、登勢の遺体がすでに井戸に埋葬された後であった。

遺体が山のようになっていて、どれが登勢かもは分からない。

「登勢は立派に働き、最後まで立派に死にました。貴方の妻として、山川家の女として、見事に果てました」

山川の母、唐衣は大蔵にそう告げた。

その瞳は、夕焼けに染まり潤んでいるようにも見えたが、山川は無言で頷いた。

「これを」

唐衣は着物の切れ端を山川に渡す。

掌に収まる大きさで、糸は解れ、朱色が黒ずんでおり、ところどころ焦げている。

「登勢の着物の端です。…お持ちなさい」

山川は、その切れ端をそっと掌に乗せ、じっと見つめ。

そしてきつく、きつく握りしめた。

まるで、登勢を抱きしめるように。

小出は井戸を見つめ、先ほど振り向いた山川の顔を思い出した。

(…泣いていた)

気の強い大蔵のことだ。

この井戸の前で、人知れず自分を責め続けていたのだろう。

冷たい雨がぽつぽつと、涙のように降り続く。

(大蔵…ごめん)

会津の人々の命運を、若干23歳ですべて背負った友人。

どれだけ重かっただろう。

その象徴でもある鶴ヶ城を、小出は見上げた。

鶴という名の通り白い城は、今はもう黒く傾いており、砲弾の跡が痛々しくいくつも残っていた。

それでも倒れず、凛と立ち続ける城に向かって、小出は叫んだ。


(大蔵。会津は負けてない。この城のように、立ち続ける限り)