イタリアのエトナ山が噴火したらしい | バイカルアザラシのnicoチャンネル

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 今月、イタリアのシチリア島にあるエトナ山が噴火しました。この火山はよく噴火することで知られています。伝説では古代ギリシャの自然哲学者エンペドクレスが火口に身を投げたといいます。彼は万物は火・水・土・空気からできていて、それらを結びつける愛があり、それらを分離させる憎があると考えました。愛と憎が集まっては離れ、それが繰り返され消滅することもない。この宇宙は愛と憎の支配の繰り返しである。


 これに共感したのが、イギリスの詩人マシュー・アーノルドです。当時のイングランドは産業革命さなかで貧富の格差が広がった時代です。特に都市部の労働者は悲惨な生活を強いられていました。また、当時進化論や科学主義が台頭し、キリスト教的な信仰を揺るがす学説が広まっていました。ジョン・ニューマンはキリスト教信仰を復興させるためにオックスフォード運動を始めました。この新しい波に対し強硬な論陣を張ったのがアーノルドの父でありラグビー校の校長をした人です。父は剛直な人で何にも惑わされず迷わないことを信条としていました。それに対して息子はまさに迷うために生まれてきたような人物で疾風怒濤の生活をしていました。人々を幸せにするはずの産業の発展が人々の貧富を拡大し、労働者の生活を貧富のどん底に落としている。人々に光明をもたらす科学の発展がキリスト教信仰という精神世界を破壊している。彼の懐疑的な精神はいっそう深刻になっていきます。


 やがて産業革命で需要と供給のバランスが崩れ、イングランドは安い原料をアジアやアフリカに求め、余った製品を高く売りつけるあこぎな商売を始めました。それが帝国主義、植民地主義へと変わっていきます。キリスト教的なヒューマニズムは消え、ひたすら植民地から富を搾取するプロテスタンティズムへと変貌していきます。


 彼は、「エトナ山のエンペドクレス」を書きました。なぜエンペドクレスがエトナ山に身を投げたのか。それはアーノルドがエンペドクレスそのものだったからに他なりません。かれはこの作品を書くことによって自らを亡くして、新しい自分に生きようとしたのかも知れません。青年期は疾風怒濤の時代を生きると言います。彼が生きた時代は社会自体が疾風怒濤であり、自分自身のアイデンティティーをどう統合するか。それは、一度エンペドクレスになって、彼をエトナ山の火口に放り込むしかなかったと言えましょう。その苦悩がこの作品を産んだとも言えます。伝説ではエンペドクレスは神の境地に達して、それを完結するために火口に身を投じたと伝えられています。この作品以降のアーノルドは、「教養と無秩序」や数々の詩を書いています。アーノルドは生きることで何が大切なのかを終生追求した人です。一言で言えば、「よく生きる」。この言葉は様々な解釈ができそうですが、意味深い言葉です。「エトナ山のエンペドクレス」の日本語訳は古書でしか読むことができません。英語の原文は下記のデジタルアーカイブで無料で読むことができます。

https://archive.org/details/empedoclesonetna00arnorich/ 

 

 これは今月16日に噴火したエトナ山の様子です。4Kでも見えます。