星空夜話 今夜の月は立ち待ち月 | バイカルアザラシのnicoチャンネル

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 サイコロジストの日常と非日常を季節の移ろいを交えて描いています。バイカルアザラシのnicoちゃんの独り言です。聞き流してください。

 今夜の月は立ち待ち月です。 やっとお月様が出てくれました。 電気のない頃、満月の月出は丁度夕食時に出てきます。 月は24時間50分で地球を一周(地球から見た見かけの運動です。月の公転周期は27.3日で、地球も公転しているので月の満ち欠けは29.5日になります。)するので、一日50分ずつ遅れて出てきます。 昨日の十六夜までは夕飯が終わったころ。 満月から二日経つと100分も遅れて出てくるので、古代人は月出を待っています。 もう何もすることはなく眠るしかない時間帯です。 人々は立って山の端から出てくる月を今か今かと待っていました。 そこから満月から二日目の月を立ち待ち月と呼ぶようになりました。

 

 今夜も月の出を立って待っていたのですが、なかなか出てくれません。 そこで木星を撮ってみました。 射手座付近の名前もついていない星々がいっぱい写っています。 9等星から12等星の暗い星々です。 さらに西側には南斗六星があり、天の川が南の水平線に流れています。 この付近はスターダストをまき散らしたような世界です。

 

 木星付近をアップしてみると前回のガリレオ衛星の位置が変わっています。 左からカリスト・ガニメデ・エウロパ・イオで、木星は明るすぎて縞模様や大赤斑が写っていません。 もちろん衛星は木星を周回しているので地球から見ると位置が変わります。 木星の大赤斑、少なくともガリレオが発見したときから現在まで消えていません。 アメリカの探査機ボイジャーが木星の大赤斑を撮影しています。 これは地球よりも大きな台風で風速は400m以上。 音の速さよりも速い風が吹いています。

 

 やっと月が出てきました。 立ち待ち月の月出です。 明日は居待ち月、その次は臥し待ち月と、立って座って伏して古代の人々は月を待ちました。 毎日50分ずつ遅れて出てくるのですから、月待ちもそうしないと体が持ちません。 それにしても古代人の月に対する憧れは私たち現代人よりももっと強かったのでしょう。 それが月の異名になりました。

 

 月が地球を一周するのが24時間50分とは面白い現象です。 なぜなら人間の体内時計がほぼこれと同じだからです。 これは偶然の一致なのでしょうか。 それとも月がヒトの体を何かのメカニズムで支配しているのでしょうか。ヒトの体内時計が25時間だとすると、放っておけば夜型になってしまいます。

 

 いっそうのこと、月の周回で一日の時間を割り振れば、人間の体内時計とほぼ同じになるのですが、日常生活を送るには日の出と日没に合わせる方が社会生活を送るには利便性があったのでしょう。体内時計と実際の時間のギャップをどう埋めるか。これは人間の体内時計をリセットするしかありません。

 

 睡眠を導入するホルモンはメラトニンと言って、これは副交感神経を優勢にし、体の機能にブレーキを掛けます。それに対し、レキシトシンは交感神経を優勢にし、体の機能にアクセルを掛けます。このメカニズムが分かると、体内時計をどのようにリセットすればよいかヒントが出てきます。一日は太陽の光を浴びることから始めます。そうするとレキシトシンが分泌されて交感神経が覚醒され、朝食を食べることによって血糖値が上がり爽やかに一日をスタートすることができます。

 

 一方、夕食を食べてお風呂に入って体温を上げておくと、時間が経つとともに体温が下がってきます。就寝1時間前には部屋の灯りを暖色に暗くします。そうするとメラトニンが分泌され副交感神経が優勢になり、スムースに眠ることができます。メラトニンは成長ホルモンにリンクしており、いいことずくめが体内で起こります。だいたい夜更かししたり、徹夜するとお肌が荒れるのはこれらのホルモンが充分に分泌されなかったために起こる症状です。

 

 逆に言えば、寝る前にお菓子を食べて血糖値を上げ、ビールを飲んでたばこを吸えばどうなるでしょう。利尿作用でさらに水を飲んで夜は何回もトイレに駆け込むことになります。テレビやゲームをすることはブルーライトを浴びることになり、交感神経が優勢になります。夜のアルコールは眠りに入るのには好都合なのですが、眠りが浅くなるというデメリットがあります。

 

 良質な睡眠は脳のためにも大切です。特に子供たちは様々なことを経験し、毎日が学びの連続です。獲得した知識や技能は大脳の中で整理しないと役に立ちません。私たちは一日で膨大な記憶をしているのですが、これを検索する、つまり引き出せないと何の役にも立ちません。実はこの検索をするためには頭を整理するプロセスが必要になります。不必要な物を削除し、一日で獲得した知識や技能を使えるように整理するのが睡眠の中で行われている作業なのです。今日経験したり記憶したことをより正確にする精緻化や同じような概念をリンクしたり階層化するカテゴリー化などの作業も私たちの睡眠中に行っています。この作業をしないと、せっかく獲得した記憶や思考はフェードアウトしていまいます。本当に頭のよい人はよく眠ります。パソコンではよくデフラグという作業をしないと作業速度が落ちるように、人間の頭の中もデフラグのように記憶ディスクを整理する必要があるのです。寝る子は育つとはどうも本当のようです。人間の大脳が健やかに成長するためには9歳は9時間の睡眠が必要です。これを境に9歳以下は15分を睡眠時間に足していきます。9歳以上は15分を引いていけば、子どもの適切な睡眠時間が割り出されます。大人は少なくとも8時間以上の睡眠をとることがいいとされています。

 

 一日、どこかでいいことやそうでないことは起こります。睡眠はいいことは記憶に残し、そうでないことは削除します。今日、人からイヤなことをされたり、不快なことがあったとして、それを一つひとつ覚えていたら恨みしか残らないでしょう。忘れることは私たちの心の安全弁のひとつです。それを睡眠という夜の営みでただでやってくれているのです。睡眠が浅くなったり、眠れなくなるとちょっとした鬱状態になるのはそのためです。

 

 それは、私たちの体も心も太陽とともに目覚め、太陽とともに眠るようにできていると言うことでしよう。朝は太陽の光を思いっきり浴びてしっかり朝食をとる。夜は早めに食事をしてお風呂に入り、部屋を暗くして眠る。私たちは地球という23時間53分4秒で一回りする惑星の上で生活させてもらっているのですから、そのリズムに合わせて生活するのが最善の方法なのでしょう。ちなみに地球の自転速度はナノ秒単位で毎日遅れたり、早まったりします。結構いい加減な惑星に住んでいます。