星空夜話Ⅵ 八月の満月はチョウザメ月 | バイカルアザラシのnicoチャンネル

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 今夜は八月の満月が東の空に昇っています。と言っても、十五夜になるのは5日の午前2時過ぎです。現在4日午後10時ですが月齢は14.8。満月の一歩手前と言ったところ。口径12cmの屈折望遠鏡で撮りました。八月の満月のことを英語ではスタージョンムーンと呼んでいます。つまりチョウザメ月のこと。ネイティブアメリカンがチョウザメを捕獲し始める頃なのでこのような月の名前になったのでしょう。二月の満月はスノームーン、四月の満月はピーチムーンなど日本と同じように月の異名がついているようです。日本では月と言えば仲秋の名月ですが、これは陰暦8月15日の満月を指します。今年は10月1日が名月です。と言っても、この仲秋の名月、必ずしも満月にならない年もあります。

 

 なにはともあれ、今夜は美しい月が出ています。月にはたくさんのクレーターがありますが、これは大気がないために小惑星が衝突した跡がそのまま残った物。風化や浸食がないため、衝突したままの形が残っています。名前がついているものだけで1554のクレーターがあります。クレーターの密度を調べていくと密度が高いところは比較的新しいものだと分かってきます。今から約8億年前、月にも地球にも小惑星のシャワーが降り注ぎました。その名残が月にも残っています。地球では大気で燃え尽きたり、風化浸食でクレーターの多くは形を変えています。この出来事は恐竜を絶滅に追いやった6550万年前の小惑星衝突よりも生命にとってははるかに大きな出来事だったでしょう。

 

 ところで、恐竜を絶滅させた小惑星は直径10km程度の物です。これがメキシコのユカタン半島沖に落ちました。津波は高さが1000m、塵が成層圏まで地球全体を覆いました。急速な寒冷化の始まりです。まず植物は死に絶え、草食恐竜が絶滅しました。そして、草食恐竜を餌にしていた肉食恐竜が絶滅。生き残ったのは私たちの祖先である原始的な哺乳類です。このとき75%の生命が死に絶えました。当時の地球環境に過剰適応した恐竜は進化の頂点に達し、巨大化していました。その環境に適応すると言うことは、必ずしもよいことではありません。一度適応してしまうと、環境が変わったとき適応できなくなります。たいした特徴のない哺乳類。この特徴がないという特徴は、急激に変化する環境に適応できるという性質を備えていました。さらに特徴がない最も最たる物がヒトです。人間こそ哺乳類で一番可塑性がある存在です。そして、言葉を持ち、道具を操り、好奇心の塊が知性を持つことで現在の文明を築いてきました。

 

 今夜は月の右側に土星、そしてさらに木星が並んでいます。実はこの木星、私たち地球を守ってくれています。巨大ガス惑星木星は自らの重力で小惑星を引き寄せ、地球に小惑星が衝突するのを身代わりになってくれています。近年、一つの小惑星が衝突し、木星が黒くなったのはよく知られた事件でした。ところが、この木星も地球に悪さをすることがあります。木星は自らの重力で小惑星帯にある小惑星の軌道を変え、それを地球に投げつけてくることがあります。小さな物は隕石のような物から、恐竜を絶滅に追いやった大きさの物まで様々です。

 

 話は元の戻りますが、8億年前に月と地球に小惑星のシャワーを浴びせた出来事は私たち生命にどんな影響を与えたのでしょうか。生命の危機は、生命がさらに爆発的に進化するチャンスとなったことでしょう。それにしても今夜の月は、空の水蒸気が多いせいか赤みがかって見えます。青みがかって見える仲秋の名月とは大違い。それはそれで風情があるものです。