日本で屈指の炭酸泉が湧き出る和歌山県花山温泉薬師の湯 | バイカルアザラシのnicoチャンネル

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 サイコロジストの日常と非日常を季節の移ろいを交えて描いています。バイカルアザラシのnicoちゃんの独り言です。聞き流してください。

 花山温泉に行く途中、粉河寺に寄った。ここは西国三十三箇所観音霊場で御詠歌にも出てくる由緒あるお寺。山門の前にあるお店に桃が置いてある。一盛りが500円、桜桃が三袋で500円。どれも甘い。氷をもらって早速クーラーボックスに入れた。この辺には桃源郷があり、桃を栽培しているらしい。

 

 チェックインが三時なのでまだ時間がある。和歌山市内に入って紀伊風土記の丘に行った。ここには資料館があるので風土記の文献があるのかと思いきや、古墳発掘の展示ばかり。風土記の丘には大小百近くの古墳がある。丘まで登って古墳を見ながら下りてきた。羨道も玄室も綺麗に残っている。それはそれでよかったが、風土記や万葉集の展示があるイメージで行ったらとんでもないことになる。

 

 日本でも屈指の炭酸泉が湧いている花山温泉薬師の湯。一泊2食付きで一万円以下で宿泊できる。源泉は無色透明だが空気に触れると茶色になる。濁っているのは二酸化炭素の小さな気泡だと思う。炭酸カルシウムが浴槽に半端なく結晶している。26℃の源泉の浴槽から41.5℃の大浴槽まである。看板には大浴槽で10分、源泉で5分浸かり、これを三セットすると効能があると書いてある。気持ちいいので、源泉ばかり入っていた。夕食は期待してなかったが、丁寧に作ってあって美味。普段食べられない珍しい食材がさりげなく使ってある。温泉と食事は最高だと思う。部屋は狭くエレベーターはない。昭和のたたずまい。

 ここはとにかく温泉にひたるために一日中まったりする宿だと思う。チャックインしてすぐに入って、夕食後は2回、朝食前にと朝食後の4回入った。5:30~8:00間では宿泊者しか入れないのでここが狙い目。朝一に入ると浴槽に炭酸カルシウムの薄い結晶が浮いている。二酸化炭素の気泡もたっぷり含まれている。8時になると一気に常連客が入ってくる。静かに温泉を楽しみたいなら夏は5:30の一番風呂に限る。チェックアウト後もその日は一日中入れるが、さすがに皮膚がふやけてきたので帰ることにした。

 

 帰る途中、吉野山の蔵王堂に行った。桜の季節には人また人でごった返す境内も今は静か。花供懺法会では採灯護摩を焚いていた行者達も別の顔をしている。緊張した表情で精悍な山伏姿は影を潜めて、温厚で物静かな女性にかわっていた。風が吹くと三体の秘仏がちらりと青く見える。秘仏公開は来年まで待たなければならない。でも、このちらりと見えるのが趣があっていい。

 

 境内から下りてくると観光客はまばら。まだ三時なのにのれんをたたみ始めたお店もある。なのにくずきりを売るお店だけが人が集まっている。葛餅と葛きりを作ってい説明している。二十分のトークをしながら葛の作り方や文化について事細かく説明している。若いイケメンの職人の言葉は流れるように街道に聞こえてくる。祭の日ならとても入れないのでひとついただくことにした。葛は温度と水の加減で美味しさが決まるみたいで、作り置きはできないらしい。作って10分以内に食べないと本当の美味しさは味わえないとか。食堂は、広い窓がありそこからは桜が見える。桜の季節ならどんな景色が見えるのだろう。

 

 花山温泉薬師の湯は日本屈指の炭酸泉だが、これとそっくりの温泉に入之波温泉がある。花山温泉は、紀ノ川の近くにある。入之波温泉は吉野川の源流近くにある。二つの呼び名があるが、奈良県では吉野川と呼び、和歌山県では紀ノ川と呼んでいる。つまり吉野川と紀ノ川は一本でつながる一つの川。紀ノ川は大台ヶ原と高見山を分水嶺として西に流れている。同じ分水嶺から東に流れているのが櫛田川。実はこの櫛田川沿いにも炭酸泉が湧き出ている。三重県側には松阪市にホテルスメールがありここで湧いているのも花山温泉や入之波温泉と同じ色をしている。さらに櫛田川沿いには谷から炭酸カルシウムの結晶が染み出ているところが数カ所ある。本格的に掘削すれば炭酸泉が湧き出るかも。紀ノ川も櫛田川も紀伊半島の台高山脈を分水嶺として東西に流れていること。二つの川はまるで紀伊半島を東西一直線に切り取るように流れている。さらに紀伊半島からもっとマクロに観察すると中央構造線が見えてくる。つまり、紀ノ川も櫛田川も中央構造線の近くにあるということ。さらに無色透明の温泉が空気に触れると茶色の混濁した炭酸泉に変わる。花山温泉も入之波温泉もスメールの三つの温泉も同じ泉質であることから、中央構造線との関わりは何か関連がありそう。温泉に入っていると新しい気づきを触発することがある。花山温泉の黄道色の湯船を見ながらそんなことを考えていた。