「アナタは上級者? その3」のなかで、上級者だからといってコーチングが上手いわけではない、というお話をしました。

 

「教えるのが下手」「語彙が少ない」「説明が迂遠で分かり使い」など原因はいくつかありますが、そもそもの理論が間違っている──実際の動きと自分のイメージが間違っている人も多く、また「再現性」と「対応力」によってボールを返すのが上手いだけで、決して技術的に理にかなった動きをしているわけではない人も、中に入るからです。

 

 例えば、フォアハンドを教えるときに「フェデラーのフォアハンドの打ち方を極めよう」となったとします。

 

 これはこれで全然OK。

 

 そして、コーチはフェデラーその人でないのであれば、コーチ自身がフェデラーのように打てる必要もないと思います。

 

 問題なのは、フェデラーのフォームを①正しく分析し、②正しく解明し、③正しく言語化できるか、です。

 

 

①正しく分析

 足の動きや手の動きを、その角度や移動速度、移動距離まで含めて、正確に分析しているか、です。

 

 筋肉の多い少ないは別として、各部位を動かす筋肉の種類や関節の位置は同じですから、その動きや働きを正しく分析しているかが、問題になります。

 

 

②正しく解明

 正しく分析をしたうえで、その動きを「○○という理由で、こうしているに違いない」と、解明することです。

 

 分析結果を元に、常に「なぜか」を追究し、動きの原理を明らかにする。

 

 オープンスタンスで、なぜ左足が上がるのか、という疑問に足して、

 

「そうすると安定するから」

 

 なんてのは最悪な解明です。

 

 

③正しく言語化

 これが難しい。

 

「体重を乗せる」「タメを作る」「一気に振り切る」

 

 みんなが共通だと思っている言葉も、受け取る側がちゃんと咀嚼できて初めて意味があります。

 

 自分が教えてみて、それを相手が実践できていない場合、相手の「自分の体を思ったように動かす能力」が欠如している場合と、そもそも相手にこちらの意図が正確に伝わっていない場合があります。

 

 そして、それは正直、どちらか分からない(笑)

 

 粘り強く、どれが正しくてどれが間違っているのかを、試行錯誤しながらやっていくしかない。

 

 だからこそ、本来のコーチングは、対面もしくは何回もやりとりをするような形でなければならないのです。

 

 

 ただ「下手なコーチング」の原因は、ほとんどの場合、①、②での間違いだと思います。

 

 特に①と②は連動しており、分析が間違っているから解明もズレている、というものになっています。

 

 なぜそんな分析になるのか、なぜそんな解明のしかた(解釈のしかた)になるのか、疑問になるようなことも多々あるのですが、ポイントはいくつかあると思います。

 

 

A:静止画を見ている

 これが一番多いような気がします。

 

 動画での分析は、情報が多い分、かなり面倒くさい。

 

 僕なんかは、録画したプロの動きなどをコマ送りなどで再生したり、一コマ一コマ、スクリーンショットで記録したりしますが、それをしていない人も多いのではないでしょうか。

 

 テニス雑誌などのコマ撮りの静止画は、以前もお話ししていますが、大事なポイントが実は映っていないときもある

 

 また、多くのテニス雑誌は、そのコマ撮りの静止画を、横方向に次々と並べているので、その動きをちゃんと読み取れる人がいないのと、かなり間違った分析・解釈になってしまうのです。

 

 

B:ポイントだけしか見ない

 これが大きな間違いです。

 

「そのフォーム、ほんとに目指してるの? その2」でもお話ししていますが、僕は、プロや上級者のフォームには、実践すべき、そして参考にすべき「ポイント」があると思っていて、それを実現するための動きそのものは、人によってビミョーに違うと思っています。

 

 しかしそれは、プロなどのフォームをまずは全て受け入れた上で、その中で大切な部分、役立つ部分、そして何より普遍的な部分を「抽出」するイメージです。

 

 それが「ポイント」となる。

 

 しかし、一部の人の中には、「最初から特定のポイントにしか注目していない」ときがある。

 

 多くは、どこかで聞きかじった情報、もしくは自分で思いついたことをもとに、それを「裏付けするような動き」だけを探そうとすると、そういうことになります。

 

 そうなると、他の部分の動きがめちゃめちゃになる。

 

 何度も言っている「なぜか」という分析が全くなく、「どうやってるか」だけを追い求めるから、その「特定のポイント」を実現するために、他の部分でつじつまが合わなくなり、全体として整合性のとれない動きになるわけです。

 

【次回へ続く:】