テニスだけでなく、多くのスポーツにはいくつかの「力」が必要になります。
が、このときの「力」にはいろいろな種類があり、しかもそれらは密接に関わっているため、線で区切って分けることがなかなか難しい。
しかも、それぞれの「力」の呼び方は、人によって異なるため(間違った用法も含めて)、なかなか共通理解をしていくのにも一苦労します。
それに加えて「テニスで必要な『力』はどれか」という観点においても、それぞれ考え方が異なりますから、ますます複雑になり、いろいろな情報が錯綜することになるわけです。
メジャーリーガーのダルビッシュ選手がよくおっしゃっている「走り込みは意味がない」という理論もあれば、それに反対する考え方も依然とあるわけで。
僕はあくまでも「バランス」だと思いますし、そのバランスは「個人」や「プレイスタイル」、そして「レベル」によっても大きく異なると思うので、一概に「こんな『力』をつけるべきだ!」とは言えません。
極論をすれば「全ての力」を手に入れられれば、それに越したことはないんですから(笑)。
そこで今回は、スポーツ理論を含めた「力」のお話と、実際に僕自身が部活動の指導の中で大切にしている「力」、そしてそれを手に入れるための練習やトレーニングについてお話したいと思います。
まず力──つまり筋力の発揮は、次のような流れになります。
① 最大筋力
その名の通り、筋肉が発揮できる最大の「力」になります。
② 瞬発力
筋力×速度によって生み出されるエネルギーの大きさです。これが大きいほど、またはその最大値に達するまでの時間が短ければ短いほど、瞬発力が高い、ということになります。
③ 持久力
①の最大筋力を維持し続けること、また②の瞬発力を繰り返し発揮できること、がこれにあたります。
まず① 最大筋力 ですが、これは筋力トレーニングをしなければ、なかなか向上させることができません。
筋力には「漸次性過負荷原則」というのがあって、一定以上の強い負荷を与えないと、そして筋力の向上にともなってその負荷をさらに更新して強くしていかないと、筋力は向上しない、というものです。
したがって、ただただフォアハンドを打ち続けていけば、フォアハンドのショットスピードが上がり続ける、ってことはない、ということです。
もちろん、フォアハンドの練習を積み重ねれば、どんなに理論は間違っていても力を効率よく伝えることは可能になりますし、長い間テニスをやっていれば、利き腕だけが太くなった、という経験をしている人はもちろんいると思います。
これをもって、
「テニスにわざわざ筋トレは必要ない!」
と言われることがあるんですが(笑)、僕が問題にしているのはあくまでも「効率」の問題です。
ただただ、お遊びでテニスを楽しむなら、そらぁ、筋トレなんかいりません。
けがをしない程度の最低限の筋力があれば、テニスは誰もが楽しめるスポーツですから。
しかし、試合に出て、しかもその上で勝ち上がるには、「速いショット」を打てるに越したことはありませんし、しかもそのために必要な筋力を「他の人よりも早く」手に入れられれば、より上に勝ち上がることができるわけです。
こういうふうにいうとまた、
「テニスは、必ずしも速いショットが打てなくても勝てる!」
って怒られるときがあるのですが(笑)、これも、速いショットが「打てない」より「打てる」ほうが、明らかに試合には有利なわけで、それを度外視して「力が無くても勝てる!」って力説されても困るのです。
そしてこれは②に関わることなのですが、①の最大筋力が非常に高くても、それを動きにつなげ②瞬発力として発揮できなければ、ショットの速さ、にはつながりません。
それこそが「使えない筋肉」と呼ばれるものになります。
そして「瞬発力がない」状態にも2種類ある、と僕は思っていて、一つは強い筋力を一瞬で発揮するための神経系のトレーニングが足りていないもの、もう一つは、動きの習熟度が低い──つまりフォームが悪いために最大筋力を生かし切れていないもの、の2つです。
まず、1つめの「最大筋力を一瞬で発揮するための神経系のトレーニング」は、筋トレのなかに盛り込まなければ身につけることができません。
例えば、バーベルやダンベルをあげるときには、
「勢いを使わず、ゆっくりとあげたほうが筋肉に効く」
と言われるのですが、高重量を爆発的にあげるトレーニングをあえて入れることで、多くの筋肉繊維に一度に収縮刺激を送るトレーニングが可能になります。
これは、実際にやらないとできません。
筋肉はできるだけ「余力」を残そうとするためです。
2つめの「動きの習熟度が低いために最大筋力を生かし切れていないもの」を改善するには、2段階あり、1つは、先ほどの高重量を爆発的に上げるトレーニングのなかで、さらに身体の反動を用いてあげたりします。
通常、バーベルやダンベルを用いたトレーニングでは、狙った筋肉に的確に負荷が集中するよう、余計な部分は動かさないように意識したり、固定したりするものなのですが、実際のテニスでの「動き」では、様々な筋肉を同時に稼働させることの方が普通ですから、あえて身体全体の反動を利用して、高重量を上げたりします。
また、それに加えて、2段階目として、実際のテニスのショット練習をしっかりと行わなければいけません。
ですから、危険なのは、
「冬場のうちは、ボールが触れないから、身体を鍛えよう」
といって、筋トレ「だけ」をひたすら行ってしまうことです。
確実に身体の動きの連動が崩れてしまいます。
しかも、そういう状況になると、ボールスピードや動きの機敏さを確認できないため、どうしても「筋肉量」だけに目がいったトレーニングをしてしまう。
そうなるともう最悪です(笑)。
いくら「最大筋力」を手に入れたとしても、それを生かすことができず、身体は筋肉の分、重くなるわけですから、競技力としては向上どころか低下する場合もでてきます。
「筋肉をつけすぎてはいけない」
ということをよく言いますが、最大筋力と瞬発力を維持するための技術練習の割合を考えると、現実問題として、筋増強に特化した筋力トレーニングだけに時間を割くことはなくなり、自然と、ただただマッチョな身体にはならなくなってきますから、「筋肉をつけすぎてはいけない」というよりは、「筋肉をつけるトレーニングばっかりではいけない」というのが正しいのです。
【次回へ続く】