2.ネットプレイ(シングルス)

 これも「シングルスの戦術 まとめ」シリーズでも、

 

「安易に飛びつくものではない」

 

 と何度も言わせていただきました。

 

 実際のプロのデータを確認してみましょう。

 

 全豪オープン2019でのジョコビッチ。

 

 決勝のナダル戦では、全26ゲーム中、ネットポイント/チャンスは、16/18

 

 準決勝のプイユ戦は、全22ゲーム中、ネットポイント/チャンスは、9/14

 

 準々決勝は、錦織の途中棄権がありましたので、データとしては見ないことにして、

 

 4回戦のメドベージェフ戦は、全40ゲーム中(うちタイブレイク7-5有り)、ネットポイント/チャンスは26/42 でした。

 

 1ゲームにつき、0.8回のネットプレイ、という感じです。

 

 ネットプレイによるポイント(得点)、ということになると、実に1ゲームにつき0.58ポイント

 

 1.73ゲームにつき1ポイントという計算です。

 

 ジョコビッチで、これですよ?(笑)。

 

 たとえば、ラオニッチなんかは、

 

 4回戦のズベレフ戦では、全27ゲーム中(うちタイブレイク7-5有り)、ネットポイント/チャンスは33/48

 

 準々決勝のプイユ戦では、全45ゲーム中(うちタイブレイク4-7、7-2有り)、ネットプレイ/チャンスは47/81 だったりします。

 

 そう、ネットプレイはあくまでも「プレイススタイル」や「戦術」の一つでしかないのです。

 

 事実、全仏オープン2019でのジョコビッチは、

 

 準々決勝のズベレフ戦では全28ゲーム中、13/18 であったものが、

 

 準決勝のティーム戦では、全53ゲーム中、なんと35/71 に跳ね上がっています。

 

 サーフェスや相手によって変えるべき「戦術」の一つでしかない「ネットプレイ」を、どうも安易に「攻撃的」というだけで推奨しすぎているように感じられるのです。

 

 全仏を見ながら、

 

「ローランギャロスは、煉瓦を砕いた赤土のコートだから、球足が遅くて、ネットプレイは不向きなんだ。

 

 だから、フェデラーも苦戦して、ナダルが圧倒的に強くなるんだ」

 

 と言っていたコーチが、別の日には、砂入り人工芝コートでの練習で、強引なネットプレイを教えているのを見て、愕然としたことがあります(笑)。

 

 また、そのネットプレイへの展開も、サーブ&ボレーは稀です。

 

 これは、女子になるとさらに顕著になります。

 

 ベースラインからのアプローチは、よほど相手選手をコート外に追い出したときなど、特殊な場合に限られます。

 

 ショットの種類も、基本的には強いトップスピンまたはフラットを打ち込みながらのアプローチがほとんど。

 

 バック側に低く弾んだショットを、スライスで返しながらアプローチ、ということは、たまに見られますが。

 

 ですから、ベースライン付近からフォアハンドのスライスを打ってアプローチ、なんていう方法は絶滅種となっているわけです。

 

 にもかかわらず、市民大会の様子などを見ると、ネットプレイへの展開をやりたがるプレイヤーが非常に多いことに驚きます。

 

 また、ネットに詰めることそのものを最上の戦術として、一般プレイヤーに紹介している場合も多い。

 

 サーフェスや相手、自分のプレイスタイル、技術などを総合的に判断した上で、ネットプレイの「頻度」を上げたり下げたりするのなら分かるのですが、

 

「隙があればネットに詰めましょう」

 

 みたいな、アプローチショットの精度や相手のストローク力を無視した戦術はどうかな、といつも思うのです。

 

 これもまた、フェデラーのような攻撃的なオールラウンドプレイヤーが、絶大な人気を誇る日本ならではの現象じゃないかな、と思います。

 

 一度、ご自身や周りの方のスタッツを計算してみましょう。

 

 ネットに出たときの得点率、ホントにストロークのときより高くなっていますか?(笑)

 

 実際、ネットに出られる、ということはそもそもアプローチエリア(コート内)でショットを打っているに他ならないわけですから、それだけで得点率が高くなって当たり前なわけですよ?

 

 ですから、ネットに出るというリスクを負うに値するぐらい、得点率が高くなければ意味が無い。

 

 ましてや、ストロークプレイのときと得点率が変わらないのであれば、ネットプレイなんかやめた方が良い(笑)

 

 よく、ネットプレイのメリットして、

 

「相手にプレッシャーを与える」

 

 っていうのをよく聞くのですが、それは一定以上のボレー技術を持つプレイヤーが言うからカッコいいのであって、中にはホントに、

 

「プレッシャーを与えると、相手がミスをしてくれる」

 

 っていう、すごく他力本願な「願望」を平気で口にする人がいますから注意してください。

 

 そういうのを「戦術」とは言いませんから(笑)。

 

 プロの場合にはネットに出られると、相手の鋭いアプローチショットを、正確にパッシングまたはロビングで返す必要があるためにミスをするのであって、ネット前に立たれた圧迫感だけでミスをするわけではない(笑)

 

 うちのチームなんかは、自分たちがネットに出る技術がない分、徹底して対ネットプレイの練習をしますから、そういう「プレッシャー」には慣れてしまっていますので、中途半端なネットプレイをしてくれた方がすごく楽。

 

 女子高校生で、どんなショットもボレーができるような技術を持つプレイヤーは、ホントに一握りだからです。

 

 もしも、スタッツでボレーでの得点率がストロークプレイ時とあまり大きく変わらないのであれば、根本的に戦術を見直すか、またはネットプレイの練習を徹底して増やすべきです。

 

 ネットプレイは得点率が高くて当たり前のプレイヤーがオプションとして用いる戦術なのであって、前にさえ出れば得点率があがる、というような魔法の戦術ではないのですから。

 

【次回へ続く】