さて続いて、試合での「声出し」について。
団体戦などの前にはチームで円陣を組んだりすることも多いのですが、これにも工夫をします。
ただただテンションを上げるためだけに、大声を張り上げるような円陣にはさせません。
昔は、円陣そのものをさせませんでした。
が、他のチームがやっているのに自分たちがやっていない、ということに不安を抱く、というか物足りなさを感じてしまう選手が意外と多いこと、また団体戦を前に控えの選手も含めた一体感を出すことそのものは無意味ではないと思って、やるようになりました。
円陣での掛け声をどんなものにするかは各年代のキャプテンに任せています。
しかし、
「クールでシンプルで、ただただ大声で叫ばないヤツ」
というふうにだけは伝えてあります。
今は、団体出場メンバーが1人ずつ、小さな声で試合での目標(「サーブを丁寧に」とか「ストロークで攻める」などでOK)を発表していき、最後に全員の簡単な掛け声で終わりです。
さらに、円陣を解いた後にコートに入る生徒をベンチに呼んで声かけをし、気持ちのクールダウンをさせてから試合に入れます。
円陣で上がったテンションを少し落ち着かせるのです。
これはラグビー日本代表のメンタルコーチを務められた荒木香織さんもおっしゃっていて、プレー直前での大声を出す円陣は、興奮状態を高めすぎるため、冷静な判断ができなくなる、ということらしいです。
「気合いを入れる」ということがプラスに働くならばよいのですが、多くの場合は、テンションが上がりすぎるだけ(笑)。
よほど、試合に怖じ気づいて震えるぐらいの選手にはちょうど良いのかも知れませんが、ただただ緊張している選手がやりすぎると、ただの「興奮状態」になるだけですから。
試合中の応援も、完全に選手に任せています。
「これをやらないとダメ」とか「こういうことを言わないとダメ」とルールは、うちのチームにはありません。
はじめて入った一年生などは、どうやって応援したらいいかも分からないので、上級生から教えてもらうようですが、
「こういうプレイの後は、こう言ってあげると良いよ」
という感じです。
ただし応援でアドバイス的な内容を言ってしまうと、コーチングの違反を取られてしまうので、そこはルールの説明も含めて、僕が指導をします。
ソフトテニスの経験者だと、相手のミスにまで「ラッキー!」と言ってしまいますので、それも注意します。
コート内での声出しについても、完全に選手任せです。
たとえば、選手によってはショットのたびに声をあげることがあります。
うちの選手には今までいませんでしたが、これは特に指導をしているわけではありません。
またポイントを取った後に「カモン!」などと声を出すこともありますが、これも指導はしません。
「よしっ!」
とガッツポーズを取る選手はいますが、指導をしてさせたことはありません。
(ただ、このガッツポーズや「よしっ」という声出しについては、メンタルトレーニングとも絡みますので、後日改めてお話しましょう)
ダブルスなどでは声出しがさらに多くなるチームがあります。
お互いに声を掛け合うことになるからです。
ゲームが始まったときや、15-15、30-30などのイーブンの時には「一本リード!」。
自分たちがリードをすれば「もう一本リード!」、相手ペアにリードされれば「一本挽回!」。
ゲームポイントやマッチポイントを握れば「ポイント!」
などなど……。
これも、うちでは一切指導しませんので、言う選手はいません。
これはメンタルトレーニングとも絡むのですが、僕は試合を進める上で、
「リードしているかされているか、そんなことは関係が無い。
その1本だけに集中しなさい。
そして1本取ったらそれを連続させることだけに集中。
逆に1本取られたら、連続されないことだけを考えてやりなさい。
自分がリードしているかどうか、は関係が無い。
やることは常に同じ」
というふうに言っています。
つまり、今リードしているかどうか、並んでいるのかどうか、ゲームポイントなのかどうかは関係ないメンタリティーを求めているわけで、それをわざわざ喚起するような声かけをさせるわけがない、ということです。
味方のミスをしたときも「ドンマイ」の一言で終わり。
自分がミスをしたときも、本当は謝らなくても良いのですが、それでは気持ちも晴れないので「ゴメン」の一言。
サーブをフォルトしたときに、
「次、サーブ入るよ」
と定型文のようなセリフを繰り返すように言われるぐらいなら、
「バーカ!」
と笑ってくれる方が、気が楽になるのです。
声かけは、ルール化・システム化した瞬間に、ただの「セリフ」でしかなくなります。
特にダブルスで、ポジションに着いた後に、大きな声で叫ぶような「セリフ」。
そんなただの「セリフ」で、気が楽になったり、プレイが良くなったりするなら、これほど楽なことはない(笑)。
それよりは、ポイント間の僅かな時間ででも、その人その人の「言葉」で、一言二言の「会話」をすることこそが、ダブルスのペアで大事なことだと思うのです。
ですから、うちのチームでは自然とダブルスでの掛け声もなくなります。
さて、これらが、僕が「特に声出しをさせることがない」と言ったことの詳細で、質問者の方にはメールで返答をしました。
ただただ「声出しなんか古くさい」と思ってやめさせているわけではないのです(笑)。
合理的に考えて「うちのチームの選手には、必要性を感じない」だけなのです。
つまり、そのほかのトレーニングや戦術、テニスへの取り組み方と、あくまでもセットにしているのです。
私語を一切禁止しているチームが、掛け声やめてしまうと、本当にしんみりとした雰囲気に陥ってしまうこともありますし(笑)、バレーやバスケなどのチームスポーツであれば、「ファイトー」のような意味の無い掛け声はやめにして、常に戦術的・技術的な指示を言うようにする、というふうにすれば良いだけだったりします。
それこそがチームの特徴になってくるのです。
強豪チームの掛け声を真似するだけで上手くなるわけではなく、その雰囲気作りや、声出しの意義や目的までを追求しなければ意味が無い。
その点で、声出しはチーム作りと直結しているのは事実です。
皆さんも「チーム」で練習したり、試合をしているときに、ただの「セリフ」を言っていないか、活気よく見せるためだけに声出しをしていないか、もう一度検証してみてくださいね。