さて、今回の質問は あさきゆめみし さん からのご質問。

 

フォアでもバックでも、テイクバックから脱力した状態でスイングを開始して、ラケットヘッドが自然とダウンすることは理論として理解できるのですが、これを省略することによる弊害というのはあるのでしょうか。

 

脱力して自然と下がる位置に、テイクバックの時点で意図的にセットすると、力の伝達でロスになったり、得られるものが得られなかったりするのでしょうか?

 

 「みんラボ」さんなどでは、「ラケットヘッドが落ちる力を利用する」というような説明をされていたように思いますが…。

 

というのも、特に両手バックハンドで力みが抜けてないせいか、ヘッドが落ちず、スピン量が減り、バックアウトしてしまうことが多いのです。

 

最初から下げておいたほうが、力みも抜けるのだろうかと考えて試してみようと思うのですが、もしも弊害があるのでしたら、きっちり脱力する方向で訓練したほうがいいのかもしれないと思い、質問させていただきました。

 

お時間のある時に、ご教授いただけるとありがたいです。よろしくお願いいたします。

 
 ストロークでのテイクバックについては「フォームの改造」シリーズで、少しお話したことがあります。
 
 今回はそれも踏まえて、考察してみましょう。
 
 まず、ラケットヘッドが遅れることで生じる「ラケットダウン」の、一番のメリットは、これまで何度も言っているように、伸張反射が生じることです。
 
 ストロークの場合、ラケットはそのスウィングの過程で、何らかの形で「縦」にすることになります。
 
 もちろん、本当に垂直に立つかどうかは別にして、ラケットヘッドは体軸を中心とした扇を描くように移動するわけです。
 
 このとき、強いトップスピンを意識したスウィングを行うのであれば、必ず「上腕の内旋」と「前腕の回内」を連動させた動きを行う必要があります。
 
 テイクバック~フォワードスウィングでラケットヘッドが取り残されることで、腕には「外旋+回外」の方向へのねじれが生じ、それが伸張反射を引き起こすことで、大きく強い「内旋+回内」ができるようになる、ということになります。
 
 しかし「フォームの改造 その17」でも書かせていただいたのですが、フェデラーやジョコビッチの場合、フォワードスウィングが始まった瞬間に、一気にラケットダウンが起こり、強い伸張反射が生じているのですが、これは素人には難しいのです。
 
 素人のスウィングスピードでプロの動きを再現しようとすると、かなり手首や腕に力を入れないと難しくなります。
 
 速いスウィングスピードも必要となりますから、力みにもつながる。
 
 そうすると返って、自然な伸張反射が生じにくい状態になるのです。
 
 また、これも何度も言っているように、伸張反射自体、非常に制御の効かないものです。
 
 無意識のうちに起こる「反射」ですから、当たり前ですね。
 
 コントロールができない。
 
 脱力をしないと伸張反射は生じない、しかし脱力そのものが難しい上に、脱力をしたらしたで、ラケットコントロールはつきにくくなってしまう、というジレンマに陥ることになります。
 
 さて、そこであさきゆめみし さん の質問についてですが。
 
 最初からテイクバックを下げておく、という方法についてです。
 
 これは、その特性を分かっていただいたうえでならば、良い方法だと思います。
 
 一番のデメリットなのは、伸長反射が生じにくくなることです。
 
 ジャンプをするときをイメージしてください。
 
 両足で大きくジャンプするとき、一度ヒザを曲げて勢いを付けて屈むようにするのは、伸張反射を活用し、それに随意運動を連動させて、筋力を最大限発揮するためです。
 
 最初からラケットを下ろしておく、ということは、最初からヒザを曲げて静止した状態から、随意運動だけでジャンプするようなもの、ということです。
 
 この場合、やはり大きく飛ぶことはできませんが、確実に高さやタイミングを調節することは可能です。
 
 ですから、逆に言えば、この打ち方の場合、ラケットスピードを求めて力んでしまっては本末転倒なわけです。
 
 最終的には、ラケットスピードとコントロール、どちらを取るのか、という議論になるわけですね。
 
 特に両手バックハンドの場合、両手でラケットを握っているわけですから「ラケットの重みを利用して」ラケットダウンをするっていうのはますます難しくなります。
 
 理想的なのは、適度な伸張反射が起こる程度にラケットダウンする、ということになるのですが(笑)、それはそれで難しいですからね。
 
 昔、ラケットダウンができない生徒を教えたときにやったのが「太鼓叩き」です。
 
 ヒザぐらいの高さに太鼓があるのをイメージし、手にラケットぐらいの長さのバチをもって、手首だけでバチを動かし、連続で叩くフリをしてみてください。
 
 不思議なもので太鼓を叩く真似をすると、バチを振り下ろしたあと、バチが跳ね返るように手首が戻ってくるはずです。
 
 本当の太鼓があれば、太鼓の打面の反発でバチが跳ね上がることはあると思いますが、「エア太鼓」でも手首を跳ね上げる。
 
 これも伸張反射です。
 
 これを利用します。
 
 テイクバックの際、ラケットヘッドをあえて意識して「クッ」と落とすのです。
 
 右利きの両手バックハンドの場合、左手で「クッ」っと下に押し込むイメージでしょうか。
 
 音で表すしかないのが申し訳ないのですが(笑)、「グッ」でも「ギュー」でもないのです(笑)。
 
 力を込めすぎない。
 
 また、右手首を少し掌屈させながら「クッ」っとするのがポイントです。
 
 これも擬似的にラケットヘッドが遅れる状況を作り出すことになります。
 
 ただ、掌屈させることそのものは小さくで良く、それほど力を込めないようにしましょう。
 
 手の甲側の手首からボールに向かっていくイメージ、でしょうか。
 
 この「クッ」っと太鼓を小さく叩くようにラケットヘッドを落とし、そのあとラケットが跳ね上がってくるのをイメージすることが大切で、ラケットヘッドを落とすことだけ考えていると、伸張反射が全く生じず、ラケットヘッドが振り上がってこないために、ラケットヘッドは遅くなりますので注意してください。