テイクバックのとき、ヒジや手の先の動きを別々に修正してください、というお話はしましたね。

 
 そしてその上で、大切な修正点があります。
 
 それが次のポイントとなります。
 

3.ラケット全体の動きやラケット面の向き

 結局は、ボールに当たるのはラケットなわけですから、この動きがバタバタではどうしようもありません。
 
 また、手の動きがしっかりとラケットの動きに反映されているのかをしっかりと把握しないといみがありませんからね。
 
 これも、いくつかのポイントがありますから、ご紹介します。
 

(1) ラケットダウンの大きさとタイミング

 何度も言っているように、トップスピンを意識したスウィングであれば、必ず「内旋+回内」の動きを腕にさせなければなりません。
 
 そしてそのための準備として、テイクバック~フォワード・スウィング開始前後で、「外旋+回外」の動きをすることで、伸張反射が起こしやすいのだ、ということもお話ししてきました。
 
 この「外旋+回外」の瞬間が、ラケットヘッドが下を向く「ラケット・ダウン」の状態になることになります。
 
 フェデラーやジョコビッチの場合、テイクバックの終盤まではラケットヘッドが横方向を向いていて、フォワード・スウィングが始まった瞬間に、一気にラケットダウンが起こり、大きく強い「外旋+回外」による伸張反射が生じやすくなる、という形になっています。
 
 が、これは素人には難しい。
 
 自然なラケットダウンは、腕や手ひいてはグリップが先に前方に動き、ラケットヘッドが取り残されることで起こります
 
 フェデラーやジョコビッチのようなラケットの向きから、一気にラケットダウンが起こるには、かなり鋭い腕の振りが必要になるからです。
 
 素人のスウィングスピードで、プロの動きを再現しようとすると、かなり手首や腕に力を入れないと難しくなります。
 
 しかし、そうするとかえって、自然な伸張反射が起こりにくい状況になり、本末転倒になってしまいます。
 
 大きな伸張反射は多少犠牲にして、タイミング良く、スムーズな伸張反射が起こる程度の動きにするため、あらかじめ、ラケットヘッドは後方に向いているか、または少し下げた状態にしたほうが良いときがありますので、いろいろと試してみてください。
 

(2) ラケット面の向き

 テイクバック時のラケット面の動きを表す言葉として「ドッグパット」という言い方があります。
 
 英語としては明らかに間違いで(笑)、「Pat the dog」という言い方の方が正しいでしょうね。
 
 これは「犬(dog)をなでる(pat)」という意味で、犬の頭をなでるように、ラケット面が低い位置で、完全に下方向を向くことを言います。
 
 横から見ていると、ラケット面が地面と水平になっている状態、と言ったら良いでしょうか。
 
 代表的なのはフェデラーやナダルです。
 
 最近のフォアハンドの技術論ではよく出てくるキーワードになります。
 
 以前「参考文献から転じてのコーチ論」でもお話ししましたが、インパクトでラケット面が上を向いてしまうタイプの選手の場合、これを意識するだけで修正できる場合があります。
 
 ただこれ、注意が必要です。
 
 誰でも彼でもができるわけではない。
 
 現に、ジョコビッチはラケット面が真下を向くことはありません。
 
 斜め下、ぐらいの感じです。
 
 この「ドッグパット」が起こりやすい条件があるのです。
 
 1つは、ラケットを厚く握っていること、そしてもう1つは、テイクバックの過程でヒジが伸びる瞬間があること、この2点です。
 
 ナダルなどはその両方。
 
 フェデラーは、ラケットの握りがそれほど厚くない分、手首の背屈が起こっているために「ドッグパット」の状態になります。
 
 したがって、それほど厚いグリップでなく、しかもダブルベンド・タイプのスウィングを心がけている人が「ドッグパット」をしようとすると、かなり無理が生じることになるわけです。
 
 ボクは、ストレートアームとダブルベンドの中間のようなヒジの伸ばし方なので、フォワード・スウィングの途中で一瞬下方向を向く、という感じでしょうか。
 
 それでも真下ではなくて、やはり斜め下にしか向かないのは、グリップがセミウェスタンだからだと思います。
 
 さらに、高い打点でたたき込むようなショットの場合、テイクバックの位置が高くなりやすく、そんなときには、さすがのナダルやフェデラーも、ラケット面が真下を向くことはありません。
 
 この「ドッグパット」は、インパクトでラケット面が上を向いてしまうクセを矯正する場合には、意識して取り組むべきだとは思いますが、普段はそれほど気にするものでは無いと思います。
 
「トップスピンを打つために必須の技術」と書いてある技術論もありますが、前述したとおり、グリップを薄く握り、ヒジを曲げたテイクバックの場合、人間の体の構造上できる方がおかしいわけで(笑)、「ドッグパット」そのものにとらわれる必要はないわけです。
 
 これも「グリップの修正は最後に」とお話ししたことと絡むわけですね。
 
 ただ、スウィングスピードが上がれば上がるほど、ラケットヘッドが取り残され、手首の背屈が起こりやすくなり、ラケット面が下を向く傾向が強くなる、ということだけは頭に入れておいた方が良いと思います。
 
 最後に。
 
 最近「オープン・フェイス」と言って、ラケット面しいては掌をテイクバックで「開く」、つまりわずかに上方向に向けておいてから、ラケット面をインパクトに向かってかぶせるように打つ方法が紹介される場合があります。
 
 が、それはラケット操作を行いやすい両手バックハンドでこそ成り立つ理論であって、フォアハンドでは無用の理論だと思われます。
 
 現に、トッププロの片手フォアハンドで見たことないですからね(笑)。
 
【次回へ続く】