以前、似たような画像を出したこともあるのですが、今回は、技術論の一つとしてご紹介したいと思います。
 
 ストリングは「Wilson NXT」です。
 
 ナイロンマルチと呼ばれるもので、ナイロンの中でも反発が高く、打感が柔らかい部類に入るものだと思います。
 
 非常に高い(店頭価格で3000円超)のに、耐久性が異常に低いので(笑)、あまり張らないのですが、今回はちょっと実験も兼ねて張ってみました。
 
 まずは画像1。
 
イメージ 1
 
 張って4日目です(笑)。
 
 もうボロボロですね。
 
 ここまで来ると打感も変化してしまうぐらいなので張り替えないといけません。
 
 ただ、問題はこのぼろぼろの様子。
 
 拡大写真が画像2です。
 
イメージ 2
 
 ストリングの方向は、画像1と同じ。
 
 おわかりでしょうか?
 
 そう、横糸がボロボロなのです。
 
 多くの場合、ストリングは縦糸が切れることが圧倒的に多い。
 
 が、NXTなどの一部のストリングでは横糸が切れることが多いのです。
 
 これはストリングの耐久性と摩擦の違いによるのですが、これこそが「スナップバック」の証拠なのです。
 
 スナップバックとは、ボールとストリングが接触した際、ストリングが「ズレ」を起こし、それが戻るときの動きによって、ボールに加えられる回転が増す、という現象のことです。
 
 いまだにこの「スナップバック」を信用していない非科学的な中世人プレイヤーも多いようですが(笑)。
 
 この画像を見れば、いかに縦糸が大きく「ズレ」ているかが分かると思います。
 
 横糸を削り取るぐらいですからね。
 
 画像のような状態は、一部のストリングスでしか観察することができません。
 
 まず、ポリ系の場合、表面の摩擦係数が低いためにスナップバックが起こりやすい、と言われています。
 
 そのうえで、縦糸が大きくずれるため「ノッチ」と呼ばれるへこみが生じて、それが縦糸の切れる原因となります。
 
 逆に多くのナイロンは、そのコーティング素材にもよりますが、比較的ポリエチレンなどに比べれば摩擦が大きく、縦糸と横糸のひっかかりが大きいため、スナップバックが起こりにくい、と言われています。
 
 実際、高校生のときには、今ほどポリ系のストリングがなかったため、ナイロン系のストリングスを張っていたのですが、プレイの合間によくストリングスの「ズレ」を直していたものでした。
 
 一度ズレると、摩擦によってまっすぐ戻りにくかったからです。
 
 が、ポリ系のストリングスが中心になってからは、ほとんど試合中にストリングを直すことがなくなりました。
 
 NXTは、ナイロンマルチでありながら、そこらへんの摩擦力がビミョーなラインなのです。
 
 ズレはするけど、ツルツル滑るような感じじゃない。
 
 だから、画像のように横糸が削れたようになっていくわけですね。
 
 念のために言っておきますが、このストリングは実験のために張ったため、自分でストリングスの「ズレ」を直してはいません。
 
 つまり、ストリングス自身の張力でまっすぐ戻っているのです。
 
 スナップバックを否定する「中世人」(笑)の主張で、
 
「ストリングを指で動かそうとしてもなかなか動かないのに、スナップバックという現象が起こるほど、ストリングがズレるはずがない」
 
 というものがありますが、それはその感覚自体が馬鹿げています。
 
 ボールとラケット(ストリング)はアマチュアでも100km/h以上の相対速度でぶつかります。
 
 そこで生じるエネルギーを、指先だけで再現できるわけがない
 
 あんたは、自分の指がどれだけ強いと思ってるんだ、というね(笑)
 
 みなさんも、ストリングの表面にベビーパウダーのようなものをまぶして、打ってみてください。
 
 打つ面を固定しておかないと訳が分からなくなってしまいますが、ストリングスの打っていない方の面の横糸のベビーパウダーが、きれいにはがれているのが分かると思います。 
 
 それがスナップバックが起こっている証拠です。
 
 スナップバックの動画もリンクさせます。
 
 
 ね?ちゃんとなってるでしょ?
 
 スポーツ科学の論文でも出ていますから、機会があれば読んでください。
 
 ただ、気をつけなければならないのは、この「スナップバック」という現象は、スピンを「増す」程度のものであって、どんな打ち方でも生じるものではない、ということです。
 
 しっかりとスピンがかかる打ち方をしている人が、ストリングやラケットとの相性によって生じたスナップバックにより、スピン量が増したように感じる、という程度です。
 
 つまり、しっかりとしたスピンが打てない人ほど、このスナップバックを信用しません(笑)。
 
 というか、ナイロンとポリの違いによる、スピン量の違いが実感できないからです。
 
 皆さんも是非、ストリングの「ズレ」などを観察してみてくださいね。