腕(ヒジ)を伸ばすには、肘筋と上腕三頭筋の収縮によるヒジの伸展が必要なんだ、ということは前回お話ししました。
 
 もちろん、この肘筋と上腕三頭筋の収縮も、「伸張反射」によって起こることが理想なんですが、どのように伸張反射を行っているのでしょうか?
 
 伸張反射は筋肉を伸ばせばいいわけですから、一番簡単なのはヒジを大きく曲げて図20のような状態にすることです。
 
イメージ 1
 
 が、やっていただくと分かりますが、このようにヒジを曲げすぎると、「回外」や「外旋」がしにくいんです。
 
 特にヒジを大きく曲げた状態で「回外」させると、ラケットを持ち上げる形になってしまうことから、自然な状態では回外がほぼ起こらないことが分かります(図21)。
 
イメージ 2
 
 たとえ「回外+外旋」を筋力を使って無理矢理にでもできたとしても、直後の「伸張反射」→「回内+内旋」がスムーズに起こることはない。
 
 脱力しながら「回外+外旋」するには、ヒジを90°近くに曲げて、「外旋」の回転軸である上腕からラケットを最も離し、前腕とラケットの重み(慣性の法則も利用)によって、腕が後ろに引っ張られるのが一番効率的なんです(図22)。
 
イメージ 3
 
 この状態で腰の回転が加わると、遠心力によってラケットの先がその重みで外側に引っ張られ、回外がさらに強く起こることになります。
 
 図は体をまっすぐにして、動きは無視してますから、実際のラケットワークでのこの瞬間は、図23のようになっていることになります。
 
イメージ 4
 
 だからこそ、腕(ヒジ)は曲げすぎても伸ばしすぎてもいけない
 
 前々回、腕を背屈させると、肘の曲がる角度が甘くなるんだよ、とお話ししました。
 
 そのときの図11をもう一度。
 
イメージ 5
 
 人は可動域を無意識のうちに把握しています。
 
 通常の運動をする場合、その可動域の最大限まで急激に関節を曲げることはしません。
 
 筋肉や関節部の故障を防ぐためです。
 
 曲げるとしても、その直前で筋肉のブレーキがかかってしまいます。
 
 つまり、可動域いっぱいに関節を曲げようとすると、拮抗的に働く筋肉によって「ひっぱられる」感じになる
 
 したがって、関節の可動範囲の中で「何の抵抗もなく曲げていられる」範囲、というのは結構狭いんです。
 
 図11の右図のような場合、肘を90°に曲げることは可能は可能なはずなんですが、どうしても90°に曲げると「違和感」が生じてしまう。
 
 何の抵抗もなく曲げられる範囲にしようとすると、自然と腕が伸び気味になります
 
 そうなると、先ほど言ったような効率的な「回外+外旋」ができず、それにともなって「回内+内旋」も弱くなってしまう、ということになるんです。
 

 
 少し話はそれますが(笑)、よくYahoo!知恵袋でも可動域の話が出てきます。
 
 質問でも、
 
「関節の可動域が広い方が、テニスには良いのでしょうか?」
 
 というものが過去にもよく出ていました。
 
 それについての回答として、
 
「可動域が広くても、実際にそこまで関節を動かすことはないのだから、関係が無い」
 
 というものがありましたが、それは間違いです。
 
 今言ったように、同じ90°に関節を曲げるにしても、可動域が広い人が90°に関節を曲げるのは簡単にできますが、可動域が狭い人が90°に関節を曲げるには、余分な筋力が必要だったりすることがよくあるんです。
 
 そういう面でも、スポーツ前の準備運動では、静的なストレッチではなく、動的なストレットによって可動域を広げることに重点を置いたものにするべきなわけですね。
 
 たとえば、
 
「今日は、膝が曲がっていないなぁ」
 
 っていうときには、膝だけでなくて、太ももの筋肉やお尻に筋肉が緊張してしまっていて、股関節の曲げも浅くなっているときが多い。
 
 だから、膝の屈伸運動だけではなくて、足を伸ばしたまま、前後左右に大きく振り子のように蹴り上げる運動などをして、股関節の可動域を広げるのほうが効果があったりするんです。
 
 一度お試しください。
 

 
 また、サーブでよく言われる、
 
「背中で円を描くようにラケットを回す」
 
 というのを「鵜呑み」にしてる人になると、ヒジを図20のように最大限に曲げるようにして、本当にラケットを円のように動かしてしまい、いかにもラケットをスムーズに動かしているような「大きな勘違い」を起こしてしまいます。
 
 これについては、「ラケットダウン」のところでお話ししますね。
 

 
 では、肘を大きく曲げることなく、肘筋+上腕三頭筋を伸ばして「伸張反射」を起こさせるにはどうしたらよいのでしょうか?
 
 実は、肘筋も上腕三頭筋も、前腕の『尺骨』につながっているんです。
 
 尺骨は前腕を構成する2本の骨のうち、小指側にある骨。
 
「回内?内旋?内転?」シリーズでご紹介したことがあるのですが、前腕の回内・回外は、この前腕の尺骨・橈骨を「ねじる」ことで行っています。
 
 そう、つまり、ヒジを90°に曲げた状態で、ラケットの重みを利用して「回外」が起こると、尺骨が前腕の内側にねじれ、それによって肘筋と上腕三頭筋が自然と引っ張られる形になるんです。
 
 それが、肘筋と上腕三頭筋の伸張反射を引き起こし、スムーズな腕(ヒジ)の伸展につながっていくことになります。
 
 結局、振り出し時での「回外+外旋」が行われていないと、そのあとの「回内+内旋」も、「ヒジの伸展」もどちらとも随意運動で行わなければいけないことになるんです。
 
 人の体って、うまいことできてますなぁ。
 
 これは、ラケット・ダウンのところと合わせてもう一度確認をしなければいけないことですので、そのときにまたお話ししましょう。
 
【次回へ続く】