下の図は、グリップにベビーパウダーをまぶした後、同じバックハンド・セミウェスタンで、サムアップしたときと普通に握ったときに、掌にどれだけベビーパウダーが付着したのかを調べたモノです(図6)
 
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 サムアップした場合、拇指球のあたりがすこし「浮いた」状態になって、ラケットと接地する面積が狭くなっているのが分かります
 
 もちろん、物理学上は接地面積と摩擦力とは関係がありません。
 
 タイヤなどでも、接地面積が狭くなっても、その分、単位面積あたりにかかる荷重が増加するからです。
 
 ですが、手のひらはちょっと事情が異なります。
 
 グリップに触れていない、ということはその分、グリップにうまく握力を伝え切れていない、ということに直結するからです。
 
 ラケットを握ると、薬指の付け根などにマメができたりしますが、親指~拇指球はラケットを握り混んだときにその薬指の向かい側で挟むように力を入れる大切な部分です。
 
 右図と左図のラインの「差」は、だいたいグリップの「8角形」の1面分の幅に当たります
 
 また、図では分かりづらいですが、普通に握ったときの方が、パウダーが親指全体についていまして、親指がグリップにぐるりと巻き付く感じになっていることが分かります
 
 薬指、小指との3本で、グリップを全方向から包み込むように握れている、ということです。
 
 サムアップのように一番力を加えることのできる拇指球が浮いていては、ボールがラケットの中心軸から左右に少しでも外れたところに当たって偏った力がラケットに加わったときに、握力が効率的にグリップに伝わらず、グリップが掌の中で空回りしてしまいます。
 
 それを抑えるために、さらに強くグリップを握り、親指とグリップとの「摩擦力」で押さえつけなければならず、ますます余分な力が入ってしまうわけで、トップスピンだけでなく、スライスやボレーのときにも、不利な場面が多いことになります。
 
 そもそも、たとえば握力を計測するときに、サムアップして握力計を握る人、見たことないでしょ?(笑)。
 
 それは、同じ筋力を使っても、サムアップなんかすると力が出しにくい、という証拠です。
 
 ラケットのグリップを握ることそのものには力は必要ない、とよく言いますが、ラケットが遠心力で飛んでいったり、ラケットが手のひらの中でぐるりと回転しない程度の最低限必要な力は確実に存在します。
 
 たとえばその最低限必要な握力が10kgだとしたら、普通の握り方なら10kgぐらい「軽く」出せるのに対し、サムアップの場合はより多くの「余分な」力をこめないとダメ、ということに他なりません。
 
「小さな力でラケットをコントロールする」目的でやっているサムアップが、実は余計な筋力を使う原因になってしまうことが多々あることになるわけで、これはもうメリットでもなんでもなくなってしまいます。
 

 
 さて、長くなりましたが、まとめると、次のようになります。
 

1.ラケットは運動をしながらボールに当たるため、親指による「押し」は実際上の効果は非常に小さい。
 
2.サムアップは「余分な力」を必要とするもので、脱力した状態からのスウィングには、そぐわない握りである。

 
 大きく分けると、この2点。
 
 どうでしょうか?
 
 このサムアップに関する理論は、僕が高校生の時に、チームメイトと話していたことを基にしていますから、ちょっとした「検証」をしさえすれば、誰もが十分に検証できるはずの内容、ということです。
 
 僕が教えている生物学の基本は、
 
「物事には、メリットもデメリットもある」
 
 というものです。
 
 これはスポーツ理論も同じ。
 
 サムアップ自体も、全くメリットがないわけではない。
 
 でもそれ以上にデメリットをしっかりと検証し、客観的に「天秤」にかけて、取捨選択する必要が必ずあります。
 
 サムアップは、特にその典型であると思います。
 
 だから、たとえば皆さんが、サムアップのメリットをどんどん見つけて、僕が提示したデメリットを上回れば、サムアップが有効、と考えてもいいわけです。
 
 それが、たいていの場合には、誰かが提示したメリットやデメリットそのものを「それはありえない」と否定するだけで終わり、自分で新しくメリットを見つけ出すのではなく、小さなメリットを過大評価してしまうだけ。
 
 デメリットとの「天秤」を考えたこともない、という人が多い。
 
 それでは正しい検証はできません。
 
 少なくとも「科学的」ではない。
 
 みなさんも、いろいろと試して、テニスを楽しみましょう!