ある時

女から電話がかかってきた。



賑やかな街の喧騒が
女の声を聞こえにくくしている。



「もしもし!」


「□◆※▲×~」


僕の声が受話器に吸い込まれていく。



「もしもしぃ」


「わたし…◆≠×&☆……」


あっ…


それは当時、僕が付き合っていた彼女の声のようだった。



僕は彼女を好きで好きで
どうにもならなかった。



瞳が輝いている容姿端麗の大人しい女性だった。



僕の声は上ずっていたかもしれない。


「沙織?」


「…うん」


やや間があってから
彼女は続けた。


「明日、井の頭線の渋谷駅の改札口で3時に待ってるわ」


それだけ言うと
彼女は唐突に電話を切った。





次の日
言われた場所と時間に僕は待っていた。

3時を5分、10分と過ぎても沙織は来ない。



気持ちが急激に沈みかけた時

芳美という女が目の前に立っていた。


芳美は潤んだ瞳で僕を直視していた。


「なにやってるの?」


「待ち合わせさ」


僕はぶっきらぼうに言った。


「女の人?」


「どこ行くんだよ?」


「だいぶ待ってるみたいね」


二人の会話はチグハグだった。


「彼女なの?」


僕は黙った。


「きっと来ないわ」


「なぜだよ…」


「じゃあね」


芳美はそれには答えずに去って行った。




芳美は美人でスタイルもいい。

しかし早熟すぎていた。



芳美は17才の高校生だということを
僕は最近知ったばかりだった。



容姿、言動、身なり、そして色気

すべてが早熟だった。




結局

沙織は渋谷駅に来なかった。


実はこの時
沙織とは微妙な関係にあった。


この行き違いが引き金となり、別れることになったのだから

男と女は氷砂糖のように、もろいものだと知った。



勿論、なぜ別れなきゃならないかと
彼女は執拗に泣いた。



僕としては
波長の違いは変えようがなかった。





それから数か月後

渋谷駅に現れたあの芳美は18才になっていた。



当時、僕と芳美の拠点であった川崎で
芳美がねっちりと語り始めた。


「…ねぇ、前に付き合ってた彼女から
渋谷の駅で待ち合わせしようって電話があったでしょう」


「なんだよ、そんなの忘れたよ」


「あれ…私だったのよ」


「えっ!?」


「私だったのよ」


芳美は楽しい話でもしているようだった。


「なぜ、芳美が…?」


「仕方なかったのよ」

「どういうことだよ!?」


「初めから、あんなこと言うつもりなかったわ」


「じゃあ、なぜ僕を騙したんだよ!?」


「だって、電話をかけたのは、あなたと話したかったからなのよ」


「……」


「電話をしたとき
あなた、女性の名前を言ったじゃない。

だから、私…悔しくてその女性になりすましたのよ」


「それで、来るはずもない彼女を待ってるバカな男を見に、
わざわざ渋谷まで来たって訳か」


「ごめんなさい」


「芳美!」


「そう言えばね」


「なんだよ」


「私…本当は芳美じゃなく芳江なのよ」


「なんだって!?」


「芳江って古くさいから芳美って言ったら
あなたが本気にしてただけ」


「そんなバカな!」


「いいわ。あなたのバカになりたいわ」


芳美……いや芳江は濡れた瞳で僕に何かを訴えていた。


僕の心が完全に振り回されている。



芳美が18才ということは本当だったが

僕は最後まで信じられなかった……



すべてが早熟だった……



あれが「いい女」と言うのかもしれない…


僕は彼女のことを「芳美」と言い続けていた。



その芳美は川崎で花屋さんに嫁いでいるらしい。





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