2~3日前から急に日暮れが早くなってきた。
5時すぎるとあっという間に暗くなる。
あせた青空と、あやしいピンクとオレンジのまだらな空は十分明るいのに、地面の上までは照らしてくれない。
(嫌な空…)
陽菜(ひな)は自分より帰りの遅い弟のことを考えた。
6歳下の蓮が、自分には見えないものが見えると気づいたのは、陽菜ではなく夕奈だった。
初めて幼稚園で同じクラスになったとき、「陽菜ちゃんと夕奈ちゃんは双子ちゃんかな?」と先生が聞いたらしい。
「顔も似ていないし、苗字だって違うのにねぇ」と母親同士が何度もその話をする。
その後幼稚園から小学校6年間を同じクラスで過ごし、毎日のように遊び、姉妹のように育ってきた。
蓮が産まれたときにはもう友達だったのだから、夕奈も蓮のことを弟のようにかわいがっている。
「いや、きっと本当の弟だったらかわいがらないと思う」と夕奈は言うが、そんなことはないだろうと陽菜は思う。
あの日、夕奈は幼稚園から帰ってきて一言もしゃべらない蓮に、
「どこに見える?」と聞いた。
「あっちの水色の朝顔が咲いてる家のとこ」
小さい声で言った蓮を待たせて、夕奈と陽菜は柵に朝顔をからませている近所の家まで行った。
すでにしぼんだ水色の蕾を見ながら夕奈は、
「ひいちゃん、もう何もいないよね。」と言った。
いるもいないも何のことかわからない陽菜は、
「うん、なんにもないよ。何にもいないのに、蓮は怖がりなんだよ。」
と答えた。
「怖がりじゃなくて…まだ小さいからなんでもないことも怖く感じちゃうんだよ。」
そう言った夕奈も、5年生にしては小さかった。
「ひいちゃん、蓮に『なんにもいないよ』って安心させてあげてね。」
夕奈は陽菜の手を引いて足早に蓮の元へ戻った。
夕奈や蓮に見えて自分に見えないものがあるなんて思ってもいなかった陽菜は、
「何にもいなかったよ。全然大丈夫だよ。」
と、少々大きめな声でまっすぐ蓮に向かって言った。
まだ考えている風な蓮を見て、夕奈が
「ひいちゃんが大丈夫って言ったら絶対大丈夫なんだよ。夕奈もそれで大丈夫になるの。」
と言うと、蓮はふっと安心した表情になった。
あのときは蓮が何を不安に思って、夕奈が何を言ってるのかよくわからなかった。
そして今でもあまりわかってないのかもしれない。
(は~や~く帰ってこないかなぁ。)
陽菜は窓から夕暮れを見続けた。