中日新聞社がデジタルサービス「中日新聞プラス」をスタート、新聞離れ防止を狙う
東洋経済オンライン 6月13日(水)13時2分配信


中日新聞の電子版サービス
 中日新聞社は6月12日、スマートフォンやパソコン向けの情報サービス「「中日新聞プラス」」の会員受け付けを開始した。全国や中部地区のニュースを速報で掲載するほか、プレゼント応募、行楽地のクーポン、チケット購入、道路交通情報、プロ野球速報などなど、盛りだくさんのサービスメニューが特徴だ。

 5月7日発売の週刊東洋経済臨時増刊『進化する名古屋』の「余裕? 中日新聞の新戦略」で先行報道したとおり、紙の新聞とのカニバリゼーション(共食い)を徹底的に排除した、慎重なビジネスモデルだ。

■1年後メドに25万契約目指す

 中日新聞プラスは、会員登録をすれば、無料ですべてのサービスを利用することができる。一定量以上の記事を読む場合にはプレミアム会員への登録が必要だが、その場合にも月額わずか315円だ(ただし9月末までは無料)。

 ただ、会員になるためには厳しい条件がある。これがこのビジネスモデルのキモなのだが、会員になるためには最寄りの販売店と定期購読契約を結んでいなければならないのだ。具体的には、名古屋本社、東海本社(静岡県浜松市)が発行する中日新聞と日刊県民福井の朝刊の定期購読者であることが条件だ。
 
 「あくまで当社の中心は紙の新聞。それを補完するのがこの中日新聞プラスだ。このプラスサービスをひとつの武器にして、読者離れを少しでも食い止めていきたい。中日新聞プラスでは夕刊掲載の記事も読むことができるので夕刊の購読増に結びつけば、とも考えている」(水野和伸常務取締役・電子電波担当)。

 中日新聞プラスの会員獲得目標は「1年後をメドに、対象となる250万読者のうち、1割の25万くらいの一般会員を獲得できていれば、と考えている」(水野常務)。1契約につき同居家族5人まで会員登録が可能であり、そうした家族会員も含んで25万を目指すという。無料で登録できるだけに、それほど難しい目標ではないだろう。

 日本経済新聞社が2010年3月に開始した「電子版」、朝日新聞社が11年5月に開始した「朝日新聞デジタル」は、紙の新聞の定期購読者でなくても申しこむことができる。そのため、電子版のみを購読する読者のことも想定し、紙の新聞に掲載するコンテンツはあまねく電子版でも読める、という設計になっている。

 それに対し、中日新聞プラスでは、当日紙面の記事については、一部分しか読めない。「紙の新聞を定期購読しているわけだから電子版であえて同じものを載せる必要はない、という考え。電子編集部がセレクトした記事のみを中日新聞プラスに掲載する。ただし過去記事に関しては全記事を検索できるようにした」(伊藤嘉英・電子メディア局長)。

■キラーコンテンツは地方版

 中日新聞プラスのキラーコンテンツは愛知、岐阜、三重、静岡、長野、福井、滋賀の7県で発行する地方版紙面(約50紙面)。たとえば名古屋市内に住んでいる読者は「県内版」「市民版」といった記事を読んでいるが、それだけでなく「尾張版」「豊田版」など県内の他紙面を読むことができる。さらに岐阜、滋賀などの地域情報にもアクセスできる。

 いったい、どれだけのニーズがあるのか疑問も残るが、小出宣昭社長によると、地方版には確実なニーズがあるという。「地方版には、村長が村議会で橋をつくると説明した、というような記事が載っている。ある土木会社の社長が言うには『これは本当に重要な情報。俺たちの業界は絶対会員になる』と。確実な需要があるんです」(前出『進化する名古屋』より)。

 現在、新聞社が進めている電子版への取り組みを俯瞰すると、およそ2種類に大別できる。先行していたのが「電子新聞型」だ。電子新聞単独で読む場合に、日経の場合は月額4000円、朝日の場合は月額3800円と高額に設定。紙との併読の場合には日経、朝日とも「新聞購読代金プラス1000円」と安くすることで、紙との併読を推奨するモデルだ。

 日経新聞は、今年4月に会員数が135万を突破(有料会員数は20万)しており、一定の成功を収めている。が、想定よりも電子新聞単独購読の比率が多いという。一方の朝日新聞は会員数を非公表。5月21日からは1周年を機に、1日3本まで無料で記事を読める無料会員サービスを新たに始めたことから分かるように、有料会員数獲得には苦戦している。

 これに対し新たに登場したのが「付加サービス型」だ。読売新聞社が5月14日に開始したばかりの「読売プレミアム」(月額157円、10月31日までは無料)がその代表選手で、「中日新聞プラス」もこのカテゴリに入る。「新聞を読むとこんなにオトクだよ」ということを示すことで読者の新聞離れを防止するモデルともいえる。

 果たして、どちらのビジネスモデルが、“生き残りへの道”と繋がっているのだろうか。

(山田俊浩 =東洋経済オンライン)

最終更新:6月13日(水)13時2分

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