人工保育で育ったチーターや同性愛ペンギンにも人工授精…「種の繁殖」最前線
産経新聞 6月10日(日)18時56分配信

拡大写真
兵庫・姫路市のアドベンチャーワールドで人工授精の取り組みが続けられているメスのチーター(写真:産経新聞)
【関西の議論】
人慣れし過ぎて野生の本能を失ったチーターの人工授精に、和歌山県白浜町のテーマパーク「アドベンチャーワールド」が神戸大の協力を得て取り組んでいる。成功すれば肉食の野生動物では国内初となる。野生動物の種の保存に向けた人工授精は近年、関西の研究施設を中心に実験や研究が活発化。絶滅危惧種の保存に加え、動物間に多い近親交配をなくすことや、ペンギンなど「同性愛」の多い種の繁殖にも応用できるとして注目されている。
【フォト】 「冷凍動物園」で精子や卵子を保存 希少動物の繁殖研究
人工授精では最近、姫路セントラルパーク(兵庫県姫路市)と神戸大大学院の楠比呂志准教授(保全繁殖学)の研究チームが、ヤギの一種で絶滅危惧種に指定されている「マーコール」の妊娠に成功し、注目を集めた。アドベンチャーワールドのチーターの人工授精も、同じ楠准教授のチームが協力して進めている。
このチーター(メス、6歳)は生まれながらにして体が弱く、母乳を飲もうとせず、次第に体温も低下したため、治療を含めた人工保育を施すことになった。
同ワールドでは長期の人工保育後、自然繁殖をうながそうと、群れのいるサファリに放ったが、人慣れし過ぎて「自分がチーターだ」という認識がなく、まったく群れに溶け込もうとしなかった。逆に、人の姿を見るとすぐに寄ってくる始末で、このままサファリに放っていたら、成長どころか他のチーターに攻撃される恐れもあるため、群れから離して動物舎で飼育してきた。
こうして“年ごろ”を迎えたが、自然交配は望むべくもなく、同ワールドは、13年間保存していた凍結精子と6歳のオスの新鮮な精子を使って人工授精を試みることした。
米国などでは、肉食獣の人工授精は麻酔後に腹部を切開して行ったり、小型カメラを使った体外からの遠隔操作でオスの精子を直接、メスの子宮に注入したりするケースが多い。
しかし、ペットのように育った今回のチーターは近付いても危険はなく、麻酔も不要で、そうしたメリットを最大限に生かした授精方法をとることにした。
まずスタッフがメスの膣や肛門に何度か指を挿入し、次第にその感触に慣れさせる訓練を続けた。訓練後、ホルモン剤の投与によって排卵をうながし、タイミングをみてチューブや注入器などを使って凍結精子と新鮮な精子を膣に注入した。その後は妊娠状態と同様のホルモン作用が続き、スタッフの期待もふくらんだが、精子注入から約1カ月半後の4月下旬、ホルモン濃度の数値が急速に下がり、授精には至らなかった。
チーターの妊娠期間は約90日間で、精子注入後2カ月前後から、陰部周辺をなめたり、食欲が増したり、乳がはるなど、メスの行動や体に変化が出てくる。今回は、こうした外見の状態で妊娠が把握できるほぼ直前でホルモン数値が下がってしまった。
同ワールド獣医師の伊藤修さん(51)は「めでたく妊娠・出産となった場合、凍結精子か新鮮な精子のどちらによるものかはDNA鑑定で分かる。残念ながら、授精は成功しなかったが、麻酔を使わないで済む今回の人工授精については、まだまだ期待がもてる」と話す。
排卵誘発剤の使用は、半年以上の間隔をあけないと効果がなく、アレルギー反応を起こす恐れもある。このため、同ワールドでは今秋以降に人工授精に再挑戦する計画で、現在、他の動物園から精子提供の準備などを進めている。
この“チーターになれないチーター”への実験のような、希少動物の保存とは違った目的での人工授精は、鳥類にもよく行われている。
大阪市内のある水族館のイワトビペンギンは不思議な生態をみせる。オス同士やメス同士がペアになった“ゲイペンギン”や“レズペンギン”が多くいるのだ。専門家によると、鳥類ではこうした現象は珍しくないというが、「同性愛」では繁殖しないため、人工授精に頼らざるを得ないという。
また、大阪市内のある動物園では、自然交配ができないソデグロヅルのつがいへの人工授精の実験も進んでいる。鳥はオスがメスの上に乗って交尾をして授精するが、このソデグロヅルの場合、オスが翼を負傷したためにバランスがとれず、交尾ができないのだという。
鳥類は卵を産むため排卵期を把握しやすく、哺乳類より人工授精が成功しやすい。それでもニワトリなどの家畜と違い、野鳥の場合は排卵のタイミングをはかるのが難しく、またオスの精子を採取する際に尿や便が混ざって精液が汚染され、精子の質が悪くなるという問題もある。
楠准教授は「鳥類については、飼育スペースの関係もあり、ほ乳類に比べてそれほど人工授精は活発に行われてはいないが、同性愛やけがなどでは人工授精に頼らざるを得ない。そんなケースでは、繁殖期とされる春から初夏にかけて人工繁殖が行われる」と話す。
個体の条件や生育環境などさまざまな要因が絡んで難しいとされる動物への人工授精だが、「種の健全な保存・繁殖には技術の確立が欠かせない」ともいわれ、研究者や動物園スタッフらの挑戦が続いている。
最終更新:6月11日(月)12時57分
人慣れし過ぎて野生の本能を失ったチーターの人工授精に、和歌山県白浜町のテーマパーク「アドベンチャーワールド」が神戸大の協力を得て取り組んでいる様だ。
暗黒の稲妻
産経新聞 6月10日(日)18時56分配信

拡大写真
兵庫・姫路市のアドベンチャーワールドで人工授精の取り組みが続けられているメスのチーター(写真:産経新聞)
【関西の議論】
人慣れし過ぎて野生の本能を失ったチーターの人工授精に、和歌山県白浜町のテーマパーク「アドベンチャーワールド」が神戸大の協力を得て取り組んでいる。成功すれば肉食の野生動物では国内初となる。野生動物の種の保存に向けた人工授精は近年、関西の研究施設を中心に実験や研究が活発化。絶滅危惧種の保存に加え、動物間に多い近親交配をなくすことや、ペンギンなど「同性愛」の多い種の繁殖にも応用できるとして注目されている。
【フォト】 「冷凍動物園」で精子や卵子を保存 希少動物の繁殖研究
人工授精では最近、姫路セントラルパーク(兵庫県姫路市)と神戸大大学院の楠比呂志准教授(保全繁殖学)の研究チームが、ヤギの一種で絶滅危惧種に指定されている「マーコール」の妊娠に成功し、注目を集めた。アドベンチャーワールドのチーターの人工授精も、同じ楠准教授のチームが協力して進めている。
このチーター(メス、6歳)は生まれながらにして体が弱く、母乳を飲もうとせず、次第に体温も低下したため、治療を含めた人工保育を施すことになった。
同ワールドでは長期の人工保育後、自然繁殖をうながそうと、群れのいるサファリに放ったが、人慣れし過ぎて「自分がチーターだ」という認識がなく、まったく群れに溶け込もうとしなかった。逆に、人の姿を見るとすぐに寄ってくる始末で、このままサファリに放っていたら、成長どころか他のチーターに攻撃される恐れもあるため、群れから離して動物舎で飼育してきた。
こうして“年ごろ”を迎えたが、自然交配は望むべくもなく、同ワールドは、13年間保存していた凍結精子と6歳のオスの新鮮な精子を使って人工授精を試みることした。
米国などでは、肉食獣の人工授精は麻酔後に腹部を切開して行ったり、小型カメラを使った体外からの遠隔操作でオスの精子を直接、メスの子宮に注入したりするケースが多い。
しかし、ペットのように育った今回のチーターは近付いても危険はなく、麻酔も不要で、そうしたメリットを最大限に生かした授精方法をとることにした。
まずスタッフがメスの膣や肛門に何度か指を挿入し、次第にその感触に慣れさせる訓練を続けた。訓練後、ホルモン剤の投与によって排卵をうながし、タイミングをみてチューブや注入器などを使って凍結精子と新鮮な精子を膣に注入した。その後は妊娠状態と同様のホルモン作用が続き、スタッフの期待もふくらんだが、精子注入から約1カ月半後の4月下旬、ホルモン濃度の数値が急速に下がり、授精には至らなかった。
チーターの妊娠期間は約90日間で、精子注入後2カ月前後から、陰部周辺をなめたり、食欲が増したり、乳がはるなど、メスの行動や体に変化が出てくる。今回は、こうした外見の状態で妊娠が把握できるほぼ直前でホルモン数値が下がってしまった。
同ワールド獣医師の伊藤修さん(51)は「めでたく妊娠・出産となった場合、凍結精子か新鮮な精子のどちらによるものかはDNA鑑定で分かる。残念ながら、授精は成功しなかったが、麻酔を使わないで済む今回の人工授精については、まだまだ期待がもてる」と話す。
排卵誘発剤の使用は、半年以上の間隔をあけないと効果がなく、アレルギー反応を起こす恐れもある。このため、同ワールドでは今秋以降に人工授精に再挑戦する計画で、現在、他の動物園から精子提供の準備などを進めている。
この“チーターになれないチーター”への実験のような、希少動物の保存とは違った目的での人工授精は、鳥類にもよく行われている。
大阪市内のある水族館のイワトビペンギンは不思議な生態をみせる。オス同士やメス同士がペアになった“ゲイペンギン”や“レズペンギン”が多くいるのだ。専門家によると、鳥類ではこうした現象は珍しくないというが、「同性愛」では繁殖しないため、人工授精に頼らざるを得ないという。
また、大阪市内のある動物園では、自然交配ができないソデグロヅルのつがいへの人工授精の実験も進んでいる。鳥はオスがメスの上に乗って交尾をして授精するが、このソデグロヅルの場合、オスが翼を負傷したためにバランスがとれず、交尾ができないのだという。
鳥類は卵を産むため排卵期を把握しやすく、哺乳類より人工授精が成功しやすい。それでもニワトリなどの家畜と違い、野鳥の場合は排卵のタイミングをはかるのが難しく、またオスの精子を採取する際に尿や便が混ざって精液が汚染され、精子の質が悪くなるという問題もある。
楠准教授は「鳥類については、飼育スペースの関係もあり、ほ乳類に比べてそれほど人工授精は活発に行われてはいないが、同性愛やけがなどでは人工授精に頼らざるを得ない。そんなケースでは、繁殖期とされる春から初夏にかけて人工繁殖が行われる」と話す。
個体の条件や生育環境などさまざまな要因が絡んで難しいとされる動物への人工授精だが、「種の健全な保存・繁殖には技術の確立が欠かせない」ともいわれ、研究者や動物園スタッフらの挑戦が続いている。
最終更新:6月11日(月)12時57分
人慣れし過ぎて野生の本能を失ったチーターの人工授精に、和歌山県白浜町のテーマパーク「アドベンチャーワールド」が神戸大の協力を得て取り組んでいる様だ。
暗黒の稲妻