出世街道を下りる独身者たち ワーク・ライフ・バランスは既婚者だけの問題ではない
ウォール・ストリート・ジャーナル 5月24日(木)10時3分配信
 アン・マリー・ボウラーさんは先週、仕事を終えて、友人とオープンカフェでの食事を「陽が沈む前に」楽しんだ。最近、ボウラーさんはチャリテーゴルフの集まりに参加するため、会社を抜け出した。また夕暮れ時に、時間をかけてセントラルパーク内を自転車で走るのが好きだ。

 前の職場でこんなことは決してできなかった。

 ボウラーさんは何年も、朝9時から夜9時まで、もしくはもっと遅くまで、ニューヨーク市内の大きな法律事務所で働いた。気の遠くなるような仕事を抱え、ボウラーさんはしばしば友人との計画や、ジムのキャンセルを余儀なくされた。ボウラーさんはもっと時間を自分で管理したかった。30歳のとき、ボウラーさんと育児休暇から戻った同僚は仕事を辞め、自分たちの法律事務所を始めた。

 顧客の案件に没頭し、長時間働くことがまだよくあるが、現在36歳のボウラーさんは「私はただ働くだけじゃない、豊かな人生を送りたかった」と話す。

 これは30代で出世街道から離脱する、全米で何万といる働く母親からよく聞く話だ。しかしボウラーさんは独身だ。

 仕事と生活の対立に関するほとんどの研究は、すべてをうまくこなそうと努力する、もっと時間がほしくてたまらない、仕事を早く切り上げなければならない理由をたくさん持った悩めるワーキングマザーに焦点が当てられている。しかしもっと自由な時間がほしいと思っているのは、独身女性のほうがむしろ割合としては多いのだ。女性雑誌「More(モア)」が2011年に実施した、34歳以上の大卒専門職500人を対象にした調査によると、子どものいない女性のうち68%がお金より時間がほしいと答えている。これに対し、子どものいる女性のうち、同じ回答をしたのは62%だった。

 「働く母親がどうこなしているかについて、人はよく話をする。でも独身の人たちは、どうこなしているの?」と言うのは、シングルエディションメディアの創業者、シェリ・ラングバート氏だ。同社は独身者を狙った商品のブランドについてアドバイスを行うほか、独身に関する話題を扱うブロガーのネットワークを運営している。

 独身者は助けてくれるパートナーなしで、「洗濯をし、ジムへ行き、食料品を買い、仕事に行き」、さらに社会活動やボランティア活動を計画し、ときには年老いた親戚の面倒もみなければならない、とラングバート氏は言う。

 「誰もそんな女性や男性に注目しない。たった一人で素晴らしいキャリアを築いているのに」とラングバート氏は話す。

 仕事の責任が増し、結婚を30代に遅らせる若い世代が増えるなか、ますます多くの人が自分の抱える荷が重すぎると感じている。また多くは自分自身のことや、デート、健康、ボランティア活動、家族への貢献などに対して高い期待を持っている。しかし、すべてがうまくいくわけではない。

 子どもを養育する義務とのかねあいは、多くの女性たちがキャリアの途中で仕事を辞める大きな理由としてしばしば指摘される。しかし子どもを持たない多くの独身女性もまた、個人的な理由で退職を考えている。コンサルタント会社のマッキンゼーがウォール・ストリート・ジャーナルの委託で60社を対象に最近行った調査で、研究者らは2、3年後の退職を考えている少数の女性たちを調べた。そして、母親であろうとなかろうと、退職の理由が驚くほど似ていることがわかった。個人的なスケジュールとニーズに対して、もっと自分でコントロールできるようになりたい、というのがその理由だ。

 大きな法律事務所を退職したものの、ボウラーさんはいまだに夜遅い時間や早朝の電話に出るほか、複雑な訴訟を扱う。最近のゴルフの集まりでボウラーさんは1時間に1度メールのチェックと返信を行い、自身のボイスメールに2回電話をかけた。

 それでも「私のスケジュールははるかに快適。私がそうしたのよ」とボウラーさん。専門職同士のネットワークの会や、今夏に予定されているファッションに関する法律のセミナーといった興味のある教育イベントなどに以前よりも多く参加できる自由を得ている。

 旅行することも多くなった。インドやブラジルで休暇を過ごしたこともある。ボウラーさんは「人と一緒に過ごす計画を作り、その計画を守るという安定したスケジュールが持てる」ことを楽しんでいるという。ボウラーさんと共同経営者のサリ・ガベイ=ラフィ氏は夕食前に事務所を出るという。「私たちはこう言うのよ。『あら、5時だわ。(前の法律事務所では)おやつの時間だったわ』って」。

仕事以外の用事をこなす

 独身で専門職の人は仕事以外のことで極端に走ると自ら言う。洗濯をしないで済むように、余計に靴下やシーツを買ったり、時間の節約のために一度に20回分の食事を作って冷凍したり、健康を保つために2、3回分の運動を週末に集中させたりといった具合だ。

 活発な社会生活を送る37歳のニュージャージー州在住のプロジェクトコンサルタントは毎夕、家に着くと大量の汚れた皿や洗濯物、返信していないメールに直面することになるという。それに、重要な将来設計にとりかかることができないという。

 ブルックリン在住のウェブサイトエディター、メリッサ・J・アンダーソンさん(29)はこう話す。「結婚している友人や、パートナーと長い関係を築いている人のなかには、いつも私の楽しいニューヨーク市でのゴシップや、“セックス・アンド・ザ・シティ”のようなライフスタイルについて聞きたがる人がいる」と。しかし「それは違う」とアンダーソンさん。

 アンダーソンさんは往復1時間をかけて仕事に行き、10時間働き、毎週何度か仕事関係のイベントに出席する。週末はエイズのチャリティーでボランティア活動をし、さらに数時間働き、なんとかジムへ間に合うようにすべりこむ。アンダーソンさんは最近、豆とご飯だけで1週間を過ごした。近所の食料品店が閉まる8時前に買い物に行けなかったからだ。

雇用主が対策を取る

 多くの雇用主が「ワーク・ライフ・ベネフィッツ(福利厚生)」を導入してきている。例えば、フレックスタイム制や個人的なオフタイムなどで、子どもや配偶者の有無に関わらず、全ての従業員が幸福感を味わえるための措置だ。

 しかし、福利厚生も限界がある。大量の仕事を抱え、多くの従業員は福利厚生を利用できないのだ。テキサス州アーリントンにあるテキサス大学でマネジメントを教える准教授、ウセンディ・キャスパー氏の研究によると、独身者は男女関係なく仕事以外にすることがないと考え、追加の仕事やプロジェクトを積み上げる経営者も依然としているという。

 クレイグ・エルワンガーさんが広告営業担当者として2006年に雇われた際、上司らは彼が独身で子どもがいないことを喜んだという。面接で彼らは「君にはあらゆる場所を担当してもらう。どこでも、誰とも深入りしないように」と言ったという。エルワンガーさんは人生の半分を外回りで過ごし、ホテルか会社のアパートでの暮らしだったという。デートは難しく、彼のスケジュールは恋人にとって「間違いなくやっかいだった」という。エルワンガーさんは「ほとんど遠距離恋愛のようだった」と振り返る。2人は短い間結婚し、別れた。仕事でとても疲れ果て、家庭生活からストレスを切り離すことができなかったことも離婚の一因だったとエルワンガーさんは話す。

ラーメンに頼る

 売り上げを伸ばすことへのプレッシャーが増え続け、「ますます本当に怒りっぽくなった」エルワンガーさんは、社会活動を避けるようになったと言う。不眠症と闘いながら、友人たちと会うことを止め、週末はテレビでフットボールを見ながら一人、家で過ごした。洗濯も、買い物も、請求書の支払いも延ばし延ばしにした。通常は料理を楽しむエルワンガーさんだが、ラーメンの食事に戻ってしまった。

 そしてついに1月、彼は仕事を辞めた。「おかしくなる前に辞めないといけない」と自分に言ったという。

 今、31歳のエルワンガーさんは自身が創設した珍種動物に関するウェブサイトをフルタイムで運営している。このサイトは、世界中の異なる種について学ぶ人やハンターのために作られたものだ。収入は少なく不安定だが、エルワンガーさんはこの仕事が好きだ。個人的な生活とのバランスははるかに良くなっている。家族に以前より頻繁に会いに行き、友人らとゴルフをする。リブの煮込みといった手料理を友人らに振る舞うことを再び始めたほか、デートもまたしたいと願っている。そしてエルワンガーさんは言う。「赤ん坊のように眠れる」と。

最終更新:5月24日(木)10時3分

何の為に生きてるのかという事なのだろう。
冷静に考えると、人それぞれ考え方は違うけど、仕事に価値観を生み出している人も多いのも事実だが仕事ばかりではなくて、自分の人生に自分の自由が利く時間がある方が楽しいのは間違いないだろう。

暗黒の稲妻