絶滅危惧鳥を食い荒らす巨大ネズミ
ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト 5月23日(水)10時7分配信
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南大西洋のイギリス領ゴフ島に住むハツカネズミ。海鳥のヒナをエサとしている。(Photograph courtesy Ross Wanless)
南大西洋のイギリス領ゴフ島では、ごく普通のハツカネズミが凶暴な捕食者と化し、絶滅危惧鳥のヒナを食い荒らしている。調査によると、被害は年に数百万羽に及ぶという。
ゴフ島は、南アメリカと南アフリカの両南端からほぼ等距離の孤島で、気象観測所のスタッフ以外に誰も住んでいない。
20種以上の海鳥1000万羽近くがコロニーを形成する重要な島で、世界遺産にも登録されている。しかも、ズキンミズナギドリの唯一の繁殖地と考えられており、毎年200万組のつがいから160万羽のヒナが生まれる。
しかし新たな調査の結果、ズキンミズナギドリのヒナがハツカネズミの恰好の餌食になっていることがわかった。このネズミは150年前に移入され、豊富なエサをふんだんに食べた結果、現在は非常に大型化している。
「ゴフ島は特別な島であり、非常に多くの海鳥が住んでいる。しかし、ハツカネズミも大繁殖し、鳥たちを食い荒らしているようだ」と、調査に参加した南アフリカ、ケープタウン大学のロス・ワンレス(Ross Wanless)氏は話す。チームによると、ズキンミズナギドリが絶滅しかねない厳しい状況だという。
北西に400キロ以上離れたトリスタン・ダ・クーニャ島も、かつてはズキンミズナギドリの繁殖地だったが、近年は姿を見ない。クマネズミの捕食が原因と考えられている。
◆地下に潜るハツカネズミ
ゴフ島に天敵のいないハツカネズミは、夏期に著しく増加し、1ヘクタールあたり300匹という驚異的な個体群密度に達する。わずか65平方キロのゴフ島に約190万匹が住む計算だ。しかも通常の1.5倍も大きい体で、最大体長は尻尾を除いても27センチもあるという。この膨大な数の巨大ネズミが、エサのなくなる冬期になると、海鳥のヒナを食い荒らすのである。
ワンレス氏のチームは、ハツカネズミの捕食行動がズキンミズナギドリに与える影響を調査した。この鳥は、国際自然保護連合(IUCN)により絶滅危惧IB類(絶滅危機)に指定されている。
ゴフ島のネズミ調査は過去にも行われており、ミズナギドリが食われていることは判明していた。しかし鳥の巣穴が地下にあるので、「正確な状況を把握するためには、さらに詳しい研究が必要だった」とワンレス氏は語る。
チームは178個の巣穴を対象に、4度の繁殖期にわたり継続調査を実施。赤外線カメラを使用して侵入したネズミの行動を記録し、週に1度のペースで巣穴を確認したという。
その結果、毎年生まれる160万羽のうち、ネズミが捕食する数は125万羽に及ぶと判明した。「ハツカネズミが移入された150年前からこのペースで被害が出ていると仮定すると、成鳥のつがいは当時3000万組いたことになる」とワンレス氏。現在の200万組の実に15倍である。
◆無抵抗のまま
ズキンミズナギドリの方が体が大きいため、「ハツカネズミはどうやって攻略するのだろう」と考えるかもしれないが、捕食の対象は成鳥ではない。
「狙うのはヒナだ。人間の赤ん坊でも、1人で寝ている部屋に飢えたネズミが侵入してきたら、無抵抗のまま攻撃されるしかない。ズキンミズナギドリのヒナも同じこと。敵の侵入にあっても、状況認識すらできないだろう」とワンレス氏は説明する。
ゴフ島にハツカネズミを移入した結果、海洋生態系にどのような影響が生じているのかは今のところ不明だ。しかし、ズキンミズナギドリがこの島に不可欠な存在であることは間違いない。
「たとえば、巣穴でする糞は肥料となり、島全体の肥沃化に貢献している。巣穴を掘る行為も、土壌を耕す効果がある。ズキンミズナギドリが姿を消すと、ゴフ島の生態系は大きなダメージを受けるだろう」。
生態系の維持には、ハツカネズミの駆除が必要だ。同氏によれば、費用はかかるが毒エサを撒くのが効果的だという。 「ゴフ島の個体は驚くほど食欲旺盛だ。時期を選んで実施すれば、毒エサにも必ず食いついてくる」。
今回の研究は、「Animal Conservation」誌オンライン版に5月8日付けで掲載された。
Rachel Kaufman for National Geographic News
最終更新:5月23日(水)10時7分
記事のみ紹介。
暗黒の稲妻
ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト 5月23日(水)10時7分配信
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南大西洋のイギリス領ゴフ島に住むハツカネズミ。海鳥のヒナをエサとしている。(Photograph courtesy Ross Wanless)
南大西洋のイギリス領ゴフ島では、ごく普通のハツカネズミが凶暴な捕食者と化し、絶滅危惧鳥のヒナを食い荒らしている。調査によると、被害は年に数百万羽に及ぶという。
ゴフ島は、南アメリカと南アフリカの両南端からほぼ等距離の孤島で、気象観測所のスタッフ以外に誰も住んでいない。
20種以上の海鳥1000万羽近くがコロニーを形成する重要な島で、世界遺産にも登録されている。しかも、ズキンミズナギドリの唯一の繁殖地と考えられており、毎年200万組のつがいから160万羽のヒナが生まれる。
しかし新たな調査の結果、ズキンミズナギドリのヒナがハツカネズミの恰好の餌食になっていることがわかった。このネズミは150年前に移入され、豊富なエサをふんだんに食べた結果、現在は非常に大型化している。
「ゴフ島は特別な島であり、非常に多くの海鳥が住んでいる。しかし、ハツカネズミも大繁殖し、鳥たちを食い荒らしているようだ」と、調査に参加した南アフリカ、ケープタウン大学のロス・ワンレス(Ross Wanless)氏は話す。チームによると、ズキンミズナギドリが絶滅しかねない厳しい状況だという。
北西に400キロ以上離れたトリスタン・ダ・クーニャ島も、かつてはズキンミズナギドリの繁殖地だったが、近年は姿を見ない。クマネズミの捕食が原因と考えられている。
◆地下に潜るハツカネズミ
ゴフ島に天敵のいないハツカネズミは、夏期に著しく増加し、1ヘクタールあたり300匹という驚異的な個体群密度に達する。わずか65平方キロのゴフ島に約190万匹が住む計算だ。しかも通常の1.5倍も大きい体で、最大体長は尻尾を除いても27センチもあるという。この膨大な数の巨大ネズミが、エサのなくなる冬期になると、海鳥のヒナを食い荒らすのである。
ワンレス氏のチームは、ハツカネズミの捕食行動がズキンミズナギドリに与える影響を調査した。この鳥は、国際自然保護連合(IUCN)により絶滅危惧IB類(絶滅危機)に指定されている。
ゴフ島のネズミ調査は過去にも行われており、ミズナギドリが食われていることは判明していた。しかし鳥の巣穴が地下にあるので、「正確な状況を把握するためには、さらに詳しい研究が必要だった」とワンレス氏は語る。
チームは178個の巣穴を対象に、4度の繁殖期にわたり継続調査を実施。赤外線カメラを使用して侵入したネズミの行動を記録し、週に1度のペースで巣穴を確認したという。
その結果、毎年生まれる160万羽のうち、ネズミが捕食する数は125万羽に及ぶと判明した。「ハツカネズミが移入された150年前からこのペースで被害が出ていると仮定すると、成鳥のつがいは当時3000万組いたことになる」とワンレス氏。現在の200万組の実に15倍である。
◆無抵抗のまま
ズキンミズナギドリの方が体が大きいため、「ハツカネズミはどうやって攻略するのだろう」と考えるかもしれないが、捕食の対象は成鳥ではない。
「狙うのはヒナだ。人間の赤ん坊でも、1人で寝ている部屋に飢えたネズミが侵入してきたら、無抵抗のまま攻撃されるしかない。ズキンミズナギドリのヒナも同じこと。敵の侵入にあっても、状況認識すらできないだろう」とワンレス氏は説明する。
ゴフ島にハツカネズミを移入した結果、海洋生態系にどのような影響が生じているのかは今のところ不明だ。しかし、ズキンミズナギドリがこの島に不可欠な存在であることは間違いない。
「たとえば、巣穴でする糞は肥料となり、島全体の肥沃化に貢献している。巣穴を掘る行為も、土壌を耕す効果がある。ズキンミズナギドリが姿を消すと、ゴフ島の生態系は大きなダメージを受けるだろう」。
生態系の維持には、ハツカネズミの駆除が必要だ。同氏によれば、費用はかかるが毒エサを撒くのが効果的だという。 「ゴフ島の個体は驚くほど食欲旺盛だ。時期を選んで実施すれば、毒エサにも必ず食いついてくる」。
今回の研究は、「Animal Conservation」誌オンライン版に5月8日付けで掲載された。
Rachel Kaufman for National Geographic News
最終更新:5月23日(水)10時7分
記事のみ紹介。
暗黒の稲妻