“身内”の離反で急展開 ダノンのヤクルト株買い増し
ダイヤモンド・オンライン 5月14日(月)7時0分配信

 ヤクルトの筆頭株主で、世界的な食品大手のダノンがヤクルト本社に株の買い増しを迫っている。

 ダノンは2000年、私募債「プリンストン債」による巨額損失事件で経営不振に陥ったヤクルト本社に5%出資。03年には出資比率を20%まで引き上げたが、07年に向こう5年間、出資比率を引き上げない契約を結んでいた。

 契約が切れる5月15日以降、ダノンはヤクルト株を買い増すことができるようになる。

 ダノンは現在、ヤクルト本社に対し、出資比率を28%まで引き上げることや、常勤役員の派遣などをめぐって交渉しているとされる。

 ダノンの最大の狙いはずばり、ヤクルトが持つ乳酸菌技術と、特にアジアで強い海外販売網だ。

 食品業界では世界的にプロバイオティクス(健康に効果がある微生物を利用した食品)に対しての注目が集まっているが、乳酸菌開発に特化した企業は世界でも少ない。また、ダノンは中国事業では現地企業との合弁を解消するなど苦戦を強いられている経緯もある。そこで31ヵ国で事業展開し、特に中国をはじめアジアで成功しているヤクルトに注目したのだ。

 ダノンはこれまでにも、再三にわたってヤクルトとの連携強化を求めてきたが、特に経営の独立性を維持したい堀澄也会長が協業に難色を示していることもあり、成果はあまり出ていない。

 20%の筆頭株主になってすでに8年たつこともあり、協業を前進させるために何らかの手を打つ必要があった。

 そこで、交渉難航を見越したダノンはある秘策を打つ。ヤクルト本社と距離を置くヤクルトの有力販売会社と手を組んだのだ。

 ヤクルトはそもそも、100を超す販売会社の“連合体”であり、ヤクルト本社は全国の販社を通じて商品を販売している。

 ただ、独立性の強い販社も多く、本社の経営方針に反発している販社もある。実際、有力販社の幹部は「本社の不透明な原材料購入によって、不当に割高な卸値を押し付けられている」として、堀会長の辞任を求めている。

 ダノンだけでなくこうした有力販社にとっても、堀会長は“目の上のたんこぶ”だ。利害が一致した両者は急接近。「ダノン幹部とは都内ホテルで定期的に会合の場を持ち、準備を進めてきた」と販社幹部が明かす。

 もし今後、両者が連携してTOB(株式公開買い付け)を行うなどし、経営トップの交代を求めるという展開になれば、ヤクルト本社への包囲網は狭まる。

 新興国を中心に売上高を伸ばし、好業績を維持しているヤクルト。これまではダノンの株買い増しの提案をはねつけてきたが、思わぬ“敵”が、しかも“身内”から現れ、状況は混沌としてきた。今後の有力販社の動きいかんで、ヤクルト株をめぐる争奪戦は風雲急を告げる展開となりそうだ。

 (「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子、山口圭介)

最終更新:5月14日(月)13時50分

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