績予想を開示しない会社が激増!? ピークを迎える決算発表に異変
東洋経済オンライン 5月8日(火)10時27分配信

予想非開示が増える?
3月期決算企業の決算発表がピークを迎えているが、同時に公表されることが多い新年度業績の会社予想に、今年は“異変”が起きている。
業績予想を開示しない会社一覧
発端となったのは、この3月21日に東京証券取引所が出した「業績予想開示に関する実務上の取扱いの見直し内容について」と題するリリース。その中で東証は、決算短信での会社予想の記載を柔軟化し、第2四半期累計と通期の売上高、営業利益、経常利益、純益、1株当たり純益の予想を書く従来型の「表形式」に加えて、1株当たり純益のみなどの自由記載形式を認めることとした。
また、これまでは会社予想非開示の場合、その理由の明記を求めてきたが、これからは理由を書かなくても良いことになった。一方で、内部的に計画がある場合は開示すべきとしている。会社予想が経営のコミットメントではない場合、そのことを明記することも求めている。
SMBC日興證券・株式調査部の伊藤桂一チーフクオンツアナリストは、「自由形式では、上場企業間のヨコ比較がしにくくなる。そもそも会社予想が出てこなくなるリスクがある。幅のある予想を出してくる会社が増える可能性がある」と顔をしかめる。コミットメントの明記は、「取引所が上場企業に対して、『情報開示のハードルを上げている』という印象を与えないためではないか」といぶかる。
これに対し、野村総合研究所の大崎貞和主任研究員は、「一つの社会実験として注目している」と語る。「会社予想の開示では、好調か不調かのメッセージが重要。好不調を伝えるのにこんな方法があるなどの創意工夫が自由形式で示されれば、他社の参考になる。幅のある予想を出すのも賛成。ただ、売上高10%、利益30%の増減で修正を出さなければいけない修正ルールに引っかかりやすいのでややこしい。きまじめに通期の予想にこだわらず、四半期先のEPS(1株当たり純益)の開示でもよい。ラフな数字でも好不調が投資家に伝わればよい。EPSならば、売上高や利益が変動しても、そう大きくぶれることもない」と語る。
現状でも市況に左右される面が多いなどの理由で、証券会社を中心に非開示会社は存在する。通期予想非開示の社数は、全上場企業のうち、「会社四季報」春号(3月発売)で69社(3ページ目に一覧表)、新春号(昨年12月発売)では94社(4ページ目に一覧表)に上る。
業績予想開示の柔軟化は、「上場会社における業績予想開示の在り方に関する研究会」の報告を受けたもの。座長は一橋大学大学院の伊藤邦雄教授。委員には早稲田大学大学院から3人(うち1人はエーザイ執行役員の兼任)、座長を含め一橋大学大学院、青山学院大学大学院、日本証券経済研究所から各2人。関西学院大学、野村資本市場研究所から1人。
同委員会のオブザーバーである東証は、従来型の表形式のみで変更なし、とする「裏バージョンの報告書を作成。自由形式を広く認めると管理が繁雑になるから」(証券関係者)。これには同じくオブザーバーで、柔軟化を推進してきた金融庁が激怒。最終的には表形式と自由形式を認めることで落ち着いた。
もっとも、どうすればいいか迷った場合、後で文句を言われないように、上場会社が東証に「おうかがい」を立てることは日常茶飯事である。今回の柔軟化が決まった経緯で、東証が自由形式に消極的だったことを考えると、上場会社がおうかがいを立てた場合、従来型の表形式を東証の担当者が勧めるのは想像に難くない。
それでも、これ幸いと業績予想を非開示とする会社が激増する可能性は否定できない。予想の作成作業が省ければ業績発表の迅速化が図れるし、そもそも予想を出していなければ期中に修正発表の必要もないからだ。
3月決算会社の決算短信の発表は45日ルールで5月中旬に最終期限が訪れる。日本の上場企業の情報開示が後退するのか、それとも改善するのか。市場関係者は固唾を飲んで“社会実験”の結果を見守っている。
(山田雄一郎=東洋経済オンライン)
最終更新:5月8日(火)10時27分
記事のみ紹介。
暗黒の稲妻
東洋経済オンライン 5月8日(火)10時27分配信

予想非開示が増える?
3月期決算企業の決算発表がピークを迎えているが、同時に公表されることが多い新年度業績の会社予想に、今年は“異変”が起きている。
業績予想を開示しない会社一覧
発端となったのは、この3月21日に東京証券取引所が出した「業績予想開示に関する実務上の取扱いの見直し内容について」と題するリリース。その中で東証は、決算短信での会社予想の記載を柔軟化し、第2四半期累計と通期の売上高、営業利益、経常利益、純益、1株当たり純益の予想を書く従来型の「表形式」に加えて、1株当たり純益のみなどの自由記載形式を認めることとした。
また、これまでは会社予想非開示の場合、その理由の明記を求めてきたが、これからは理由を書かなくても良いことになった。一方で、内部的に計画がある場合は開示すべきとしている。会社予想が経営のコミットメントではない場合、そのことを明記することも求めている。
SMBC日興證券・株式調査部の伊藤桂一チーフクオンツアナリストは、「自由形式では、上場企業間のヨコ比較がしにくくなる。そもそも会社予想が出てこなくなるリスクがある。幅のある予想を出してくる会社が増える可能性がある」と顔をしかめる。コミットメントの明記は、「取引所が上場企業に対して、『情報開示のハードルを上げている』という印象を与えないためではないか」といぶかる。
これに対し、野村総合研究所の大崎貞和主任研究員は、「一つの社会実験として注目している」と語る。「会社予想の開示では、好調か不調かのメッセージが重要。好不調を伝えるのにこんな方法があるなどの創意工夫が自由形式で示されれば、他社の参考になる。幅のある予想を出すのも賛成。ただ、売上高10%、利益30%の増減で修正を出さなければいけない修正ルールに引っかかりやすいのでややこしい。きまじめに通期の予想にこだわらず、四半期先のEPS(1株当たり純益)の開示でもよい。ラフな数字でも好不調が投資家に伝わればよい。EPSならば、売上高や利益が変動しても、そう大きくぶれることもない」と語る。
現状でも市況に左右される面が多いなどの理由で、証券会社を中心に非開示会社は存在する。通期予想非開示の社数は、全上場企業のうち、「会社四季報」春号(3月発売)で69社(3ページ目に一覧表)、新春号(昨年12月発売)では94社(4ページ目に一覧表)に上る。
業績予想開示の柔軟化は、「上場会社における業績予想開示の在り方に関する研究会」の報告を受けたもの。座長は一橋大学大学院の伊藤邦雄教授。委員には早稲田大学大学院から3人(うち1人はエーザイ執行役員の兼任)、座長を含め一橋大学大学院、青山学院大学大学院、日本証券経済研究所から各2人。関西学院大学、野村資本市場研究所から1人。
同委員会のオブザーバーである東証は、従来型の表形式のみで変更なし、とする「裏バージョンの報告書を作成。自由形式を広く認めると管理が繁雑になるから」(証券関係者)。これには同じくオブザーバーで、柔軟化を推進してきた金融庁が激怒。最終的には表形式と自由形式を認めることで落ち着いた。
もっとも、どうすればいいか迷った場合、後で文句を言われないように、上場会社が東証に「おうかがい」を立てることは日常茶飯事である。今回の柔軟化が決まった経緯で、東証が自由形式に消極的だったことを考えると、上場会社がおうかがいを立てた場合、従来型の表形式を東証の担当者が勧めるのは想像に難くない。
それでも、これ幸いと業績予想を非開示とする会社が激増する可能性は否定できない。予想の作成作業が省ければ業績発表の迅速化が図れるし、そもそも予想を出していなければ期中に修正発表の必要もないからだ。
3月決算会社の決算短信の発表は45日ルールで5月中旬に最終期限が訪れる。日本の上場企業の情報開示が後退するのか、それとも改善するのか。市場関係者は固唾を飲んで“社会実験”の結果を見守っている。
(山田雄一郎=東洋経済オンライン)
最終更新:5月8日(火)10時27分
記事のみ紹介。
暗黒の稲妻