「逆転裁判」から「モンハン」まで…ヒット連発のカプコンがその秘訣を明かす
産経新聞 5月5日(土)11時47分配信


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女性参加者の姿も目立ったモンスターハンター3Gの講習会=3月、大阪府東大阪市(写真:産経新聞)
【ビジネスの裏側】

 ニンテンドー3DSの売り上げ回復の原動力ともなった「モンスターハンター3(トライ)G」を始め、これまで50本以上のミリオンセラーを送り出しているカプコン。今年10月に発売予定の「バイオハザード6」に代表されるように、同社にはブランドタイトルが多い。ゲーム専用機市場が縮小し、老舗ゲーム会社の合併が進む中、数少ない独立を支える同社のブランド構築力の秘訣(ひけつ)を探った。

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 2月11日、全国で公開された映画「逆転裁判」。豪華なキャストが並び、大きな話題となった。原作はカプコンの同名タイトルのゲームだ。同社では、シリーズ累計で世界4700万本を売り上げた「バイオハザード」や人気格闘ゲーム「ストリートファイターII」など10本近くが映画化されており、「他のゲーム会社に比べて突出している」(業界関係者)状態だ。さらに、「戦国BASARA」はアニメや舞台に展開、女性ファンを多く獲得している。このマルチ展開こそがカプコンがゲームソフトをブランド化させるための戦略だ。家庭用ゲームソフトは数年かけて開発しても発売1カ月程度で売り切れば終わりというサイクルで、商品寿命が短かった。一方で、ゲーム機の進化により開発費が増加、発売のタイミングで売れなければ、大きな赤字を抱えてしまうリスクが高まっていた。

 これに対し、カプコンではキャラクターグッズや映画などに幅広く展開することにより、収益の最大化を図る「ワンコンテンツ・マルチユース」戦略を掲げている。世間の注目が長引けばブランド化につながり、他のゲーム機に展開する際にも大きな追い風となるなど、メリットは大きい。この戦略が当たり、カプコンでは平成4年にスーパーファミコン(任天堂)向けに発売された「ストリートファイターII」が630万本売れたことを皮切りに、ほぼ4~5年間隔で「出せば売れる」といったブランドタイトルを送り出しており、この3年間で100万本以上を売り上げたヒット作を約10本輩出している。

 辻本春弘社長はこの戦略について「ゲーム製作の段階で映画化も含めたマルチユースを想定して作るように指示している。例えば、いまやバイオハザードはゲームと映画のどちらが先か、分からない人もいると思う。それでいい」と説明する。また、このマルチユースが盛んな理由にはそのハードルの低さもある。同社の平成23年3月期の売上高は977億円だが、このうち、ライセンス収入などに該当するその他事業の売り上げは27億円。同社広報は「実はロイヤルティー収入は多くない」といい、「あくまでも積極的に使われることで本業のゲームソフトの話題性や認知度を高めるのが目的」としている。

 ブランド維持に向けた“草の根”活動も欠かさない。3月には東京、大阪、福岡でモンスターハンター(モンハン)3Gの春季講習を開講。ゲーム愛好家はもちろん、初心者や親子連れから女性プレーヤーまで幅広く参加。中には「(モンハン3Gが)初めて購入したゲーム」という全くの初心者の姿も。参加者同士で基礎的な動作や協力プレーの仕方を学んだり、開発担当者からちょっとしたコツを学ぶなど、終始楽しんでいた。

 講師を務めた同シリーズのプロデューサー、辻本良三さんは「もともと口コミで成長したシリーズ。直接的なイベントを通じて既存ユーザーにも新鮮味や刺激を提供することで、勢いに継続性が生まれ、ブランドにつながる」と振り返る。さらに、ゲーム専用機市場と同様に縮小傾向に陥っているアーケードゲーム市場でも顧客層の拡大に向けた取り組みを進めている。同社は近年、ゲームセンターで姿が増えている高齢者に注目。3~4月にかけて、全国20カ所のゲームセンターで高齢者向けの講習会を開催し、計約330人が参加したという。

 4月7日、京都市右京区のイオンモール京都五条で行われたセミナーには6組12人が参加し、UFOキャッチャーやメダルゲーム、プリクラなどについて説明を受けた。ほぼ毎日訪れているという70代の女性は「ここに来れば同年代の知り合いがいる。少ないお金で長く楽しめるのもいい」と語り、夫婦で参加した自営業の男性(62)は「昔のゲームセンターは、薄暗くてたばこの煙が立ちこめ、子供や孫を遊ばせたくない場所だった。こういう場所なら反対もしない」と感心した様子。孫と参加した70代の女性も「孫がやっているのを見てやってみたくなった。いつか一緒に遊びたい」と笑顔を浮かべていた。

 これまでゲーム愛好家向けから、家族や高齢者が楽しめる「アミューズメント施設」への転換で目指すゲームセンター復権。直接的なブランド戦略とはいえないが、参加者のひとりが「ゲームはよく知らなかったけど、孫に頼まれたら、ここ(カプコン)のゲームなら買っても大丈夫かな、と思うようになった」と語るように、思わぬ“副産物”もうかがえる。年末に向けて今後も多くの新作が発売予定で、人気シリーズの最新作「モンスターハンター4(仮称)」の開発も進められている。従来のゲーム市場が漸減傾向にある中、カプコンの好調がどこまで続くのか、注目される。(伊豆丸亮)

最終更新:5月7日(月)11時40分

バイオハザード6は期待してる。

暗黒の稲妻