カンボジア、アパレル界に新風 ファッション誌が「個性」主張
フジサンケイ ビジネスアイ 5月2日(水)8時15分配信

拡大写真
ファッション誌「ソブリン」とソウデン編集長=プノンペン市内(写真:フジサンケイビジネスアイ)
総勢50人ものカンボジア人モデルが、次々に舞台に現れ、長い手足を振りながらさっそうと歩いた。
3月末、プノンペン市内のダイヤモンドアイランドで、カンボジアのアパレル会社「ソブレイン」の主催によるファッションショーが開かれた。
同社が販売する4ブランドの春・夏コレクションを紹介するものだが、カンボジア人による本格的なファッションショーは同国でも初めて、と注目された。
仕掛け人は、ソブレインが発行するファッション誌「ソブリン」の編集長でカンボジア人のリ・ソウデンさん(24)。「ファッションは時代の躍動感を映し出す。ファッションを通して、これが今のカンボジアだというものを表現したいと思った」と話す。
出演したモデルはカンボジア人のみ。モデル事務所に所属するなど全員がプロだ。紹介したブランドは、同社が扱うマンゴー(スペイン)、アクサラ・パリ(フランス)、エクリプス(マレーシア)、VNC(靴、マレーシア)。ファッションショー向けに作られた華やかな衣装などよりも、あえて「カンボジアで実際に買える新作」にこだわった。「手の届かないものでは意味がない。等身大の自分たちを強調したかった」とソウデン編集長は言う。
ここ1、2年で、プノンペンのファッション事情は大きく変化した。目抜き通りには高級感のあるブティックや、手ごろな価格の小ぎれいな専門店が立ち並び、市場で縫製工場のアウトレット品や古着を買うのが当たり前だった若い世代が出入りし始めた。
そんななか、2011年10月にソウデンさんたちが創刊した「ソブリン」は、異彩を放つファッション誌となった。1冊8000リエル(約160円)で、他の雑誌よりもやや高めだが、月刊で5000部を発行している。見出しに英語を使用しているが、記事はすべてクメール語。カンボジアの女性誌といえば、有名人のゴシップ記事が「売り」だが、ソブリンにゴシップ記事はない。「それよりも自分たちの国のカンボジアを見つめることにこだわった」(ソウデン編集長)
編集スタッフはほぼ全員が25歳以下。1991年に終結した内戦の記憶はほとんどなく、カンボジアが経済成長を続ける時代に青春をすごしている。国際社会から押し付けられがちな「かわいそうなカンボジア」像から脱皮したいという気持ちが強い。
「僕たちは自分の国を誇りに思いたい。もっと好きになりたい。そういう思いで、雑誌を作っている」。ソウデン編集長の言葉通り、カンボジア人モデルによるファッションページ、ファッションやアート業界で注目されるカンボジア人の紹介、国内の町を紹介した記事、クメール料理のページなどカンボジア一色だ。
「雑誌を創刊する前、『ヴォーグ』や『エル』のカンボジア版を作れと助言された。でも、僕らは『ヴォーグ・カンボジア』や『エル・カンボジア』ではなく、自分たちのファッション誌を作りたかった」とソウデン編集長。雑誌名の「ソブリン」は発行社名でもある英語のsovereign(主権)に由来する造語。「主権というと大げさだが、カンボジア人の個性をもっと意識したい。そんな意味をこめた」(同)
雑誌「ソブリン」には、1年半前からカンボジアで活躍する日本人ヘアメークアップアーティストの福山賢蔵さん(34)も参加している。
カンボジアの伝統的な美意識は「シンメトリー(左右対称)でカチっとした感じ」。素顔が分からないほどこってりと塗るメークが主流だが、福山さんは「新しい印象を打ち出したい」という雑誌のコンセプトを受け、カンボジア女性の無垢(むく)な魅力を生かすメークに挑戦している。
福山さんは「女性が自立してくると、ファッションにも自己主張が表れる。カンボジア女性が個性豊かなファッションを楽しみ始めたら、それは社会が変わる兆しでしょう」と話す。
流行を生み出す独自のファッションアイコン(あこがれの的)がまだ不在のカンボジア。ソウデン編集長や福山さんらのまく種が、これからどんな芽を出すのか楽しみだ。(在カンボジア・ジャーナリスト 木村文)
最終更新:5月2日(水)9時13分
記事のみ紹介。
暗黒の稲妻
フジサンケイ ビジネスアイ 5月2日(水)8時15分配信

拡大写真
ファッション誌「ソブリン」とソウデン編集長=プノンペン市内(写真:フジサンケイビジネスアイ)
総勢50人ものカンボジア人モデルが、次々に舞台に現れ、長い手足を振りながらさっそうと歩いた。
3月末、プノンペン市内のダイヤモンドアイランドで、カンボジアのアパレル会社「ソブレイン」の主催によるファッションショーが開かれた。
同社が販売する4ブランドの春・夏コレクションを紹介するものだが、カンボジア人による本格的なファッションショーは同国でも初めて、と注目された。
仕掛け人は、ソブレインが発行するファッション誌「ソブリン」の編集長でカンボジア人のリ・ソウデンさん(24)。「ファッションは時代の躍動感を映し出す。ファッションを通して、これが今のカンボジアだというものを表現したいと思った」と話す。
出演したモデルはカンボジア人のみ。モデル事務所に所属するなど全員がプロだ。紹介したブランドは、同社が扱うマンゴー(スペイン)、アクサラ・パリ(フランス)、エクリプス(マレーシア)、VNC(靴、マレーシア)。ファッションショー向けに作られた華やかな衣装などよりも、あえて「カンボジアで実際に買える新作」にこだわった。「手の届かないものでは意味がない。等身大の自分たちを強調したかった」とソウデン編集長は言う。
ここ1、2年で、プノンペンのファッション事情は大きく変化した。目抜き通りには高級感のあるブティックや、手ごろな価格の小ぎれいな専門店が立ち並び、市場で縫製工場のアウトレット品や古着を買うのが当たり前だった若い世代が出入りし始めた。
そんななか、2011年10月にソウデンさんたちが創刊した「ソブリン」は、異彩を放つファッション誌となった。1冊8000リエル(約160円)で、他の雑誌よりもやや高めだが、月刊で5000部を発行している。見出しに英語を使用しているが、記事はすべてクメール語。カンボジアの女性誌といえば、有名人のゴシップ記事が「売り」だが、ソブリンにゴシップ記事はない。「それよりも自分たちの国のカンボジアを見つめることにこだわった」(ソウデン編集長)
編集スタッフはほぼ全員が25歳以下。1991年に終結した内戦の記憶はほとんどなく、カンボジアが経済成長を続ける時代に青春をすごしている。国際社会から押し付けられがちな「かわいそうなカンボジア」像から脱皮したいという気持ちが強い。
「僕たちは自分の国を誇りに思いたい。もっと好きになりたい。そういう思いで、雑誌を作っている」。ソウデン編集長の言葉通り、カンボジア人モデルによるファッションページ、ファッションやアート業界で注目されるカンボジア人の紹介、国内の町を紹介した記事、クメール料理のページなどカンボジア一色だ。
「雑誌を創刊する前、『ヴォーグ』や『エル』のカンボジア版を作れと助言された。でも、僕らは『ヴォーグ・カンボジア』や『エル・カンボジア』ではなく、自分たちのファッション誌を作りたかった」とソウデン編集長。雑誌名の「ソブリン」は発行社名でもある英語のsovereign(主権)に由来する造語。「主権というと大げさだが、カンボジア人の個性をもっと意識したい。そんな意味をこめた」(同)
雑誌「ソブリン」には、1年半前からカンボジアで活躍する日本人ヘアメークアップアーティストの福山賢蔵さん(34)も参加している。
カンボジアの伝統的な美意識は「シンメトリー(左右対称)でカチっとした感じ」。素顔が分からないほどこってりと塗るメークが主流だが、福山さんは「新しい印象を打ち出したい」という雑誌のコンセプトを受け、カンボジア女性の無垢(むく)な魅力を生かすメークに挑戦している。
福山さんは「女性が自立してくると、ファッションにも自己主張が表れる。カンボジア女性が個性豊かなファッションを楽しみ始めたら、それは社会が変わる兆しでしょう」と話す。
流行を生み出す独自のファッションアイコン(あこがれの的)がまだ不在のカンボジア。ソウデン編集長や福山さんらのまく種が、これからどんな芽を出すのか楽しみだ。(在カンボジア・ジャーナリスト 木村文)
最終更新:5月2日(水)9時13分
記事のみ紹介。
暗黒の稲妻