PHS通話+3Gルーター、PORTUSは「最強の2台目」なのか?
nikkei TRENDYnet 4月26日(木)11時6分配信


2012年4月26日、ウィルコムから新しいPHS端末「PORTUS<WX02S>」(セイコーインスツル製)が発売された。PHSの音声端末ながら、ソフトバンクの3G網を使ったルーター機能を内蔵する、全く新しいタイプの「ハイブリッドPHS」だ。
 2012年4月26日、ウィルコムから新しいPHS端末「PORTUS<WX02S>」(セイコーインスツル製)が発売された。PHSの音声端末ながら、ソフトバンクの3G網を使ったルーター機能を内蔵する、全く新しいタイプの「ハイブリッドPHS」だ。音声端末に力を入れ、スマートフォンとの「2台持ち」需要への対応を強く打ち出すウィルコム。音声通話とモバイルルーターという、2台目向けとしてはまさにうってつけの機能を組み合わせることで、新たな市場開拓を狙う戦略商品だ。PHSの音声通話は、料金の安さだけでなく震災直後の活躍ぶりからも再び脚光を集めているが、ではこの製品のカギともいえる3Gルーター機能の実力はどうか。実際に使ってチェックした。

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便利に使える「Wi-Fiボタン」と「スライドスイッチ」

 本体形状は、PHS端末としてはごくありふれたテンキー付きのストレートタイプ。液晶は2.2型のQVGA(320×240)だ。カメラは内蔵していない。ライトメール、Eメールには対応しているが、「2台目であることを考えた割り切り」(開発を担当したウィルコム・マーケティング本部 商品企画部 端末企画グループの山田聖人氏)の結果だ。

 本体で目を引くのは、十字キー右下の「Wi-Fi」ボタン、そして本体右側面のスライドスイッチだ。

 Wi-Fiボタンを押すと、ルーター機能の設定メニューが表示される。この画面からSSIDとセキュリティ設定を確認し、Wi-Fi機器を接続すればいい。SSIDやWEPキーが画面上で確認でき、しかもテンキー入力で簡単に設定変更できるのは、単体のルーターにはないこの機種ならではのメリットだ。

 さらに、ルーター機能をオンにするには、本体右側面のスイッチを上方向に押し上げるだけでいい。画面を見なくてもルーター機能のオン・オフが操作でき、非常に便利。「ポケットのなかでもルーター機能を操作できるようにしたかった」(ウィルコム・山田氏)といい、小さな工夫ながらも便利さを感じさせるポイントになっている。

 PORTUSの本体サイズは幅50×高さ124×厚さ15mm。昨今のスマートフォンに慣れた手には非常に小さく感じる一方で、重さは大画面のスマートフォン「GALAXY S II SC-02C」(NTTドコモ、サムスン電子)と同じ120g。さほど軽いわけではない。

 理由は裏蓋を開ければわかる。大型のスマートフォンと同等以上の、1700mAhもの大容量バッテリーを積んでいる(GALAXY S IIのバッテリーは1650mAh)。本体の左右幅とバッテリーの左右幅がほぼ等しく、本体の下半分のほとんどがバッテリーで占められていることがわかる。モバイルルーターとしての実用性を決める最も重要なポイント、バッテリーの持ちを重視した結果だ。

 この機種が他のモバイルルーターと異なるのは、通話用回線としての運用を前提としている点。iPod touchやiPadなど無線LAN機器のルーターとして使いつつ、電話の着信も受ける、といった使い方が想定されている。ルーター機能を使っていて電池が切れると通話も受けられなくなり、非常に困ったことになる。

 そこでこの機種では工夫を凝らし、電池の残量表示が残り1目盛りになると自動でルーター機能がスタンバイ状態になる(標準設定時)。設定を変えれば、残量表示がゼロになるまでルーター機能を動かし続けることもできるが、多くの人は標準設定のまま使えば問題ないだろう。

 ルーター機能のスペック上の連続駆動時間は約4時間で、試験段階の端末で実測した限りでは、ほぼスペック通りの電池の持ちが期待できそうだ。ただ、大容量のデータをやり取りした際にはこれよりも電池の持ちが短くなる可能性がある。

地下でルーター機能が使えない!

 3Gルーター機能の通信速度は最大42Mbps。試験段階の端末を使ってみた感覚では、ソフトバンクのULTRA SPEED対応ルーター「007Z」(ZTE製)などと同等の速度が期待できそうだ。なお、007Zの場合は速い時で12Mbps超、比較的遅い時でも3Mbps程度の速度が確認できた(iPhone 4を接続し速度計測アプリ「Speedtest.net」を利用して計測。東京・大手町周辺)。概ね不満のないスピードといえるが、快適さは通信の混雑度によって大きく変わってくる。また、ULTRA SPEEDはインターネット接続時に発生する遅延時間(レイテンシ)でNTTドコモのLTEなどに見劣りしており、必ずしも「最速」を選びたい人向けの選択肢とはいえない。特に、ウェブブラウザーでURLを確定してからサイトが表示され始めるまでの時間を比べると、速度の差が見て取れる。

 それよりも気になったのが、ULTRA SPEEDのエリアの狭さだ。JR東京駅から大手町にかけての地下街を歩いただけでも、圏外のエリアが広範囲にわたって存在していた。東京駅構内・銀の鈴待ち合わせ場所(全域)や地下鉄大手町駅の構内(広範囲)、丸の内オアゾ・地下飲食店街(一部)が圏外だったのをはじめ、付近の商業ビル内では地上階であっても建物の奥に入ると圏外になることがあった。

 ソフトバンクのULTRA SPEED対応ルーター「007Z」などとは違い、PORTUSは3Gに関しては1.5GHz帯のULTRA SPEEDのみに対応している。ソフトバンクのスマートフォンが通常使用している2.1GHz帯など他の周波数の3Gはつかめないので、エリアではどうしても見劣りしてしまうのだ。

3年間は使い続ける覚悟が必要

 PORTUSの利用時には、新規契約・機種変更を問わず、専用の料金プラン「ウィルコムプランW」への加入が必須になる。プランWは月3880円(定額)で、ウィルコム同士無料の通話と容量無制限の3G通信が含まれるが、他社ケータイ・一般電話への発信は30秒あたり21円の通話料がかかる(別途オプションの「だれとでも定額」を組み合わせることもできる)。また、3Gの通信量が月間3000万パケット(約3.6GB)を超えると翌々月の速度通信制限の対象になるので注意が必要だ。

 3880円という月額料金は、WiMAXサービスを提供するUQコミュニケーションズの「UQ Flat 年間パスポート」と同じ。もちろん、ケータイキャリア主要3社のパケット定額料(上限額)よりも安く、通話もできることを考えると、かなり魅力的な設定といえる。ただし、このウィルコムプランWは2年ではなく3年ごとの契約更新となり、契約満了日の翌料金月以外のタイミングで解約・コース変更をすると9975円の手数料が発生してしまう。進化の激しい通信機器ながら3年という長期の契約が必須なのは、やや気になるところだ。

 2台目として割り切った設計のPORTUSはルーターとしての完成度も高く、速度や料金にも大きな不満はない。ただし、ルーターとして使えるエリアがやや狭い点、3年間は使い続ける覚悟が要る点には注意が必要だ。単純にモバイルルーターとして使いたいだけなら、よりエリアの広く、契約期間の短いWiMAXなどの選択肢もある。PHSで通話ができて、しかもルーターにもなる、という点にこそ、この機種の魅力がある。

(文/有我武紘=日経トレンディ)

最終更新:4月26日(木)11時6分

3年縛りがなければね・・・。

暗黒の稲妻