【底流】アップル“下請け”不安 シャープ、鴻海提携もろ刃の剣 (1/3ページ)
2012.4.8 07:00


鴻海グループとの提携について会見するシャープの奥田隆司常務執行役員(現社長)【拡大】
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 業績不振にあえぐシャープが、電子機器受託製造サービス(EMS)で世界トップの台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業と資本業務提携する。鴻海の背後には、最大の受託元である米アップルが控える。シャープにとって、稼働率が低下している液晶パネルを鴻海を通じてアップルに大量供給できれば、業績立て直しの切り札となる。一方で鴻海への技術流出に加え、アップルと一蓮托生の“下請け”になりかねないリスクもはらんでいる。

秘密兵器IGZO

 「シャープが持つ超高精細の液晶パネル技術『IGZO(イグゾー)』こそが、鴻海の最大の狙いだ」。証券アナリストは、こう推察する。

 イグゾーと呼ばれる「酸化物半導体」をパネルの制御に使えば、解像度が飛躍的に高まり、省エネ性能も大幅に向上する。シャープは亀山第2工場(三重県亀山市)で、イグゾーを使ったタブレット型端末向け中小型パネルの量産を準備中だ。さらに主力の堺工場(堺市)では、イグゾーのテレビ向け大型パネルを生産できるようラインの改造を進めているという。

 鴻海、シャープの視線の先には、アップルが開発中とされる「アップル・テレビ」がある。

 「とっても使いやすいテレビを作りたいと思ってるんだ」。昨年10月に亡くなったアップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏は、次世代テレビの構想を残したといわれている。年内に発売されるとの観測もあり、売り出されれば、世界的な大ヒットは確実だ。

 iPhoneやiPadと同様に鴻海が大半の生産を受託する公算が大きい。だが、同社傘下のパネルメーカー、奇美(チーメイ)電子にはアップルが要求する水準をクリアできる技術はない。シャープとの提携は、まさに「渡りに船」だった。

日台米で韓国対抗

 一方のシャープにとっては、主力の堺工場の稼働率の改善が最優先の課題となっている。「第10世代」と呼ばれる5畳分の大きさのガラス基板から、大型の液晶パネルを効率的に生産できるのが特徴で、約4千億円の巨額投資で21年に稼働させた。

 しかし、地上デジタル放送への完全移行と家電エコポイントの終了で国内の薄型テレビ販売は激減。供給過剰で値崩れも底なしとなり、今年1月から稼働率は50%にとどまっている。

 今回の提携では、鴻海の郭台銘董事長が堺工場の運営会社に個人で660億円を出資。同工場で共同生産を行い、鴻海が最大でパネルの半分を引き取ってくれる。さらにアップル・テレビへの供給が実現すれば、稼働率が安定し、業績回復への道が一気に開ける。

 「日本と台湾が組めば韓国企業に負けることはない」。鴻海の郭董事長は、背後のアップルを巻き込んだ「日台米連合」によって、世界のテレビ市場を席巻するサムスン電子とLG電子の韓国勢に対抗する野心を隠さない。

技術流出の二の舞い

 だが、自らも最終製品の薄型テレビを手がけるシャープにとって、EMSと手を組むことは、“もろ刃の剣”だ。

 技術流出の懸念について、4月1日に就任した奥田隆司社長は「設計はシャープ本体でやる。特許もわれわれが保有するので、心配ない」と一蹴する。

 だが、16年にサムスンと液晶パネルの合弁を立ち上げ、今年1月に解消したソニーの関係者は、「技術者の交流などを通じ、かなりの技術が流れた。二の舞いとなる不安は拭えない」と警告する。

 シャープはすでにアップルにiPhone向けの液晶パネルを供給している。依存度をさらに高めれば、アップル製品の売り上げに業績が左右されるリスクも高まる。

 それどころか、イグゾー・パネルをアップルに供給することで、「太刀打ち不可能な“モンスター”を自ら育てることになりかねない」(業界関係者)。

 奥田社長は、「単独の垂直統合モデルに限界があった」とし、基幹部品から最終製品までを一貫生産する“自前主義”からの脱却を強調する。

 だが、シャープを含む日本の電機メーカーの苦境は、ビジネスモデルだけの問題ではない。奥田社長が「シャープに足りないのはマーケティング」と認めるように、売れる商品を生み出せなくなったことが最大の原因だ。

 シャープが22年末に売り出したタブレット型端末「ガラパゴス」は、ヒットにほど遠く、わずか10カ月で量販店などでの直接販売を終了するなど軌道修正を余儀なくされた。

 モノ作りの力を取り戻さない限り、本当の復活は見えてこない。(田端素央)

(記事元:SankeiBiz)
URL:http://www.sankeibiz.jp/business/news/120408/bsg1204080701000-n1.htm

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