新型インフル特措法 「危機管理」か「人権」か
産経新聞 3月30日(金)7時55分配信
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新型インフルエンザ対策と区別措置法案のポイント(写真:産経新聞)
新型インフルエンザに対する危機管理の取り組みを定めた「新型インフルエンザ対策特別措置法案」が国会に提出されている。新型インフルなどが大流行した場合、その影響を最小限に抑えることが狙いで、危機管理上、住民の行動制限なども要請できることになるが、ここに来て、日本弁護士連合会(日弁連)などから「人権が過剰に制限されている」などとして反対の声が上がった。「危機管理」と「人権制限」をどう考えればいいのか。(豊吉広英)
【フォト】インフル対策用品に予想以上の関心 患者数211万人
法案によると、政府は新型インフルエンザや新型の感染症が発生し、国民の生命や健康に深刻な被害を与える恐れがあるときには、首相が区域や期間を定めて「緊急事態」を宣言。外出の自粛や休校、人の集まる施設を使わないなど、住民の行動制限の要請や指示ができる。
必要な医薬品や食品などを確保するための保管命令に業者が従わなかった場合などは30万円以下の罰金など罰則規定も設けた。
◆日弁連が反対
これに対し「法案は危険だ」との声を上げたのが、日弁連だ。22日には反対する会長声明を出した。特に問題視しているのは、感染防止のために強いられる人権制限が過大である点だ。
厚労省は、新型インフルで考え得る最悪の被害を、大正7(1918)~8年に流行したスペイン風邪並みの致死率2%で計算し64万人が死亡する可能性があると想定。特措法もこの想定を念頭に置いて作られた。
しかし、日弁連は「当時と現在では国民の健康状態、衛生状態や医療環境の違いは歴然としている」と指摘。科学的根拠のない過大な被害想定に基づき、集会の自由が制限され、制限の適用要件も曖昧などと批判する。
感染症の専門家はどのように捉えているのか。
「確かにスペイン風邪の時代に比べれば、衛生状況や薬、ワクチンが良くなっている側面はある」。国立感染症研究所の岡部信彦・感染症情報センター長は、被害想定が過大とする批判に一定の理解を示す一方、「当時に比べ、逆に人口密度は高くなり、交通機関の発達などで人の移動も活発になるなど不確定要素も出てきた」と指摘。「新しいものを想定するときには学問的根拠だけで全てを議論できない。実際に過去に被害があったなら、その被害に備えなければいけないだろう」としている。
国立成育医療研究センターの加藤達夫総長も「海外でも同様の措置を講じている。国家が危機管理をする際、最大限の被害想定をしないのは無責任。“備えあれば憂いなし”でいいと思う」と話す。
◆“水際”必要?
一方で、対策そのものに問題があるとする関係者もいる。特に批判が多いのは海外からのウイルス持ち込みを防ぐ目的で行われる、空港での“水際作戦”だ。
亀田総合病院(千葉県鴨川市)の小松秀樹副院長は「21年の新型インフルで行われた水際作戦では、8人の患者を発見する間に100人がすり抜けたという計算もある」と指摘。その上で「政府は『ウイルスの国内侵入を遅らせる』とするが、遅らせることもできない上、医療側が疲弊して疾病対応能力を奪ってしまう」として、より医療現場に即したルール作成を行うべきだと訴える。
これに対し、法案をまとめた内閣官房新型インフルエンザ等対策室は「ウイルスが入り込むのを完全に防げるとは思わないが、蔓延(まんえん)のスピードを少しでも遅らせ、対策を取る時間を稼ぐ意味がある」と説明。「あくまでも初期段階の対応。合理性がなくなれば措置を縮小する」としている。
【用語解説】新型インフルエンザ
鳥類や豚など動物のインフルエンザウイルスが変異し、人から人への感染拡大が可能になって起こるとされる。ほとんどの人が免疫を持たないために、爆発的に拡大し、パンデミック(世界的大流行)を起こす可能性がある。2009(平成21)年4月に豚由来といわれた新型インフルエンザが米国やメキシコで最初に確認され、瞬く間に世界的大流行となった。
最終更新:3月30日(金)13時4分
新型インフルエンザに対する危機管理の取り組みを定めた「新型インフルエンザ対策特別措置法案」が国会に提出されている様だ。
暗黒の稲妻
産経新聞 3月30日(金)7時55分配信

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新型インフルエンザ対策と区別措置法案のポイント(写真:産経新聞)
新型インフルエンザに対する危機管理の取り組みを定めた「新型インフルエンザ対策特別措置法案」が国会に提出されている。新型インフルなどが大流行した場合、その影響を最小限に抑えることが狙いで、危機管理上、住民の行動制限なども要請できることになるが、ここに来て、日本弁護士連合会(日弁連)などから「人権が過剰に制限されている」などとして反対の声が上がった。「危機管理」と「人権制限」をどう考えればいいのか。(豊吉広英)
【フォト】インフル対策用品に予想以上の関心 患者数211万人
法案によると、政府は新型インフルエンザや新型の感染症が発生し、国民の生命や健康に深刻な被害を与える恐れがあるときには、首相が区域や期間を定めて「緊急事態」を宣言。外出の自粛や休校、人の集まる施設を使わないなど、住民の行動制限の要請や指示ができる。
必要な医薬品や食品などを確保するための保管命令に業者が従わなかった場合などは30万円以下の罰金など罰則規定も設けた。
◆日弁連が反対
これに対し「法案は危険だ」との声を上げたのが、日弁連だ。22日には反対する会長声明を出した。特に問題視しているのは、感染防止のために強いられる人権制限が過大である点だ。
厚労省は、新型インフルで考え得る最悪の被害を、大正7(1918)~8年に流行したスペイン風邪並みの致死率2%で計算し64万人が死亡する可能性があると想定。特措法もこの想定を念頭に置いて作られた。
しかし、日弁連は「当時と現在では国民の健康状態、衛生状態や医療環境の違いは歴然としている」と指摘。科学的根拠のない過大な被害想定に基づき、集会の自由が制限され、制限の適用要件も曖昧などと批判する。
感染症の専門家はどのように捉えているのか。
「確かにスペイン風邪の時代に比べれば、衛生状況や薬、ワクチンが良くなっている側面はある」。国立感染症研究所の岡部信彦・感染症情報センター長は、被害想定が過大とする批判に一定の理解を示す一方、「当時に比べ、逆に人口密度は高くなり、交通機関の発達などで人の移動も活発になるなど不確定要素も出てきた」と指摘。「新しいものを想定するときには学問的根拠だけで全てを議論できない。実際に過去に被害があったなら、その被害に備えなければいけないだろう」としている。
国立成育医療研究センターの加藤達夫総長も「海外でも同様の措置を講じている。国家が危機管理をする際、最大限の被害想定をしないのは無責任。“備えあれば憂いなし”でいいと思う」と話す。
◆“水際”必要?
一方で、対策そのものに問題があるとする関係者もいる。特に批判が多いのは海外からのウイルス持ち込みを防ぐ目的で行われる、空港での“水際作戦”だ。
亀田総合病院(千葉県鴨川市)の小松秀樹副院長は「21年の新型インフルで行われた水際作戦では、8人の患者を発見する間に100人がすり抜けたという計算もある」と指摘。その上で「政府は『ウイルスの国内侵入を遅らせる』とするが、遅らせることもできない上、医療側が疲弊して疾病対応能力を奪ってしまう」として、より医療現場に即したルール作成を行うべきだと訴える。
これに対し、法案をまとめた内閣官房新型インフルエンザ等対策室は「ウイルスが入り込むのを完全に防げるとは思わないが、蔓延(まんえん)のスピードを少しでも遅らせ、対策を取る時間を稼ぐ意味がある」と説明。「あくまでも初期段階の対応。合理性がなくなれば措置を縮小する」としている。
【用語解説】新型インフルエンザ
鳥類や豚など動物のインフルエンザウイルスが変異し、人から人への感染拡大が可能になって起こるとされる。ほとんどの人が免疫を持たないために、爆発的に拡大し、パンデミック(世界的大流行)を起こす可能性がある。2009(平成21)年4月に豚由来といわれた新型インフルエンザが米国やメキシコで最初に確認され、瞬く間に世界的大流行となった。
最終更新:3月30日(金)13時4分
新型インフルエンザに対する危機管理の取り組みを定めた「新型インフルエンザ対策特別措置法案」が国会に提出されている様だ。
暗黒の稲妻