日本EV規格「ガラパゴス化」懸念 欧米勢と充電器標準化めぐり火花
フジサンケイ ビジネスアイ 3月29日(木)8時15分配信


拡大写真
試作した電気自動車を発表するシムドライブの清水浩社長=28日、東京都港区(写真:フジサンケイビジネスアイ)
 電気自動車(EV)の充電規格をめぐり、日本と欧米諸国との間で主導権争いが激化しそうだ。政府と業界は日本の規格について官民挙げて国際標準化に乗り出すことを確認、昨年10月に欧米メーカー7社が表明した規格との世界標準を争うことになるためだ。日本勢はすでにEVを商品化した優位性で立ち向かうが、もともと国際規格の標準化では欧米勢の発言力が強いだけに、日本方式が国際的に孤立する「ガラパゴス化」への懸念もくすぶり始めている。

[フォト] トヨタのスポーツカーは何がダメ?「86」復活の裏で開発者ら危機感

 「2015年までに国内のEVの急速充電器を現行の5倍以上の5000基に広げる」。日産自動車でEVを担当する渡部英朗執行役員は今月18日、同社のEV「リーフ」のオーナー向けに初めて開いたイベントでこう宣言した。今夏にはリーフに搭載している蓄電池から家庭内に電力を供給できるシステムを実用化する見通しも明らかにした。

 リーフは国内で1万2000台、世界で2万5000台を販売し、EVとしては最も普及している。急速充電器の設置数も、国内で848基と前年同期より5割近く増えたが、「販売拡大にはさらなる整備が不可欠」(渡部執行役員)と拡充を急ぐ。

 日産が進める急速充電器の規格は10年、同社やトヨタ自動車など主要メーカーが中心となり設立した「CHAdeMO(チャデモ)協議会」が決めた。これには仏プジョー・シトロエングループ(PSA)や独シーメンスなども参加している。

 今月26日には日本自動車工業会の志賀俊之会長が古川元久国家戦略担当相と会談し、チャデモ方式の国際標準化に向けて官民挙げて取り組んでいくことを確認した。

 同方式はすでに、欧州中心の標準化団体であるIEC(世界電気標準委員会)や米SAE(自動車技術者会議)に提出されており、これまでに国内を中心に約1000カ所に設置した実績を武器に標準化に向けた活動に力を入れる。

 これに対し、米ゼネラル・モーターズ(GM)や独BMWなど欧米7社が表明したのが「コンボ」と呼ばれる方式だ。

 両規格の主な違いは、充電器と車をつなぐプラグ形状にある。ともに直流で急速充電、交流で普通充電を行うが、チャデモは直流と交流が別なのに対し、欧米勢は直流と交流を一体化した。充電器と車が相互を認識する通信方式も異なる。

 ただ、コンボ方式の詳細は未定で、この方式を採用したEVや充電器はまだ存在しない。

 もともと欧州勢は、「EVは走行距離に制限があり、都市間の移動手段として夜間の普通充電で事足りる」(BMW)との見方が多かった。にもかかわらず欧米勢が新たな規格を持ち出したのは、「コンボ方式はプラグ面積をとらず効率性も高い」ことなどを挙げている。

 ただ、その裏には「EVで実質的にリードされている日本に対して、政治力で対抗していくことを鮮明にした」(住商アビーム自動車総合研究所の本條聡所長)との見方が一般的。市販のEVで先行する日産と三菱自動車つぶしともいえ、「日本に主導権を握らせないという面子を保つためではないか」(業界関係者)との声もある。

 日本と欧米の規格争いについて、BNPパリバ証券の杉本浩一シニア・アナリストは「電圧やプラグ形状の違いなどを考慮すれば、チャデモ規格で全世界を網羅するのは無理がある。当面は日本と欧米の規格が併存するのではないか」とみる。日産のカルロス・ゴーン社長も、「しばらくは2つの標準規格を受け入れていくことになる」と冷静な姿勢をみせる。

 それでも、世界標準への期待は大きい。「数少ない日本独自の規格だから、世界に普及させたい」。1回の充電での走行距離が351キロと長いEV試作車を発表したEVベンチャーのシムドライブ(川崎市幸区)の清水浩社長は28日、日本の技術の優位性を強調した。チャデモ協議会の会長でもある自工会の志賀会長は5月で自工会会長を退くが、「チャデモの会長は是が非でもやり抜く」と、同規格の普及に意欲を燃やす。

 世界標準をめぐっては、日本の携帯電話は優れた技術を持ちながら国際的に受け入れられず、日本でしか通用しない“ガラパゴス化”した苦い経験を持つ。充電規格がもしガラパゴス化すればメーカーは充電機構や設備変更などのコスト負担を強いられる。国際的な標準化機関は欧米勢の発言力が強いが、充電規格ではそれを覆す周到な戦略が求められる。(阿部賢一郎)

最終更新:3月29日(木)10時8分

電気自動車(EV)の充電規格をめぐり、日本と欧米諸国との間で主導権争いが激化しそうだだようだ。

暗黒の稲妻