「N極だけの磁石」をつくるには モノポールの出現方法が解明された
科学雑誌Newton 3月26日(月)15時47分配信
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棒磁石ではN極から出た磁力線はS極に戻る。N極モノポールでは磁力線は周囲に出ていく一方だ。
磁石はどこまで小さく割っていっても,かならずN極とS極がペアになって存在している。N極だけ,S極だけを取りだすことは通常はできない。しかし,実は特殊な条件がそろうと,N極だけ,S極だけで自由に動く「モノポール」が出現しうるという。このたび,モノポールを物質中で実現する方法が計算でみちびかれた。

■ 電気と磁気はよく似ているが…
 鉄芯にコイルを巻いて電気を流すと,鉄芯の両端にN極とS極があらわれ,電磁石になる。逆にコイルの中で棒磁石を動かすと,コイルに電流が流れる。このように電気と磁気は深く結びついており,よく似た性質をもっている。

 ただし,電気と磁気では大きくことなる点がある。電気の場合,マイナスの電気をおびた電子や,プラスの電気をおびたイオンなどがそれぞれ自由に動きまわれる。一方,磁気の場合,N極とS極がかならず一組になっていて,分けることができないとされているのだ。しかし電気と磁気の性質がよく似ているのなら,N極だけ,S極だけをもち,自由に動きまわれる「単極の磁気粒子(モノポール)」も存在するのではないだろうか?

 宇宙の誕生直後,宇宙空間の膨張にともない,モノポールができたとする理論的な予測はある。しかし,このモノポールはいまだ見つかっていない。

■ 磁石と白金の間にモノポールがあらわれる!?
 実は,モノポールは物質中にもあらわれる可能性があるという。首都大学東京の多々良源准教授,日本学術振興会の竹内祥人特別研究員PDらのグループは,白金と磁石を重ねると,その境目でモノポールが出現しうることを理論的にみちびき,2月27日に日本物理学会欧文誌(JPSJ)電子版で発表した。

 これまでにも,物質の内部でモノポールをつくる方法は考案されていた。しかし,非常に特殊な構造が必要なため,事実上,実現不可能だったという。

 今回の成果は,2006年に報告された「スピン(後述)の流れ」によるとされる現象を,「モノポールの流れ」と考えた方が理にかなうことを指摘したものでもある。物質中のモノポールの実現に向けてはずみがつきそうな成果だ。

 では,モノポールはどのようにしてつくられるのだろうか?

 白金のような金属は,無数の原子でできており,その間を電子が自由に動きまわっている。電子は,小さな磁石としての性質(スピン)をもつ。永久磁石が磁力をもつのも,内部に“極小の磁石”としての電子が無数にあるためだ。

 多々良准教授らによれば,磁石と白金を組み合わせた構造で磁石の方向をゆすると,電子のスピンが磁石と白金原子の影響を受け(スピン軌道相互作用),特殊な首振り運動(歳差運動)をはじめる。このときスピンの複合構造としてモノポールがあらわれるという。

■ 初期宇宙のモノポールとの共通点
 今回のモノポールは,初期宇宙でのモノポールと同じものなのだろうか。
「モノポールに特有の,N極だけ,S極だけのときに生じる磁力線を周囲にともないながら運動する点では同じです。また,空間やスピンの“変化”(対称性の破れ)からできる点も共通です。ことなる点は,初期宇宙のモノポールの生成には莫大なエネルギーが必要ですが,物質中では人間でもつくることができることですね」(多々良准教授)。

 今後,多々良准教授らは,実際にモノポールを観測することをめざしているという。続報を期待したい。

最終更新:3月26日(月)15時47分

非常に興味深い記事。

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