南極観測船「しらせ」、かじ損傷 船内越冬・救援を一時検討
産経新聞 3月18日(日)7時55分配信


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かじの一部を損傷する被害を受けた観測船「しらせ」 =平成22年12月23日撮影(写真:産経新聞)
 ■「過去に聞いたことない」

 第53次南極観測隊の支援のため昭和基地に向かい、厚い氷に阻まれ18年ぶりに同基地への接岸を断念した南極観測船「しらせ」(中藤琢雄艦長、1万2650トン)が、日本への帰還途中に定着氷の中で障害物にぶつかり、かじを損傷していたことが17日、分かった。しらせは同日、自力で氷海を脱しオーストラリア西部のフリーマントルに入港したが、氷によるかじの損傷は「過去に聞いたことがない事態」(防衛省関係者)。防衛省は一時、救援のため輸送艦など2隻を南極に急派し、氷が緩む今年の年末まで乗組員の一部を船内で越冬させることも検討した。(芹沢伸生)

[フォト]昨年「しらせ」から観測されたオーロラ

 防衛省によると、損傷したのは2枚あるかじのうち右側の1枚。接岸断念後、ヘリコプターなどで昭和基地への補給を終え、日本に向けて氷海航行を始めた2月13日午後、前後進を繰り返し厚い氷を割る「ラミング砕氷」で後進した際、障害物に衝突し右側のかじがきかなくなった。氷にぶつかった可能性が高く、その後は壊れたかじを直進方向に固定。左のかじだけで操船を続けてきた。

 関係者によると通常の航行には支障はないというが、防衛省はしらせから「応急処置は不可能」との報告を受け、南極で長期間、氷に閉じ込められるケースも想定されると判断。輸送艦「おおすみ」と補給艦「ましゅう」を、現場まで救助に向かわせる方向で調整を開始した。

 この2隻は砕氷能力はないが、しらせの位置が定着氷の端近くだったため、氷の縁まで接近し、ヘリで物資や人員を輸送する方法を検討。しらせには必要最小限の乗組員を残すとし、前例のない氷に閉じ込められた艦での越冬も視野に入れた対策まで練られた。

 このため、極地の航海に不可欠なしらせ勤務の経験を持つ自衛官の招集を急ぐとともに、両艦に寒冷地対策を施す作業にも取りかかっていた。そうした中、しらせは今月4日に氷海の脱出に成功。今後は片方のかじで日本に向けて航行し、4月9日に東京・晴海に戻る予定で、その後、修理されるという。

 ■氷厚6メートル超「異常事態」

 昭和基地周辺では近年、海氷の厚い状態が続き、年を追うごとに厳しさを増している。今年1月、昭和基地の「北の浦」では海氷が厚さ5・84メートルを記録。しらせが停泊した同基地の西北西約21キロでは、薄い場所で4・5メートル、厚い場所では6・2メートル。さらに氷上の積雪も1メートルを超えていた。

 第52次観測隊員で、昨年3月まで南極に出向いていた、北海道教育大の尾関俊浩准教授(雪氷学)は「昨年よりも厚くなっている。理由は分からないが異常事態」と話している。

【用語解説】しらせ

 平成21年5月に就役した南極観測船。宗谷、ふじ、先代しらせに続く4代目観測船。世界屈指の砕氷力を誇り、厚さ約1・5メートルまでの氷中を時速約5・6キロで進む。船名は日本の南極探検の先駆者、白瀬矗(のぶ)陸軍中尉にちなんだ南極の「白瀬氷河」に由来する。

最終更新:3月18日(日)12時14分


 第53次南極観測隊の支援のため昭和基地に向かい、厚い氷に阻まれ18年ぶりに同基地への接岸を断念した南極観測船「しらせ」(中藤琢雄艦長、1万2650トン)が、日本への帰還途中に定着氷の中で障害物にぶつかり、かじを損傷していた事が17日、分かったそうだ。

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