月面の磁気異常、原因は小惑星衝突?
ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト 3月13日(火)13時5分配信
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写真の左半分に赤黒く見えているのが、月面上で例外的に磁気の強い部分。(Image courtesy Science/AAAS)
 地球と違って、月には天体全体を覆うような磁場はない。しかし、月の表面にも部分的に磁性を備えた場所がある。これはなぜだろうか。

 パリ地球物理研究所の研究ディレクターであるマーク・ウィツォレク(Mark Wieczorek)氏は、これらの例外的な磁気ポケットは、何十億年も昔、月が磁場を持っていた頃に小惑星が月に衝突したことに起因するという新しいモデルを提示している。

 一般論として、金属を含む岩石を加熱して、その後冷却すると磁性を持つようになる。地球の岩石が磁性を備えているのも、このプロセスによるものが一般的だ。

「地上で確認できる隕石の多くは、金属鉄を豊富に含んでいる。これらは月面上で見られる典型的な岩石と比べて、ざっと100倍は磁気が強い」と、今回の論文の共著者の1人であるウィツォレク氏は説明する。

 月面上で「このような(衝突によって加熱された)小惑星由来の物質が、特定の地域に一定量存在すれば、(月面上の他の地域より)100倍も磁気の強い例外(的地域)が生じるだろう」。

◆月への小惑星の衝突をモデルで再現

 ウィツォレク氏らのチームは、磁性物質が特に多いのは月の南極エイトケン盆地の北側のへりの部分だということも、今回新しく発見している。南極エイトケン盆地は月面上最大のクレーターであり、太陽系全体で見ても最大級のクレーターの1つだ。

 今回の新モデルでは「手始めに、直径200キロの球体を高速で月にぶつけてみる。もちろんコンピュータ上でのことだ。衝突速度と角度によるが、この衝突でできる盆地のへりの部分に、大量の物質が堆積するのを確認できた」。

 具体的には、直径200キロの小惑星が、秒速15キロ、45度の角度で月に衝突した場合に、月の土壌を掘り返して直径1200キロのクレーターができるという結果が得られた。

 このとき磁気を帯びた小惑星の破片が、クレーターのへりの部分一帯の土壌深くに堆積したのではないかとウィツォレク氏らは見ている。

◆他の惑星の磁気異常も説明できるか?

 太陽系の他の惑星に見られる局所的な磁気異常についても、今回の研究成果によって説明できる可能性があるとウィツォレク氏は付け加えた。

 例えば、「現在の火星には単一の(惑星全体にまたがる)磁場は存在しない。(しかし)月と同様に、火星の表面にはこうした強い磁場が点在している」。

 火星の北半球の大部分は、比較的新しくできた低地帯であり、より大規模な小惑星衝突の残骸を含んでいる可能性があるとウィツォレク氏は言う。それを裏付けるかのように、「これらの磁気異常は、この盆地を取り囲んで存在することが分かった」。

 その一方で、水星には惑星全体をおおう磁場が存在するが、水星が多数の小惑星の衝突を受けてきたことを示す痕跡も見られる。水星の表面にも同じような磁気異常が見つかったとしても驚くには当たらないとウィツォレク氏は言う。

 今回の月の磁場に関する研究は、「Science」誌3月9日号に掲載された。

Rachel Kaufman for National Geographic News

最終更新:3月13日(火)13時5分

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