「もい!」「にゅっと!」──Twitterのフィンランド人気と大使館の「デジタル外交」
ITmedia ニュース 3月5日(月)11時4分配信


駐日フィンランド大使館のTwitterアカウントは期間限定で「スオミネイト」アイコンになっている。フォロワーは3万を超えた
 「もい!」「にゅっと!」──今、Twitterになぜかフィンランド語があふれている。ブームの震源地は、愛称「フィンたん」こと「駐日フィンランド大使館」の公式アカウント「@FinEmbTokyo」だ。女子力を高めるフィンランド日常会話から、アニメ「ストライクウィッチーズ」まで、幅広い話題をつぶやいてブレイク、フォロワー数は3万を超えた。お堅い大使館というイメージを覆すフィンたん。実は、IT先進国であるフィンランドの「デジタル外交」という重責を担っていた。その素顔に迫ろうと、東京都港区にあるフィンランド大使館を訪ねてみた。

【写真:擬人化キャラのイラストコンテストは現地新聞でも取り上げられた】

 まず出迎えてくださったのは、ミッコ・コイヴマー参事官。2010年11月に着任以来、フィンランド大使館におけるソーシャルメディア戦略を手がけてきた。

 フィンランド大使館によるソーシャルメディアの活用が最初に注目されたのは、1年前の東日本大震災。「携帯電話もつながらない中、Facebookを利用して積極的に情報発信をしました。フィンランド国内メディアも外務省も、東日本大震災に関する情報はFacebookを見てくださいと呼びかけ、とても注目されて500人だったファンが4500人になりました」と振り返る。

 Twitterの公式アカウントは当初、Facebookの更新情報を自動的に流すためだけに使われていたが、昨年11月に独立、本格的な運営をスタートした。

 「フィンランド語のあいさつ、Moiのバリエーション。Moi!(もい!基本形) Moikka!(もいっか!ゆるふわ系) Moikkelis!(もいっけりす!おふざけ系) Moi Moi!(もいもい!さよなら系) Moido!(もいど!じゃあね系) Mo!(も !おっすおっす系)」

 「『なう』に続いて『にゅっと』が流行ったら、フィンランド大使館職員一同嬉しいです」

 「フィンランド人はビックリすると「おほ(oho)」と言う。かわいい女の子からゴツいおじさんまで」──など、ひらがなで表記された日常会話がゆるくてかわいいと評判が広まった。

 また、「フィンランド伝説の狙撃手、Simo Häyhäはシモ・ヘイヘではなく、実際には『シモ・ハユハ』と読みます」といった豆知識を披露したり、フィンランドの撃墜王・ユーティライネンがアニメ「ストライクウィッチーズ」で萌えキャラ化しているのを知っているかという質問に対し、「すでに把握しております」と回答したり。大使館というお堅いイメージを払拭するフレンドリーなつぶやきでますます人気が上昇、「フィンたん」との愛称で親しまれ、現在ではフォロワー数は3万を超えた。

 「Facebookは日本語やフィンランド語、英語でも発信していますが、Twitterは日本語だけです。日本人の方に対して特化した、新しいアプローチでフィンランドの情報を伝えています。そして、ただ伝えるだけではなく、話し方もかなりフレンドリーでインタラクティブ。質問があれば、できる限りお答えします。『デジタル外交』ですね」とコイヴマー参事官は説明する。

 フィンランドは、IT先進国としても知られる。携帯電話の世界大手Nokiaを擁し、IT技術を学んでほしいと国外からの留学生を積極的に受け入れる国家的プロジェクトも立ち上がっている。ゲーム開発も盛んで、6億ダウンロードを記録したアプリ「Angry Birds」もフィンランド発だ。

 フィンランド外務省は、2、3年前から大使館による情報発信をソーシャルメディアに移行する方針を打ち出している。災害や暴動など有事の際は、緊急の情報伝達のチャンネルに使われているという。そんな各国フィンランド大使館の中でも、日本のフィンランド大使館は、Facebookのファン数もTwitterのフォロワー数もトップを独走。その見事なデジタル外交の手腕は、フィンランド国内でも注目を集め、高い評価を得ている。

 「これまで、国や関係機関はFacebookやTwitterを使ってきましたが、ソーシャルメディアの性格に合った方法とはいえず、堅いイメージが多かった。しかし、私たちは日本のTwitterではどんな話し方が良いか考え、普通の政府機関よりも敷居を低くして、楽しくて面白い、そしてインタラクティブなアカウントにしようと思いました。それが、日本の方々との距離感を縮めることになりました。フィンランド外務省の中でも『うらやましい』と言われます」と笑顔のコイヴマー参事官。他にも、成功の理由がある。

 「フィンランドでは有事の際、FacebookでもTwitterでも、どのような情報を伝えるか、その国の大使館が独自の判断で決めることができます。時差もありますし、本国の承認を待っていてはソーシャルメディアのスピードに乗ることはできません。私達は、ソーシャルメディアによって、多大な時間や労働力をかけずに情報を伝えることができると証明しました。東日本大震災以降の駐日フィンランド大使館による情報発信は、デジタル外交を実現させた先駆的な例として、フィンランド国内でも素晴らしいと注目を浴びています」

 Nokiaやムーミン、デザインなど、もともと日本でフィンランドに対するイメージは「ポジティブだった」という。「国土は日本と同じぐらいの面積ですが、人口は日本より少ない530万人で、地理的にもかなり遠い。それにも関わらず、アジアで日本ほどフィンランドに興味を抱いてくれている国は他にありません」とコイヴマー参事官。「フィンランドの持つポジティブなイメージの上に、私たちがTwitterを活用することにより、さらに新しい方々とふれあうことができました。大使館の目標は、多くの方にフィンランドに興味を持って頂き、友達になってもらうことです。フィンランドの新しい情報を多面的に伝えていきたいと思っています」

 さて、そんなデジタル外交の重責を担うフィンたんは、どんな方なのか? コイヴマー参事官によると、「職員であることは確かですが、素顔は内緒」とのこと。フィンランド名物、神秘のオーロラに包まれているらしい。

 ちなみに、フィンたんは最近、「フィンランド語では恋人や自分の子供のことを呼ぶとき『Kultaくるた』と言います。女子力を高めると『Kultsiくるつぃ』。僕は久しく耳にしていない単語です…」とつぶやいていた。フォロワーの女子の皆さん、フィンたんに「ねえ、くるつぃ!」と声をかけたら、恥ずかしがらずにこっちを向いてくれるかもしれないです。

最終更新:3月5日(月)11時59分

立派な外交だね。

暗黒の稲妻